2017年05月15日

一本の電話(太陽の都シリーズ)


去年は夏以降、英語訳に気がいってしまったので、けっこう間が開いてしまった「太陽の都」。
#05のつづきです。


Rough Sketch for "Civitas Solis" #05
http://tavola-world.seesaa.net/article/441014049.html




その日、「ビロビジャンの月」編集部は静かな熱気に包まれていた。記者たちが放つ集中力が部屋の中で充満し、室内は焼石を置き並べた木小屋のように蒸し暑かった。十五時をまわって間もなく、部屋の奥に架かる時計の針三本全てが重なったまさにその瞬間だった、編集部に一本の電話が入った。クロームイエローの受話器は耳当て側がやや下に傾きながらも台座から数センチ浮き上がり、ベルの音がフロア全体に鳴り響く。しかし、誰もその音には反応しなかった。いつもなら、呼び出しベルが二回と鳴らないうちに、必ず誰かが我先にと競いあうようにその受話器をとっているはずなのだが、この日、この時間に限っては、まるで部内の全員が一斉に聴覚不全にでも陥った風の態度をみせていた。机の前にいた記者たちは皆、記事の締め切りに追われ、原稿の最終仕上げに取りかかっていたことを誰もが自覚していた。そしてそれを暗黙の言い訳として用意し、まるで、先に受話器に手を伸ばした者が最初の脱落者になるのだといわんばかりの空気を漂わせていた。そんなことはつゆしらず電話はただひたすらに鳴り続ける。

そして、この音に最も早く、敏感に反応したものが唯一いた。天井からするりと糸を垂らした一匹の蜘蛛。埃のかぶった書類の隣に置かれた電話機を最初の着地目標に定め、それをめがけて尻から牽引糸を静かに吐き出したところだった。そして、あと寸前のところで当初の目的を無事果たすところだった。彼の座標計算に全くの不備はなかった。ただ、運悪くその着地点になるはずの電話が突然激しく鳴っただけ。けたたましいベル音は近くの机上にあった全ての書類を震わせた。蜘蛛はこの音にあわてふためき、尻から糸を吐くのを止めた。これがもう少し遅れていたのなら、真下から勢い良く飛び跳ねた受話器にあやうく身体がぶつかるところだった。蜘蛛は身体をねじり反転させ、自分の吐いた糸をつかみとるや、全ての手足を使ってよじ登ろうと懸命に動かす。しかし、あまりにも勢いを付けすぎたせいで、足の鋭い爪でその糸のねじれ構造を裂いてしまった。最高級のヴァイオリンの弦として重宝される蜘蛛の糸だから、簡単にちぎれてしまうことはなかった。しかし、美しい倍音を奏でるはずの細い螺旋状のねじれ糸は無惨にもバラバラになり、おぞましい低音を放つただの寄り合わせになってしまった。必死で天井へとかけ登る蜘蛛。足の爪が糸をはじき、鈍い音を鳴らし続ける。響き渡るこの不安を誘う音に驚いたのが、書類の間で羽を休めていた羽虫たちだった。彼らは聞きなれない音に恐怖を抱き、窓の方角めがけ一斉に逃げ始めた。夕方のやわらかな光の入る窓枠は、羽虫たちの逃避行による右往左往で、なにやらきらきらと光輝くのだった。


ベル音は、はじめのうちにあった甲高さがいくぶん和らぎ、ややトーンの失せたものに変わっていった。それが、熟練交換手による気配りだったということには、もちろん誰も気付いてはいない。誰もが耳慣れて聞こえなくなったのだろうという程度でしか意識してなかった。部屋には、ただタイプライターを打つ音だけが響いていた。不規則性から生まれる規則的なタイピング和音は、まるでどこかで誰かが誘導しているかのようなうねりをつくり、軍隊の行進が外で行われているのだと錯覚しそうなほどだった。部屋では、激しさと静寂のコントラストがまんべんなく響いていた。

鳴りやまないベルにしびれをきらし、ようやく受話器を取ったのはヴィニ・オライリーの同僚記者フーダレイ・ハウワットだった。サム・スペードばりの尖った顎に重そうなまぶた、ダークブラウンの短い髪は毎日のようにはねる角度が変わり、街角に立てばなぜか鳥たちが寄ってくる。なもんで愛用している千鳥格子柄のスーツは半月も経たないうちに、鳥の足跡模様に変わってしまう。そして岩石が乗ったかのようないかつい肩をしているわりに、女性的なか細い文字を書くことで編集部内では通っている。

