2017年12月12日

J.G.バラードのテクノロジー三部作

JG.Ballard-Crash-Concrete-Highrise-trilogy.jpg
" Crash " (1973) / " Concrete Island " (1974) / " high-Rise " (1975)
バラードのテクノロジー三部作。「ハイ・ライズ」は2015年公開の映画化に合わせて文庫が復刊されたが「コンクリート・アイランド」の日本語訳だけは絶版のままなので、英語版で読むしかない。4th Estate版のペーパーバックは約170ページほどだからわりと短め。

上画像のフォントは、下記リンク先の" Arapey Regular (free font) " を使った。
● Fonts by Eduardo Tunni : https://www.fontsquirrel.com/fonts/list/foundry/eduardo-tunni



前にウィリアム・バロウズのカットアップ三部作のペーパーバックを紹介したのを機に、文学系の三部作を集めてみるのも面白いんじゃないかと思って、今回はJ.G. バラードの有名な三部作の一つ、テクノロジー三部作を選んでみた。

William S. Burroughs: The Cut-Up Trilogy(2017年09月21日)
http://tavola-world.seesaa.net/article/453615770.html


日本では「テクノロジー三部作」として知られている「クラッシュ」「コンクリート・アイランド」「ハイ・ライズ」の3作だが、海外では特にそういった呼び方をしている風でもなく、人の欲望が(1970年代頃の)現代社会とテクノロジーによる都市景観の中で、どのような精神・心理状態となり変わっていくのか、といった根底的なテーマを持った作品としてこの三作が括られている感じだ。なので、英語圏では「なんとかトリロジー」といったような固有の名称は存在せず、読者や評者がそれぞれ自分なりに考えた言葉で括り表現しているものが多い。まぁ言い方が微妙に違えども根本的な主旨は同じなので、和製呼称の「テクノロジー三部作」でも差し支えないだろうと思うし、もう日本ではそれで定着してしまったのだから、僕も馴染んだ「テクノロジー三部作」という呼び方を使っている。バラードも、呼び方こそ明言はしてないが、自身の作品とそれが持つテーマをカテゴライズし語っているので、公に三部作としてのくくりが存在する感じだ。「クラッシュ」の序文の中で、バラード自身がこの作品を評している文章があり、次なる2作へとつながる要素が感じられるので以下引用。


わたしが正しく、過去数年間の仕事によって自分の現在が回復されているならば、『クラッシュ』は近、極近の未来を舞台にした、過去の災害小説――『沈んだ世界』『燃える世界』『結晶世界』――の流れにつらなる、現在の災害小説としての地位を占めるはずである。

「クラッシュ」J.G.バラード(柳下毅一郎訳)、より(創元SF文庫・序文・p11)


また「クラッシュ」「コンクリート・アイランド」「ハイ・ライズ」は、三部作とはいっても続き物ではないため、それぞれに登場する人物に共通するものはほとんどない。「クラッシュ」は、交通事故を起こしたジェイムズ・バラードと妻のキャサリン、そして二人の前に現れた不気味な男ヴォーンを巡る性癖妄想譚。主人公のジェイムズはテレビCM制作会社に勤めている。「コンクリート・アイランド」は今(苦労しながら)英語版を読んでるところなので、途中までしかわからないが、ロバート・メイトランドという建築家の男が主人公。メイトランドは高速道路でジャガーを走らせいたが、ある日レーンを突き破って下方の土手に落ちてしまい、そこから出ようとするが…この先どうなるんだろう? 「ハイ・ライズ」はロバート・ラングという医学部の講師が、そこに住めば何でも揃っているという最新型高層マンションに居を移したことから始まる、密室空間サスペンス的な話。現実世界の社会ヒエラルキーが、マンションの階層とリンクして展開する。そして、この高層マンションを設計し、最上階に住んでいるアンソニー・ロイヤルという男が物語の鍵になっている。バラードがそれぞれの登場人物に好んでつける職業(医師、建築家、広告代理店など)に特徴があるという点では、共通項がなくはないかもしれない。
「クラッシュ」は、連作短篇集「The Atrocity Exhibition」の第12章「Crash!」を元にして長篇に書き直されたもの。賛否両論大きく分かれる作品でもあり、一般的な評価として「クラッシュ」はバラードの最高作だという意見も多いんだけど、個人的に「クラッシュ」は読むのが苦痛に思えた作品だった。もし、最初に「クラッシュ」を読んでいたら、他のバラード作品を続けて読む気がしなかったように思う。読む出会い、順番ってけっこう大事なんだよな。