「はい、ビロビジャン編集部、どちらさん?」
「…」
数秒間、相手からの返事はなく沈黙だった。
「もしもし? つながってんの? こちら、ビロビ、」と言いかけたところで、はじめて電話先からの反応があった。

「あ、もしもし。ビロビジャン編集部なんだね」
「ええ」
「ふう、やっと通じたさ。いやまいった、呼び出し音をずっと聞いているうちに、ついうとうとしてしまって」
相手の声には、編集部の喧噪とは正反対の穏やかさがあった。

「なるほど。それじゃ不眠症は治ったのかい? まぁもし、いつかまた眠れなくなったときは、どこかにかけるといいよ。今度はうちの編集部を外してもらいたいけど。それでどちらさん?」
「ああ、私はダスティン・フーヴァー、わかりますかな?」
「何? 掃除機のゴミ(Dust in hoover)? 清掃業者のセールスならお断りだよ。こっちは、いくらきれいに片付けをしたって、次の日にはもう書類の山で埋もれてしまうようなところなんだから」
「いや、私はその、清掃業者でもセールスマンでもないんですが」
フーヴァー氏はひと呼吸おき続けた。「ダス・ティン・フゥー・ヴァー」今度はゆっくりと、そして最初の母音にアクセントを置き、Hをはっきりと発音した。
「私は以前に、そちら『ビロビジャンの月』でも紹介されたことがあるんです。紙片収集家のフーヴァーといえば、きっと思い出してもらえるのかもしれません」
フーダレイはかすかにその名前と、この男に関した記事を読んだ記憶があるように感じた。しかしはっきりとした内容までは思い出せなかった。
「取材の担当者と変わった方がよいですか? フーヴァーさん」
「いえ、その必要はないです。電話したのは、それとは別で調べてほしいことがあるからなんです」
「調べてほしいこと?」フーダレイは聞き返した。そして反射的に腕を伸ばしペンを手に取った。
「ええ、実は最近、市場で奇妙なものを手に入れまして。それが、、と。今までに見たことも、聞いたこともないようなものなんです」
「というと、どんなものですか?」
「ええ…」フーヴァー氏は、しゃべるのをためらうように言葉を濁した。
「何かとんでもないものなんですか? 紙片収集家が解読できないような、例えば暗号のようなものとか」
「いえ、そういうわけでは。ただ、何というか、何といっていいか、なんとも説明しにくいものでして。ただ私の収集対象からはかけ離れたものなんですが、触れた瞬間に、とてつもなく魅了されたことだけは確かなんです。」
「んー、それだけじゃ難しい。もう少し詳しく言っていただかないと、こちらも何といっていいのやら」
フーダレイはちらりと時計を見やった。書きかけの原稿を仕上げなければならないことを、心の中でつぶやいた。電話ごしの言葉尻が少し荒くなったことに自分自身、気付いたのだった。
「そうですよね」一間おいてフーヴァー氏は続けた。「ぱっと見は、アクセサリーのようなものなんです。ネックレスみたいなものだと思ってもらえれば。私もはじめは、珍しい形のアクセサリーだと思って手に取ったんですが。ただ、その素材がですね、何か見たこともないものなので、一体全体何なのか? 遺跡から出てきたもののようなんですが、古代の装飾品にしては新しすぎるといいますか…」
「高級なもの? 精密なプラチナ製のジュエリーみたいな?」
「いえ、金属ではないです。プラチナや金なら私にもわかります。それが、ガラスのような陶器のような不思議な質感をもっているんです」
「うーん、では、竜延香みたいなもんですか?」フーダレイは混乱しながらも聞き返した。
「いえ、その類でもないんです。でも確かに雰囲気としては似ている気がします。でもゼリーにも似た触感もあったりしてですね、本当に奇妙なものなんですよ」
「それなら骨董商に持ち込んだ方がいいんじゃないですかね。私たちは確かに毎日毎日多くのニュースを扱ってはいますがね、より専門的なことはやはりそれぞれの専門家に尋ねているんで、仔細なことを知りたいんでしたら、わが社ではわかりかねます」フーダレイは室内を見渡し、手助けを求める視線を誰かに送ろうとしたが、誰とも目が合わなかった。むしろ、自分ただ一人が手を休め電話で話しているという事実を確認しただけだった。
「ええ、私もはじめそうしようと思ったんですが、ひとつ引っかかるものがありまして。そちらにまずお尋ねしひとつ、私の仮定を検証してみたいという誘惑に駆られたわけなんです」
フーヴァー氏はフーダレイの返事がくる前にさらに続けた。
「えーと、そのですね。たしか『ビロビジャンの月』では古いタイプライターを使っていると、確か以前コラムで読んだことがあるんです」
「タイプライター?」フーダレイは、ふいを突かれたように聞き返す。まったく予想すらしなかったこの言葉に一瞬目を丸くし、今までの会話とタイプライターが一体どういう風に関係しているのかを考えてみた。がしかし何一つつながりになるものを思いつかなかった。
「タイプライターなら皆使っていますよ。それに保管庫にいけばホコリのかぶったものがいっぱいある」
フーダレイのこの一言は、電話先で耳を傾けているフーヴァー氏にがっしりと受け止められる確かな感覚があった。
「やっぱり。いや、よかった。そこでですね、ひとつお願いがあります。まず、この奇妙なものを一度見ていただきたい。記事になるかどうかはわかりませんが、私の直感から言うと何か話題になる要素を持っている気はします」
フーダレイはフーヴァー氏の話よりも、迫りつつある記事の締め切り時刻の方が気になっていた。そして、もうそれに取りかかるべきだと判断し、はやく切り上げようした。
「わかりました。では、近い内に取材しましょう。場所はどこが良いですか?」
「ありがとうございます。では、まずこれを手に入れた市場から案内して、そのあと私の家でお見せしたいと思います。どうも、外に持ち出すのにためらいがあるもので」
「ええ、もしかすると大変貴重なものかもしれませんしね」
フーダレイは会話がスムーズに流れ、早く終わってくれるように限りなく平坦な声で答えた。
「そのときにですね、タイプライターで打った文字をいくつか持ってきていただきたいんです。各タイプにある全ての文字・記号を打って」
「は?」またも不意をつかれたフーダレイ。フーヴァー氏はさらに続けた。
「できれば、タイピングは幾種ごとに分けてもらいたいんです。もし、探していただけるのなら限りなく古い機種なんかも。『L.C. SMITH社』の8番、『UNDERWOOD』社のロイヤル・スタンダード、あと『オリンピア』社のSM3。この三つがあると、おそらく解読がもっと早くなりそうな気がしています」
フーダレイは自分の目の前にあるタイプライターを見て、それが何社のどの機種なのかを確かめた。今までに、そんなことを気にしたことなんて一度もなかったのだ。
「では、そのお望みの機種を探してみましょう。ただ、それが何か役にたつんですかね?」フーダレイはまったく検討がつかず、いつものクセで自分の鋭い顎を親指の腹でこすり続けた。
「ええ、おそらくですが。それが鍵になると思います」フーヴァー氏の声には、確信めいた強さがあった。
「日程ですが…」
フーダレイは手短に取材の日にちの取り決めをし、電話を切った。少し話疲れた様子で、ぼんやりと書き記したメモを見つめながら、目の前にあるタイプライターをおもむろに二三度はじいた。