「ハイ・ライズ」と「Disorder」

三部作から少しそれるが、でもちょっと関連した話。「ハイ・ライズ」はジョイ・ディヴィジョンのシンガー、イアン・カーティスが好きだった本の一つとして知られている。そして、彼らの1stアルバム「Unknown Pleasures」の冒頭を飾る「Disorder」という曲の歌詞は、「ハイ・ライズ」に相当影響を受けているのだということを書いているBlogがあるので紹介したい。歌詞の中に出てくる「10階」というキーワードが、バラードの小説「ハイ・ライズ」をなぞっていると指摘しているあたりは、これよく気付いたなぁと感心してしまう。

Disorder――イアン・カーティスとJ・G・バラード(1)(愛語)
http://blog.goo.ne.jp/mstshp/e/1116e150987cd956d0cdcdefb69776ff
予備:http://archive.is/fhxaz



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2017年10月06日

カズオ・イシグロの短編「戦争のすんだ夏」がネットで読める



ノーベル文学賞、今年はカズオ・イシグロなのか。
生まれと育った国が違って、オリジンの方ではない言葉で
生きていくってどんな感覚になるのか気になるところだけど、去年のディランといい、いわゆる典型的な「文学的」なものから、ちょっとずつ選考基準のなかにグローバルな今の社会状況なんかを反映させようとしているのかな、とか思ったり。


"Summer after the War" Kazuo Ishiguro
https://granta.com/summer-after-the-war/

(たまにのぞいてた)イギリスの文芸サイト?「GRANTA」に、カズオ・イシグロの短編が3つくらいアップされている。このサイト、有料じゃないと見れないのもあるけど、けっこういい作家の(収録されてないような)小説やレビューがあって、充実している。New Yorker にあると思ったんだけど、そっちにはなかった。


短編 "Summer after the War" は、小野寺健さん訳による「戦争のすんだ夏」という邦題がついて、1990年12月号の「エスクァイア(Esquire)」に掲載されていたみたいだ。多分、この短編小説、日本ではこの雑誌だけでしか収録されなかった作品だと思う。

カズオ・イシグロ
(翻訳タイトル・リスト)
http://ameqlist.com/sfi/ishiguro.htm



Kazuo Ishiguro, The Art of Fiction No. 196 (the Paris Review)
https://theparisreview.org/interviews/5829/kazuo-ishiguro-the-art-of-fiction-no-196-kazuo-ishiguro?_ga=2.37159971.202434243.1507214976-1146833179.1504634603
つっこんだインタビュー記事で知られる「パリ・レヴュー」のインタビュー。バックナンバーは途中まで読めるが続きは有料だったりする場合が多い。

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2017年09月28日

「侍女の物語」2018年に配信決定!で日本も Hulu える

M.Atwood-Paperback-VintageFuture.jpg
日本の新書とほぼ同サイズの Vintage Future版ペーパーバック。


先月、アメリカで話題になっているネット配信ドラマ「The Handmaid’s Tale 」と、その原作にとなったマーガレット・アトウッドのディストピア小説「The Handmaid’s Tale(邦題:侍女の物語)」の紹介をした。

世界が Hulu えたネット配信ドラマ (25 Aug. 20017)
http://tavola-world.seesaa.net/article/452933779.html