2BC.

(つづく)

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2017年05月06日

モリッシーのマトリックス・メッセージ、2017

TheSmiths-BoyThorn-ep-Matrix-2017.jpg
* 画像は右リンクから:http://tagong-boy.tumblr.com/post/160302523301/


ザ・スミスは4月22日の今年のレコード・ストア・デイに未発表トラック2曲を収録した7インチをリリースしている。

この7インチはUKのみでのリリースとなっているが、レコードの盤面には「Trump Will Kill America(トランプがアメリカを殺す)」とエッチングされているという。



ザ・スミス、新発売の7インチに「トランプがアメリカを殺す」と記されていることが明らかに
(NME.jpより)http://nme-jp.com/news/37182/


レコードを大雑把に外周から見ていくと、音の刻まれているギザギザした細い溝(グルーヴ)があって、その次に「デッドワックス」と呼ばれる黒い平坦な部分があり、そして紙の貼られたレーベル面、最後に盤の中心の穴「センターホール」とおおよそこの4つのパートに分けられる。その中の余黒部分「デッドワックス」のわずかな隙間にはレコード盤に関する色々な情報が刻まれていて、たいてい暗号のようなアルファベットや数字が並んでいる。この記号・数字の配列は「マトリックス・ナンバー」と呼ばれるもので、解読すると、そのレコードがどの工場で製造され、どの型(スタンパー)を使って何回目にプレスされたものなのか? またさらに、誰がカッティングしたかという事までがわかるようになっている(カッティング・エンジニアの腕によって音質が変わるため、ここにあるエンジニア名サインを重要視しこだわるマニアやコレクターは多い。当然レコードの取引価格にも影響してくる)。レコードの出生証明書みたいなもの。本でいえば、版や刷、編集者や印刷所等々の情報が記されている奥付にあたるところだ。

ザ・スミスのレコードは、デッドワックス部のマトリックス・ナンバーのすぐ近くに、モリッシーによる短い英文がいつも刻まれていて、この隠れたメッセージを読むのがファンの間ではちょっとした楽しみだったりした(ザ・スミス以外にも、レコードにこのマトリックス・メッセージを刻んでいるミュージシャンはわりといる)。例えば、ザ・スミスの「Shakespeare's Sister」という曲の12インチでは "HOME IS WHERE THE ART IS(home is where the heart is のもじり。安らげる場所は自分の中にある、の意。誰かの引用なのかな?)" だったりと、直接曲と関連しているのかいないのか良くわからない意味深なものや、初期シングル「William, It Was Really Nothing」のマトリックス・メッセージのように、ちょっとここで書けない類の英国人らしいきついジョークもあったりする。

さて、先月4/22に「レコード・ストア・デイ」という全世界同時開催のレコードの祭典的なイベントがあった(2007年に創設、2008年からスタートし以来毎年やってる)。毎年4月の第三土曜日がその日らしく、この日に限定のシングルやアルバムなどが一斉に発売され、年を追うごとに知れ渡り賑わってきているみたいだ。


レコード・ストア・デイで販売されたアイテムの中には既にネット・オークションに出品されているものがあり、なかには200ポンド(約28000円)の値を付けているものもあるという。


と、上記事の中にもあるように、この日発売されたレコードたちはさっそく売りに出され、プレミアが付いてより大きく話題になるなど、今の時代だなぁなんて思ったりする(もちろん大部分はファンたちのレコード棚にちゃんと収まっているのだろう)。ザ・スミスは1985年にリリースしたシングル「The Boy With the Thorn in His Side」に収録していた2曲の未発表音源を、レコード・ストア・デイ限定盤として発売。これもすぐさまネット・オークションに出ているものがあって、直後は50ドル前後まで値が付いていたが、今は落ち着いて30-40ドル前後の間で取引されている。元の販売価格は8.99ポンド(約1,300円)だった。わずかながらのプレミア価格があることは、未だ根強いファンがいる確かな証拠だし、プレス枚数が求める人の数に追いついていない表れでもあって、オークションでのせめぎ合い(入札数)を見ていると、ファンの熱量みたいなものが冷静に数値化されているようで面白いものがある。こうして売り買いしていくうちに、変動幅が少なくなって適正な価格帯に収斂し、最もふさわしい値段として定着していく。そういう瞬間を目の当たりにできるのもまた貴重に思えたり。
ザ・スミスは、オフィシャル・リリースとしての未発表音源が少なく、彼らはリミックス・ヴァージョンなども嫌っていたため、レコード・アイテム的に極端なレア物というのがあまりない。なので今回のリリースはファンにとってはすごく嬉しいもので、僕もちょっと反応してしまった。A面タイトル曲のデモ・ヴァージョンは、さほど違いのないものだったが、B面収録の「Rubber Ring」(Early Drone Studios Version)は、ストリングスが少し生々しく(ラフで)けっこう良かった。
今回ザ・スミスが話題になっていたのはプレミア化したレコードじゃなく、シングル盤に刻まれたモリッシーのトランプ大統領に関するマトリックス・メッセージだった。モリッシーは、以前にも「Margaret on the Guillotine(マーガレット・サッチャーをギロチン台に)」というような曲をいくつか書いているから、さほど驚くこともないが、こうした姿勢の変わらなさの方にかえって驚異を感じてしまったり、若干僕の方が変わってしまったのかな? なんて風に思った。僕も若いときは、モリッシーのメッセージやインタビューなんかを読んでずいぶんと共感したし、きっと若い人は同じように自分の好きなアーティストやミュージシャンたちから無条件的に影響を受けるんだろうとは思うが、政治や経済の仕組みを少しづつ理解していくほどに、世の中そう単純に二元化し、切り分けて考えていいものなんだろうかと思うようにもなる。塩化ヴィニールに彫られた短いメッセージは、前世代のツイートみたいなもので、トランプのやっているTweeterといい勝負かも。


レコード鑑定の基礎知識「How to identify vinyl records?」
http://zauberflote.squares.net/record/record.html


The Smiths - Rubber Ring (Early Drone Studios Version 7" Rip)
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2017年05月04日