これはアメリカの hulu 制作によるドラマ・シリーズなんだけど、日本の hulu ではその手のオリジナル制作ものを取り扱わないとかいう話らしく、ああ見れないのか、なんてがっかりしていたところ、なんと日本でも配信が決定したというニュースが出てきたので、それを含め改めてもう一度紹介。配信開始の詳しい時期はわからないが、2018年からスタートするのは確か。また先週、エミー賞の発表があり、この「The Handmaid’s Tale 」がいくつかの部門で受賞した。これが日本での配信決定と直接影響しているのかは分からないが、なんとなくタイミングいい。

僕も原作を読みたくなったんで、一冊購入。日本版にするか英語版にするか迷ったけれども、Vintage Futureシリーズのタイトルの中にこの小説の名前があったんで、そっちを選んだ。この Vintage Future シリーズにはSF小説の名作、オルダス・ハクスリーの「Brave New World」や J.G. バラードの短篇集「vermilion sands」、他ザミャーチンの「われら」などがあるのは知っていたが、全部で 9つの作品がありトータル・デザインでパッケージングされていることは知らなかった。また、ブック・デザインにちょっとした仕掛けがあり、前からハクスリーのやつが欲しかったんだけど、そう急ぐものでもないしと思っていた矢先。アトウッドのこの小説がシリーズの中にあったのに気付き、ちょっと意外だったが、手にするいいきっかけになった。
このシリーズ、9冊を揃えそれぞれの裏カバーを繋げ合わせていくと、一つの大きなパターンが現れるというアイデアがあり、さらにスリットの入ったアセテート・シートが本の間に封入されている。このシートを表紙にかざし平行に動かすと絵が動いて見えるという面白いギミックになっている。このブックカバー・デザインについてはまた別に書きたいので、今回はさわりだけ。
それと、このペーパーバック本は一般的なペーパーバックとはサイズが異なっていて、一回りちょいほど小さくちょっとかわいらしい。日本の新書本とほぼサイズが同じだが厚みがある。「A-format(110mm×178mm)」というイギリスの規格サイズに当たるみたいだ(というよりも、新書のサイズがペーパーバックの版型に合わせて始まったようだ)。本のサイズが小さいからそれに比例し、文字もけっこう小さく、英語がびっしりと詰まっている感があって、意外とプレッシャーを感じたりもする。おそらく廉価版的な扱いっぽいので、序文その他の余計なものがなく、本文テキストだけしかない為に、けっこう素っ気無さもあるが、コンパクトにまとまった仕様はデザインを含め楽しめる。残り8タイトルも共通して同じスタイルなのかは不明だが、多分合わしているだろうと思う。

僕がアマゾンで購入したときには在庫が9点ほどあったが、日に日に売れていって一週間ほどで入荷待ちの状態になていた。多分、ドラマ化の効果があるからなんだろうけど、けっこうみんな買ってるんだなと実感。



第69回エミー賞の受賞作が9月17日に発表され、マーガレット・アトウッド『侍女の物語』を原作とする米国Huluオリジナルドラマ「The Handmaid's Tale(原題)」が、ドラマシリーズ部門作品賞、主演女優賞など8部門において受賞作に輝きました。
同ドラマは、日本でも2018年にHuluにより配信開始されることが発表されています。


エミー賞8部門制覇の『侍女の物語』ドラマ、Huluで2018年配信決定!
http://www.hayakawa-online.co.jp/new/2017-09-19-144911.html





 今年のエミー賞のキーワードは、「女性」と「反トランプ」、そして近年話題になることが多い「多様性」は、さらに一歩踏み込んだ形で受賞結果に顕著だった。最も強く打ち出されたのは「女性」で、4つの主要カテゴリーの作品賞は、すべて女性を主体とした内容だ。ドラマ部門は、女性が子供を産む機械とみなされるディストピア小説のドラマ化「ザ・ハンドメイズ・テイル」


第69回エミー賞は女性が勝利した年!反トランプ旋風吹き荒れる
https://www.cinematoday.jp/news/N0094629


追記:

このドラマ、海外では相当話題になっているので、もしかするとノーベル文学賞候補に名前があがってるんじゃないかと思って bookmaker の倍率なんかを調べていたら、今年の5月にアトウッドは、フランツ・カフカ賞(2006年に村上春樹が受賞して話題になった)を受賞していたニュースを見つけた。

Canadian writer Atwood to receive Franz Kafka Prize in Prague
http://praguemonitor.com/2017/05/30/canadian-writer-atwood-receive-franz-kafka-prize-prague


2017 Nobel Prize For Literature
https://sports.ladbrokes.com/en-gb/betting/tv-specials/specials/other-specials/2017-nobel-prize-for-literature/225689183/
アトウッドは現在村上春樹に次いで3位につけている(去年、リストに彼女の名前があったかな? あんま記憶にないけれど)。ドン・デリーロは去年よりぐっと順位が上がっていて、ピンチョンはけっこう下がった。

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2017年09月25日

ナボコフ「アーダ」が新訳で!

book-Nabokov-AdaOrAdor.jpg


『ロリータ』訳者の精緻な新訳により遂に全貌が明らかに!
ナボコフ最大の問題作!


〔新訳版〕『アーダ』ウラジーミル・ナボコフ/若島正訳
https://twitter.com/Hayakawashobo/status/910775948005449728


たまたま本屋さん行ったら、いきなり出てた。



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2017年09月21日

William S. Burroughs: The Cut-Up Trilogy

Burroughs-CutUp-Trilogy.jpg
ペンギン・モダン・クラシックスから出ているバロウズのカットアップ三部作。
表紙は Julian House というグラフィック・デザイナー(自身でレコード・レーベルを運営していてミュージシャンでもある)のコラージュ・イラストが使われている。


現在、バロウズの著作本で日本語訳を読もうと思ったら、デヴィッド・クローネンバーグによって映画化された「裸のランチ」と、処女作の「ジャンキー」他わずか2、3タイトルしか出てなくて、あとは絶版になったまま。中古本屋でも棚に入るとすぐに売れてしまうので、残っているものを見かけたとしてもたいていコンディションの良くないものばかり、だけど値段は相応に、とあって買うには二の足を踏む感じだ。特にバロウズの代名詞にもなってる「カットアップ三部作(ノヴァ三部作ともいう)」の3作品は、「ソフトマシーン」を年に一、二度見かけるくらいで、残り2作の「ノヴァ急報」と「爆発した切符」に関しては、僕は売っているところを見たことがない。今、この三部作を新訳で復刊したらきっと話題になると思うんだけど。

河出文庫の「裸のランチ」を読んでみると、確かにある程度意味はつかめるんだけど、どうも文章がめちゃめちゃで、いまひとつすっきりしないし、ページの進み具合もたどたどしい。これは決して翻訳が悪いというわけはなく、バロウズの文章を日本語に置き換えること自体に無理があるのだと、原文に目を通してみると少し分かってくる。スラングいっぱいだし、文法もよくわからないものが多い、だけども英語で読む方がすっと馴染む箇所もあったりして、意外と洋書で読んだ方が「言葉」の語感というか、バロウズの意図したことがわかるようにも思えたり。このカットアップものは一般的な小説のように、時系列に沿った明確なストーリーがあるわけでもないから、手に入る日本語訳でおおまかな意味をつかみつつ、ディディールは英語で、というのがわりと読みやすいんじゃないかと感じた。
小説に限らず、なんとか「三部作」っていうのは、けっこうそそられるものがあって、そのなかの一つをたまたま買ってしまうと(読んでしまうと)、どうしても三つ揃えたくなるもんだ。そして、三部作と名のつくものは他にもいろいろあって、なぜか名作になってるのが多く、またいくつか紹介してみたい。


REVIEWS OF WILLIAM S. BURROUGHS'S EARLIER BOOKS
http://www.nytimes.com/books/00/02/13/specials/burroughs.html
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2017年06月27日

New wave 好きにはたまらない二冊の本

book-BushOfGhosts-Charlotte.jpg
Amos Tutuola "My life in the bush of ghosts" and Penelope Farmer "Charlotte Sometimes"


いや、やっと届いた。エイモス・チュツオーラの「マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オブ・ゴースツ」。一応イーノのファンだけに、この本はずっと読まなければ、と思ってはいたものの、絶版の邦訳本は復刊しそうな気配がなく中古本でも見たことがなかったんで途方に暮れていた。さすがにこのまま、ずるずると読まずじまいで終わるのもどうかと焦りはじめ、この際、いい機会だから英語で読むことにした。ただ、最近岩波文庫から処女作「やし酒飲み」に続いて「薬草まじない」も出ていたりもしているので、もしかしたら近いうちに復刊するのかも、なんて淡い期待を傍らに抱きつつ。

チュツオーラはアフリカ、ナイジェリアの作家。だから、てっきり彼の小説は現地(ヨルバ)語で書かれ、それを英訳しているのかと思っていた。ところが実際はそうではなく、チュツオーラ自身がヨルバ語を英語に置き換え、はじめから英語で小説を書いていたものなんだそう(邦訳本も重訳だと勘違いしていたり)。なもんでいわゆるネイティヴな英語ではなくて、ちょっと変なところがあって、それが1950-60年代に巻き起こっていた新世界文学の流れの中でうまくハマり、もてはやされるようになったとか。T.S.エリオットが出版に一役かっていたという話も意外だった(裏カバーのキャッチコピーより)。英文としては、少しカタコト的な移民文学にも似た感じがありそうだし読むのが楽しみ。最近、英語以外の言語を母語にし育った人が、英語圏で生活したり勉強したのちに、自分の表現言語を英語でどうやって組み立て、構築するんだろうか、というところに興味があって、そんな小説を読みたくなっている。チュツオーラはじめ、他ナボコフだったり、ジュンパ・ラヒリとか(ラヒリは、小説家になってからイタリア語の勉強をしてイタリア語でエッセイを書いている)。こうしたトランス・ランゲージ的なもので、かつ主要言語でないものから派生した文学って、ネットの時代の今、これから先の時代に合っているようにも思え、また新鮮なような気がする。
「ブッシュ・オブ・ゴースツ」を軽くつまみ読みすると、僕のような中学生レベルでもけっこう読めるところがあり、そうだったのならもう少し早くに読んでいればよかったなと少し後悔。やし酒飲みの方は、岩波文庫で読んでいた。森の中をさ迷い歩くところなど、二作の内容は少し似ていて、民話を現代にアレンジしたような話。

もう一冊は、ペネロープ・ファーマーの「シャルロット・サムタイムス」という本。これは、ザ・キュアーのヒット・シングルと同じタイトル。それもそのはずで、ヴォーカルのロバート・スミスがこの本を題材に曲を作り、また物語の一部を歌詞に取り入れている。ロバート・スミスはこの小説が好きらしく、あと2曲、この本から言葉を引用し曲を書いている。このあたりは、そのうち詳しく書くので今回はさわりだけ。ペネロープ・ファーマーは日本ではほとんど知られてないが、英語圏では人気のある児童文学の作家。「シャルロット・サムタイムス」は1969年に出版され、何年か前に40thエディションの記念版が出ていた。これも邦訳が出なさそうなので(昔一度だけ出版されていたがもちろん今は絶版)、勉強がてらチャレンジしようと思った。でも児童文学、向こうではローティーンの子供たちが読むような感じなので、けっこうやさしめな英語だった。寄宿学校を舞台にした物語で第一次世界大戦が背景にある。

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2017年04月13日

耳ラッパ

HearingTrumpet.jpg
レオノーラ・キャリントン「耳ラッパ」


なんというか、ぶっ飛び方が半端じゃないよね。この小説じたいをあえて説明するなら、 「不思議の国のアリス」のアリスが老婆になって、40度以上の高熱を出しているときに見た悪夢、みたいな(笑)
〜WEB すみ&にえ「ほんやく本のすすめ」〜


92歳の老婆が、友人に補聴器(=耳ラッパ)をもらい、家族に老人ホーム送りにされたことから生じる一大幻想絵巻。ボケ老人的な論理の飛躍が次々に繰り出される、自由連想じみた物語の奔放さは比類がない。
〜山形浩生氏(朝日新聞 2003.10.5)〜

http://www.kousakusha.co.jp/DTL/mimi.html


アマゾンで何か面白い本がないかを探していたら、気になる洋書が目に入る。著者名、Leonora Carrington。確か画家で同じ名前の人がいたよな、と思って調べてみるとやっぱり同じ人物だった。そうそうこんな変わった名前ないもんな。小説も書いていたのか、絵が魅力的なだけにどんな言葉で世界を表現しているんだろう? とそこから急に興味出て、でもまさか日本訳はないだろな、なんて期待なきサーチもあっさり予想が外れ、日本版の本も発見する(しかも絶版じゃない!)。それが「耳ラッパ」だった。レビューなんか見てもすごく面白そうだし。これ、即効読みたいリストに入った。4月中旬以降に、短篇集と「Down Below」という中篇くらいの小説が立て続け刊行されるみたいで、そっちもちょっと気になる。彼女はメキシコで制作活動をしていたイメージが強いから、メキシコ人だとばかり思っていたけど、実はイギリス人だったり。マックス・エルンストに傾倒し、恋仲になったとかで、フリーダ・カーロとどこか重なるところがあって不思議な感じもした。
幻想文学もしばらく読んでなかったから、ひさびさに面白そうなのを知れてよかった。


4月末に発売予定の二冊。
Complete Stories of Leonora Carrington.jpg
The Complete Stories of Leonora Carrington(Dorothy a Publishing Project)

Down Below.jpg
Down Below (NYRB Classics)
http://brbl-dl.library.yale.edu/vufind/Record/3885546
イエール大学のデジタル・アーカイヴ? みたいなページで以前の版のものが読める。

*画像はアマゾン.jpより
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2017年03月22日

ピンチョンとオザケンが繋がる、意外なライン



驚くべきことに世間にはピンチョンを読んでいる女性は想像以上に多いようで、一体何故ピンチョンなぞ読む気になったのだと訊くとほぼ例外なく小沢健二の影響だと言われて、まったくもって訳が分からないと思っていたのだが、小沢健二は学生時代に柴田元幸に師事していたのを知って納得した。


fumi(2017年3月6日)さん、より
https://twitter.com/fumi_1980/status/838777442055553024


ピンチョンの調べものをしていたら、ツイッターに面白い情報があったので、ちょっと気になり飛んでいった。最近は以前よりピンチョンの知名度上がっている気配がけっこうあって(トランプの影響でバカ売れしてるハヤカワ文庫のオーウェル「1984」での解説もまた後押ししてるだろうし)、何でだろう? と思っていたら上ツイートにあるような理由が少し関係しているのかな。にしても柴田さんとオザケンって、こんな繋がりがあったとは、うーんビックリ。そして、もひとつ似たような関係性を加えると、ピンチョンはナボコフに師事していたというエピソード。
オザケンの1stアルバム「犬は吠えるがキャラバンは進む」って、カポーティのエッセイ集の冒頭に書いてあるアラブのことわざ "The dogs bark, but the caravan moves on." と(訳が)同じやったんで、きっとそこから引用したんだろうなと思っていたんだけど、上ツイートに書いてあるように柴田さんに師事していたという話を聞くと、その線はやっぱり濃厚な感じ。大元は当時フランスが統治していた、たぶんマグレブあたりのアラブ語・ことわざがまずフランス語に訳され、さらに英語圏に広まった感じなんだろう。そして、1990年代に日本のポップミュージックの中で使われたと。言葉が地球を半周して、しかも十年二十年と残る作品の中に組み込まれ僕たち多くが知るところとなった。もし、日本在住のアラブ圏の人たちが、「犬は吠えるが」のアルバムを目にし、「あれ、これって俺たち故郷のことわざと似てるな」なんて気づいたとき、「言葉」が人を介し世界をぐるり一周したことになる。




The Dogs Bark but the Caravan Moves On – Arab proverb
T. Capote use it for an anthology title: The Dogs Bark(anthology)

https://forum.wordreference.com/threads/the-dogs-may-bark-the-caravan-goes-on.1660568/



Les chiens aboient, la caravane passe.
【逐語訳】 「犬が吠え、隊商は通る」(犬は吠えるがキャラバンは進む)

北鎌フランス語講座 「やさしい諺(ことわざ) 4」、より
http://hayasiya7.hatenablog.com/entry/2016/05/19/015058



で、けっこう貴重な対談を載せた記事があったんで紹介。文学とネオアコ、みたいな感じ。オザケンの2nd「LIFE」ってポール・オースター読みながら作っていたとか、これ、面白い話だな。



小沢 本を読むときは、レコードとかかけるんですか。
柴田 本を読むときはあまりかけないけど、翻訳してるときは必ずかけますね。だから、訳した本と特定のアルバムが結びつくのよ。たとえば、ポール・オースターの『孤独の発明』とフリッパーズ・ギターの『カメラトーク』なのね(笑)。
小沢 いやいや、やめてくださいよ(笑)。僕は逆に、『孤独の発明』読みながら次のアルバムつくってましたよ。なんだか反響してますね。

昼の軍隊さん、より
「LES SPECS 1992年11月号 小沢健二×柴田元幸」
http://hayasiya7.hatenablog.com/entry/2016/05/19/015058

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2017年03月19日

2017年、三月の読書

book-mar-2017.jpg

「ボディ・アーティスト」ドン・デリーロ
ドン・デリーロ作品の日本語訳で、現在、文庫で買える唯一のタイトル。アメリカの作家なのにどこか湿っぽさがあって、日本的な余韻ある文章。シンプルなんだけどイメージがふくらんでゆく。最新短篇もゆっくり訳しながら読んでいるが、同じように言葉と言葉の間に隙間があって、それが物語に深みを与えている感じがあっていい。処女作の「アメリカーナ」からやっぱりその兆しが見れたりして、文体って作家の特徴がよくでているなと思う。

「チョコレートの歴史」ソフィー&マイケル・D・コウ
これ先月の頭に、文庫で復刊したもの。チョコレートを語るなら絶対に外せない名著として有名みたい。人類がいつどうやってカカオからチョコとして食すようになったか、からはじまって、ヨーロッパ諸国の世界進出と同時に、争いの火種になりまた製法が洗練・改良され、今多くの人が知っている形になったあたりまでを詳しく書いてある。通貨としてのカカオなんかのあたりが興味深かった。

「世界飛び地大全」吉田一郎
これはディープな本。バングラデシュとコーチビハールに点在する無数の飛び地から、中央アジアの非常に入り組んだ飛び地なんかももちろん網羅していて、世界にはまだこんなにも飛び地があるんだ、とびっくりもしたり。ちょっとマニアックすぎて、あんまり実生活では役にたつことはないだろうなと、思いつつ読んでみた。

「増補:エロマンガ・スタディーズ」永山 薫
最初、表紙の絵が気になって手に取った本で、読んでみるとすごく面白かった。カタログや短い作品解説のようなものではなく、エロマンガに焦点を当て、そこから見える日本の大衆文化史(時代の流れや政治・法律とのからみなど)が軸になっている。手塚治虫から高橋留美子、劇画ブームに宮崎勤、などなど全部がちゃんとつながっていて、こんなふうにディティールからそのジャンル全体を俯瞰できるような視点がもてたら、説得力あるな、なんて思ったりもした。絵のタッチやストーリーが、読者の求めるもの(ニーズ)によって、時代ごとに変化してく流れは社会(=読者)そのものを現している。

で、この本の表紙画を描いているのが新堂エルさん。はじめて知ったんだけど、絵がめっちゃ上手く、ファンになってしまった。ただ、内容がけっこう過激なんだな、この人。なので無条件にはオススメできない感じはある。絵のタッチがどこかドライで日本のアニメと何か違う感触があるのは、半分アメリカ人だからなのかもしれない。エロいんだけど絵が上手いから、あまりそう感じなかったりして、何かカッコイイ。アメリカにいた頃は、練習のために描いた漫画は誰にも見られないよう(過激なため)、燃やしていたんだとか。

Comic-ShindoL-Henshin -emergence.jpg
http://tagong-boy.tumblr.com/post/158435590326/
画像は上アドレスより。(孫リンク)先記載のアドレスで漫画が読めます。

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2016年12月13日

一気読みした4冊



米大統領戦後、一気に円安になった影響なのか、アマゾンにある洋書ペーパーバックも1-2割ほど値段が変動し、ちょっと買うのにためらいが出てしまう。このところの為替は将来のトランプ政権を見越して動いたというわけじゃなく、おそらくFRBの利上げを見越し日米の金利差に焦点をあてたものだと思うが、大統領選の結果が相場の引き金(きっかけ)になったのだけは確か。急に上がりすぎたので、一旦調整が入ると思うが、次のトリガーまで、まだしばらく円安水準で留まりそうな気配がある。その間にたまっていた本を少しでも読んでおこうと思った。
(そしてついにピンチョン「V.」も読み終えたのだ! これはまたいずれ書こう)

「幽霊の2/3」ヘレン・マクロイ
アメリカの出版業界を背景にしたミステリー。印税やら版権やら、弱小出版社とエージェンシーが絡んで展開していく。これは面白かった。「あなたは誰?」「二人のウィリング」と同じベイジル・ウィリング博士のシリーズ。ウィリング博士はいつも(本の中で)登場するのが遅いのだ。

「日時計」クリストファー・ランドン
これは手元にあったものの長らく読まずにいた。秋の日差しと表紙カバーの写真がなんとなくしっくりきたところで、急にふと読みたくなり一気に読んだ。イギリスとフランスを舞台にした冒険小説のような感じで、後半にかけてのスピード感がとてもいい。

「キス・キス」ロアルド・ダール
ちょっと不思議なというか、不気味な後味の短篇集。短篇だから文章のキレがいいというか、そういうエッセンスがすごく生きていて、読みやすい。「チャーリーとチョコレート工場」の原作者として有名な人だった。

「スターターズ」リッサ・プライス
これはヤングアダルト(海外でのライトノベルみたいな感じ)というジャンルになるらしい。読みやすいけれどもしっかりとテーマがあるというか、時代の風刺・予見をうまく物語りに織り込んでいていいなと思った。金持ちの老人が自分の脳(意識)を、若い子供の身体にテレポートさせることで、再び青春を謳歌できるという「ボディレンタル」サービスを巡ってのディストピアもの。世界的なベストセラーになったようで、きっとその影響なんだろう、海外版と共通のイラストが表紙になっている。このダサいブックカバーは日本の読者向けじゃない感じもあって、損をしているように思う(物語はすごくいいのに)。


InagakiTaruho.jpg
稲垣足穂「ヰタ・マキニカリス」

本屋でみかけた新刊。ちょっと立ち読みし、読みたいリストに入る。はじめて知った作家だけど、けっこう古い人で、だけど文章が全然古くないというか新鮮だった。最近の日本の小説は、どのタイトルも文章が単調すぎて読む気がおこらないが、久生十蘭はじめ戦前の作家にはすごく魅力的な文章を書く人がけっこういたんだな。
その前に文庫になったスティーヴ・エリクソン「Xのアーチ」、これまず読まないとだ。
あとそう、カルヴィーノの「冬の夜ひとりの旅人が」復刊しててびっくり。


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