きっかけは社会の先生のひと言だった



『ストップ・メイキング・センス』ほど、不気味な始まりかたをする映画はない。


この作品に対する賞賛の多くは、もちろんトーキング・ヘッズに向けられたものである。彼らは当時、アルバム「スピーキング・イン・タンズ」と、ヒットシングルである「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」の成功が高く評価されていた。

しかし、その映像の素晴らしさの大部分はデミに由来するものだ。彼がバーンとつくりあげたライヴ映像は、それまでのものとはまったく違っていた。そして、それ以降のものとも。



追悼、ジョナサン・デミ──ライヴ映画『ストップ・メイキング・センス』の“魔術”が残したもの
http://wired.jp/2017/05/02/jonathan-demme-stop-making-sense/


先月末、映画監督のジョナサン・デミが亡くなった。僕は数日経ってこのニュースを知る。それも、ネットで調べものをしていたときにヒットした、全く知らない人のBLOG記事をいくつか見ていたときだった。ネット時代の偶然だなぁとか思いながら、デミが監督したライヴ・ドキュメンタリー映画「STOP MAKING SENCE」を初めて観たときのことを思い出した。
映画はリアルタイムで見たものではなかった。学校でたまたま社会の先生と音楽の話をしていたときに、話の流れで先生が「いい映画があるから今度ビデオを貸してあげるよ」といって渡されたのがこのトーキング・ヘッズの「STOP MAKING SENCE」だった。数日後だったか、一週間後だったかは忘れたけれど、先生は意外と早くにビデオを持ってきてくれた。そして、この映像作品の素晴らしさを熱っぽく語りながら、でも、このビデオは永久保存版やから大事に扱ってくれよと、いかに自分がこのマテリアルを大切にしているかということも最後に忘れなかった。このひと言は先生の思い入れの強さを表しているようで、何か僕の中でひっかかるものがあって、ああ相当ヘッズが好きなんだろうな、と思った。当時僕はトーキング・ヘッズにあまり興味がなく、せっかく貸してくれたのはいいんだけど、どうも積極的に観よう! なんて気にはならず、でも借りた以上は返すときに感想を言わなきゃいけないから、ちゃんと観ないといけないよなぁ、困った。なんて少し気の重さを感じつつ家に持ち帰る。
そんなわけで、夕食後、全く期待もせずにビデオを再生する。僕は、自分の聴きたいレコードがあったので、まぁさらっと観て終わらせよう、だいたいライブの映像なんて、ステージにミュージシャンが写って演奏している姿を撮っているだけだから、どれも同じだろうし。そういう先入観があった。半信半疑、気持ちの中では四信六疑ぐらいだった。だから、いざこの映画が静かに始まると、映像の持つ緊張感というか(それがデミ作品の特徴なのだと数年後に観た「羊たちの沈黙」で分かった)独特のライブ映像世界に、何か今までに無い異質なものを感じ、一気に引き込まれていった。先生が熱く語っていたとおり、いい意味で予想を覆された。
はじめはヴォーカルのデヴィッド・バーンだけがステージに登場し、ラジカセのリズムに合わせて初期の代表曲「サイコ・キラー」を歌う。それが終わると、ベースのティナ・ウェイマスが現れ、今度は二人でアコースティックなバラードをしっとりと歌う。僕はヘッズの曲をほとんど知らなかったので、このきれいなメロディにすっかり聴きいってしまった。そして、次はドラムスのクリス・フランツがやってきてハイテンポでパワフルなビートの「Thank You for Sending Me an Angel」の演奏。これが終わると、ギタリストのジェリー・ハリスンが入りクールなファンク曲「Found a Job」を演奏。ここでメンバーの4人が揃った。こうして次に、コーラス、パーカッション、キーボード等々、バンドの人数がどんどん膨れていき、それに従って演奏も熱く、曲が続く毎にステージが盛り上がってゆく。もちろん観ているほうも、それに合わせて高揚し、あっというまに時間が過ぎてしまう。ほんと一瞬も見逃せない。映像編集の上手さが際立っているのと、斬新な構成に見事にやられてしまい、全部を観終わったあと、もう僕はすっかりとヘッズ・ファンになっていた。



"Life During Wartime" Talking Heads LIVE
7曲目の「ライフ・デュアリング・ウォータイム」。この映画で最初に訪れる山場の曲。みんなが一斉にランニングする姿は、単独で見るとへんてこりんだけど、最初から通してみているとめちゃくちゃカッコイイ。
この曲の歌詞はすごくいいので、年内には訳もしてみたい。


posted by J at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | fav. - sound | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする