2019年12月22日

「TVピープル」の初版本とタイ語版ペーパーバック

Murakami-Haruki-TV-people-bookcover.jpg
村上春樹「TVピープル」単行本(初版)とタイ語版のペーパーバック


チェンマイの城壁外、北西側には「ニマンヘンミン」という、お洒落なカフェや雑貨屋などのファッションスポットの集まるエリアがある。遠目にランドマーク的なたたずまいをした「MAYA」という大きなショッピングモールがどーんとそびえていて、デートスポットになっている。ここを背に「ニマンヘンミン通り(Nimmanahaeminda Rd.)」を200メートルほど歩くと右手にこじんまりとした書店が目に入る。中をのぞくと洋書やらステーショナリー系の雑貨が置いてあり、青山や表参道の裏通りにありそうな本のセレクトショップっぽい雰囲気。気になったので入ってみることにした。
店の名前は「RANLAO Bookshop」。

何かタイ語の面白そうな本か雑誌がないかな? なんて本棚をみていると、タイ語に翻訳された村上春樹のペーパーバックが並んでいた。一番目線のいく高さにディスプレイされていたので、タイでも人気あるんだなと感じた。長篇をはじめ、いくつかのタイトルが翻訳されていて、カバー・デザインが英語圏のものとは、やっぱどこか違っていたんで何か一冊欲しくなった。こういうのは(日本の)アマゾンでは買えないから、お土産代わりにしよう。「中国行きのスロウボート」とどちらにしようか悩んだ末、「TVピープル」にした。村上春樹は短篇がいい。ほぼハズレなし。まぁ、とはいってもタイ語のは全く読めないんで関係ないんだけど、文字がかわいいから一冊くらいは手元に置いておきたい。

パラパラめくってみると、何か妙に各タイトルのページが違っていた。ん? おかしい、と思いよくみると製本ミスでページの構成が思いっきりずれているのがわかった。160B。

2019年01月26日

Paperback Cover Design Gallery (9) フランス語版の「デューン」2冊

FrenchPaperback-Dune.jpg
"Le Messie de Dune" and "Les Enfants de Dune"
フランス語版「DUNE」の表紙(出版社は「Editions Robert Laffont」)。表紙イラストは Wojtek Siudmak。フランス在住のポーランド人画家。
フランス語への翻訳は、Michel Demuth。


全6タイトルある、デューン・シリーズの第2・第3作:
「Dune Messiah (1969)」(邦題:デューン 砂漠の救世主)
「Children of Dune (1976)」(邦題:デューン 砂丘の子供たち)


監督がデヴィッド・リンチ、そして(ザ・ポリスの)スティングが敵役で出演していたことが話題だった映画「デューン・砂の惑星」。「映像化不可能と言われた壮大なスケールの小説を…」という宣伝文句が踊っていたような記憶がするんだけれど、原作に手をつけようとまで頭がまわらなかったのは、まだ色々と物心つく前だったからだと思う。スター・ウォーズやスタートレックなどを筆頭に、作りこまれた戦闘機や宇宙船の登場する宇宙モノSFに魅力を感じていた当時の僕からすると、有機的にデザインされた造形物が織りなす、この映画「砂の惑星」の世界観&映像(多分、ギーガー・デザインの「エイリアン」を意識していたんだと思う)は、相当異質に見えた。数多く公開されていた映画の中で、この映画に何か興味を持てたのは、やっぱりスティングが出ていたことだった。主演のカイル・マクラクランは、確かこの映画で有名になったんだったかな。映画そのものは前評判ほど難解でもなかったし、不評の声もあったけれども、僕自身わりと楽しめたのは原作を読まずにいたからなのだろう。映画の記憶ばかりが頭にこびりついて、未だハーバートの書いたこの小説を読んではいないが、数年前に出た新訳を少し読んでみると、意外と読みやすくてわりとページは進んだ。ただ、やっぱり長いのと登場人物の多さもあり、途中でフェイドアウトしてしまう。こういう長篇はほんと一気に読みきる集中力が必要なんだよな。
なんてことがありつつ、いつものように古書店のワゴン本棚を眺めていると、古びた背表紙のペーパーバックが並んでいてすっと手が伸びる。ちょっと70年代風の書体遣いに反応してしまった。表紙を見てもう一度びっくり、「これは知らないデューンだ」。表紙の絵が、どことなくアメリカのペーパーバックと違っているような、そして僕のイメージにあったデューンとも違っている。タイトルを見ればフランス語であるのはわかるけれど、なかなか日本で1970年頃のフランス版ペーパーバックなんてお目にかかることはない。読めないものを買うのは、どうなんだろう、なんてはじめは思い一度棚に戻してしまったが、表紙のイラストがどうも気になり買うことにした。まぁそのうち、フランス語に興味が出てくるだろう日を期待しながら、P.K. ディックの短篇集の隣に並べてみたり。


改めて「デューン・砂の惑星」のwikiを見てみると、サントラのテーマ曲「預言者のテーマ」をイーノが書いてたのを知って驚く。あれ、そうやったっけ? とまったく記憶にない。残りのスコアはTOTOが担当している(そうだ、確か当時TOTOがサントラ担当と聞いてえらく不安になったような気がする)。

DUNE (1984) - Brian Eno - Prophecy Theme

映画「デューン(1984年公開)」に登場する、砂漠の巨大生物サンドワームをみていて、あれ? これってナウシカの王蟲とイメージが重なるなぁと、ちょっと気になり調べてみると、ネットには(王蟲は)デューンから影響を受けているのだ、という書き込みが割と多くみられたが、ナウシカの(漫画)連載は1982年から始まっているので、映画版の「デューン」からの影響があったとは考えにくいように思う。同時代の同時多発的な偶然か、もしあるとするならば、原作の小説から宮崎さんがイメージを広げ、形作ったという可能性は考えられなくはない。もしかすると、宮崎さんがどこかで創作秘話を話しているのかもしれないが、何となく同時代の偶発的な産物なんじゃないかという感触がする。

2018年09月22日

Paperback Cover Design Gallery (8) カフカ「変身」を最高のタイポグラフィで

Kafka-Metamorphosis-WWNorton.jpg
W.W. ノートン版、カフカ「変身」のブック・カバー。向かって左が初期のヴァージョンで、右側が現在のもの。新しいヴァージョンはタイトルに「The」が加えられ、翻訳者バーノフスキーと序文を寄せたクローネンバーグの書体が変更されているのと、著者名「FRANZ KAFKA」がより目立つようになっている。
(*画像は下記サイト「Creative Review」より)



INTRODUCTION


今回取り上げるのは、カフカ「変身」のペーパーバック・デザイン。主人公が " Transform " する物語の -New- " Translation " 版のカバー・デザイン記事を Translate したものが中心になっている。

まずはじめに「変身」のドイツ語原文を見てみよう。ある朝、この小説の主人公であるグレゴリー・ザムザが目覚めると、巨大な虫に変身していたという、冒頭の有名な一節だ。続けて(英語の)新訳版を並べてみる。多分、このドイツ語を見て、ふむふむナルホドとすぐに読解できる人はそう多くはないだろうとは思うけれど、ドイツ語と英語を言語的にみると「ゲルマン語派」という一つの系統で括られているわけだから(例えば数字の数え方などは、12進法で共通する)、二つを同時に見比べてみるともしかすると何か発見があるのかな、とか思ったり。まぁ、一行程度で、そういったものを見通し出来たりはしないか。



Als Gregor Samsa eines Morgens aus unruhigen Träumen erwachte, fand er sich in seinem Bett zu einem ungeheueren Ungeziefer verwandelt.

Franz Kafka: Die Verwandlung ( German text )
http://www.digbib.org/Franz_Kafka_1883/Die_Verwandlung

*

WHEN GREGOR SAMSA WOKE ONE MORNING from troubled dreams, he found himself transformed right there in his bed into some sort of monstrous insect.

from "Metamorphosis" by Kafka (English translation by Suzan Bernofsky)



カフカの小説は著作権切れになっているので、ドイツ語ならネットで簡単にテキストを見ることはできる。もちろん、読めるかは別だ。多少ドイツ語をかじっていれば、ある程度理解できるのかもしれないが、僕なんかはドイツ語特有の重々しい綴りのシルエットを見ただけで、もうたちまち、手をあげて降参。といって、何も諦める必要はない。「変身」の邦訳バリエーションはすでに数多くある上、新たな訳も刊行されているので(これは名作である証みたいなもんだ)、僕たち読者は選択の機会には恵まれている。個人が翻訳した昨今の Kindle 版までを含めると、一体どれほどの種類が存在するのか把握するのは相当に難しいだろう。当然、英語翻訳版も数多く出回っている。同じ言語系列から枝分かれした英語翻訳の方が、単語のルーツなどを考えると原文の雰囲気をより近く感じられるのかもしれない。英語訳のヴァリエーションについては、いい記事があるので、それはまた今度やってみたい。ここから先は、W.W. ノートン社、新訳版のカバー・デザインについて、を進める。


この新訳版を知ったのは、ネットで偶然見たのがたしか最初だった。古めかしい黄ばんだ紙色の上に、クラシカルな装飾書体による「Metamorphosis」のタイポグラフィが表紙一面を大きく飾っていたブック・カバー。瞬間に、カフカ「変身」のイメージを見事に表しているなぁと、心奪われた。そして、これ絶対に欲しいと思って勢い調べてみたんだけど、その頃はまだ アマゾン.co.jp では取り扱ってなくて、海外書店からの取り寄せだけだった。今では、「ブック・デポジトリー」や「アマゾン」のマーケット・プレイスで買う技(というほどのものでもないが)を覚えたので、何なく手にすることは可能だが、少し前までオンライン上の海外ショップで洋書を買うには、やや気合いを入れないとできないように感じていた。なので、すぐに買うぞ! という熱気はいく分冷えてしまうことになっていたが、「欲しい本」リストにはしっかり記していたので、思い出したときにちょこちょこ売ってないかを調べていた。そのうちに、 アマゾン.co.jp でも買えるようになったので注文し手元に届いた。商品説明では、わずか126ページという薄さがやや気になってはいたが、実際手に取るとペーパーバックにしては、ややいい紙質のもので、明るいクリーム色と上下左右余白を十分にとった文字の組み方でとても読みやすい。デザインをしたのは、ジェイミー・キーナンという人で、2000年にペンギン・モダン・クラシックスのデザインを一新したデザイナーだ。ペンギン・ブックスでのキーナンの仕事を見たい方は以下記事をどうぞ。

海外記事訳:「ペンギン・モダン・クラシックスのデザイン史(2)」(2017年11月17日)
http://tavola-world.seesaa.net/article/penguin-modern-classics-design-history-2.html



M - E - T - A - M - O - R - P - H - O - S - I - S

キーナンのデザインした「変身」のカバーの何がよかったのかというと、タイトルの「METAMORPHOSIS」を上手く並び替え、補足的に「足」を付け加えることで、見事、昆虫の形にしたことに尽きる。しかも、中世ヨーロッパの暗黒的な一面を感じさせる不気味な様相をたずさえて。彼は、13文字ある単語の中から、「M・T・O・H ・I」がシンメトリーであることに気づいて、さらに、この5文字を縦一列に並べると残りの8文字が、ちょうど(2文字おきになり)一文字づつ左右に振り分けられるという偶然を知り、おそらくその段階でそれぞれの文字が視覚的に同じボリュームになるような書体を連想し、非シンメトリー形状の文字をなるべく同じバランスで見せるように工夫を施した。その発想のひらめきは、これまで誰も気付かずにいたまったく新しい発見だったようにみえる。

この素晴らしいタイポグラフィについて書いている記事や、もしかしたら制作過程の話をインタビューしたものがあるかもしれないと思い、調べてみたら「クリエイティヴ・レビュー」というサイトの中で取り上げていて、具体的にどんなプロセスでデザインをしたのかや、制作の背景を知ることができた。またキーナンがブック・カバーのデザインをするに際し心がけていることや、自身の考え方なども語っている。以下後半は、その記事を日本語に訳したので紹介したい。

と、その前にひとつ脱線を。「変身」の主人公、グレゴリー・ザムザが一体どんな虫(あるいは生物)になったのか? というのは、実のところはっきりしない。パブリック・イメージでは、人間大の巨大な甲虫というのが一般的で、本の表紙でもそういった姿で描かれているし、グラフィック・アイコンでもそうしたイメージが定着しているように思える。今回取り上げたW.W. ノートン版のカバー・イメージも、見事に六本足を持った昆虫だし、下記インタビューの中でキーナンは「beetles」だと言っているので、そうした昆虫の形態をイメージのよりどころにしているのがわかる。しかし、小説のなかでカフカは実在する具体的な虫だとは言ってない。ドイツ語では「ungeheueren Ungeziefer(ばかでかい害虫)」という表現を使っていて、また「たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた(新潮文庫・高橋義孝訳・P6)」とも書いている(この部分、英語訳では「His many legs, pitifully thin compared to the rest of him, waved helplessly before his eyes. (W.W. Norton)」、あるいは「His numerous legs, pathetically frail by contrast to the rest of him, waved feebly before his eyes. (Penguin Modern Classics)」という訳になっている)。虫の形態や状態について子細に書いているのに反し、足の数だけは漠然とした数でしか示していない。このことから、生えている足の本数は、6本、8本といった簡単に数えられるような数ではなく、団子虫のようなうじゃうじゃしたものなんではないだろうかと思える。そして、細かな指摘になるが「そのあいだも目はつぶったままであった。(新潮文庫・高橋義孝訳・P6)」という表現は、この生き物に「まぶた」があることを示している。いわゆる昆虫には、まぶたはないので、目をつぶったり開けたりはしない。もちろん、この箇所は擬人化した表現として受け取るべきだろうが、シャーロキアン的な探り方をしてみるのも面白い。ナボコフは、小説のなかで足の数がはっきりと記されていないことに釈然としない様子で、やや投げやり気味ながらも昆虫説をとっている。


冒頭でいわれている「おびただしい数の小さな脚」というのが、六本以上の脚の意味なら、グレゴールは動物学的見地からいって、昆虫ではないだろう。しかし、仰向きになって目覚め、六本の脚が空中にうざうざと顫(ふる)えているのを見出した男にとって、六本がおびただしい数と呼ばれるのに十分なものとして感じられたとしても、不思議はないとわたしは思う。したがって、グレゴールは六本の脚をもっている、彼は昆虫だと見なしておこう。

「ナボコフの文学講義(下)」ウラジミール・ナボコフ(野島秀勝訳)、より
(河出文庫・P154 / フランツ・カフカ「変身」)


いろんな人の思い描くイメージの最大公約数を表したものが、本の表紙イメージとして、読者にはわかりやすいものだとは思うが、物語を読み自分の頭の中で描くそれぞれのイメージが何であるのかは、100人いれば100通りの解釈があるわけで、それが手にした本のデザインと大きく違っているのか、それとも意外と近いものなのか、読み終わったあとに比べてみると読後の楽しみがひとつ増えるような気がする。
では、脱線したのを元に戻し、以下、カフカ「変身」の新訳版についての表紙デザイン記事訳です。


Front to back: The Metamorphosis (CreativeReview / 16 January 2014)

Japanese translated by Tagong-Boy
Original text by Mark Sinclair
Source: (元記事はこちら) https://archive.fo/tVDJ3
・直リンクでなく「archive.is」で保存したアドレス。元ページは上リンク先に表示されています。



WW.ノートン社版、フランツ・カフカ「変身」の新訳に向け、ブックカバー・デザイナーであるジェイミー・キーナンは「変形」の意味合いを形にするため、古いイタリアの書体に手を加えた。 単発カバーやシリーズものの背景にあるデザイン・プロセスを検証しながら、キーナンがどのように制作したのかを、私たちのシリーズ第二弾で話そう。
For WW Norton's new translation of Franz Kafka's The Metamorphosis, book cover designer Jamie Keenan reworked an old Italian typeface to form the shape of the 'transformation' itself. For the second in our series examining the design process behind a single cover or series, we talk to Keenan about how he made it...



ニューヨークを拠点にもつWW.ノートン社版、カフカの古典物話は、スーザン・バーノフスキーによる新訳となり、映画監督のデヴィッド・クローネンバーグによる序文がひとつのセールスポイントになっている。 巡回セールスマンのグレゴリー・ザムザがある朝目覚めると、自分が虫に変身していたという有名な話だ。 アルバート・タン(W.W. ノートン社のアート・ディレクター)はイギリスのデザイナー・キーナンにカバーデザインの依頼をした。 アルバート・タンによると、彼が要求したことはシンプルで「何かかっこよく、かつ粋で、世の中に出回っている沢山の本の中で目立つもの」というだけだった。
New York-based publishers WW Norton’s edition of Kafka’s classic tale is in a new translation by Susan Bernofsky and features an introduction by film director David Cronenberg. The famous story concerns travelling salesman Gregor Samsa who wakes one morning to find himself transformed into an insect. Norton’s art director Albert Tang approached British designer Keenan with the cover commission. According to Tang his requirement was simply for “something really cool, hip and [that] stands out among the numerous other copies out there.”


「本のカバーは一般的に、その本についてほとんど、あるいは全く知らない人たちに向け、物語や雰囲気、そしてスタイル、アイデア、その他すべてのことを売り込もうとするんだ」とキーナンは言う。 「本のカバーというのは、わずか数秒で本のすべてを伝えなければならないコーポレート・アイデンティティに似ている。そういう理由で、たいてい本がヒットする時には、視覚言語に慣れ親しんだ人たちの関心を掴むために、オリジナル感を真似ている他の表紙カバーを目にすることは稀ではない。 古典作品のカバーを手がける事は、デザイナーにほんの少し違ったやりがいを示す。 「カバー(デザイン)が、本にまつわるすべての事を伝える必要性はもうさほど重要ではないんだ」と彼は言う。
" Generally with book covers you’re attempting to sell a story, mood, style, idea and everything else to someone who knows little or nothing about the book at all," says Keenan. " The cover is like a corporate identity that has to convey everything about the book in a couple of seconds. Which is why, when just about any book becomes successful, it’s not unusual to see covers on other books appear that imitate the feel of that original to grab the attention of people who have become familiar with its visual language." Working on the cover of a classic presents the designer with a slightly different challenge. "The need for the cover to communicate everything about the book is no longer so important," he says.


人々が現在もつ本の知識を信頼し、何らかの方法でその知識を利用する(あるいは乱用する)。ある古典作品がいったん著作権切れになると、数種類の違ったバージョンを買えるようになる。アマゾンにある「変身」の廉価版最安値はわずか1.7ポンドだ。だから自分のバージョンを買う何らかの理由を人々に示そうとしなければならない。 
“You can rely on people’s existing knowledge of the book and use (or even abuse) that knowledge in some way. Also, once a classic is no longer under copyright, you can buy a few different versions of it ? the cheapest version of Metamorphosis on Amazon is just £1.70, so you have to attempt to give people some reason to buy your version.”



カバー・デザインについて、キーナンはすぐに決めたんだと言う。「 "The Metamorphosis" というタイトルをカバー・イメージに変えるというアイデア、それに加え、甲虫がもつあの黒光りする性質と、数多くの這う虫がもつ奇妙で厄介なピクついた要素を理解させたいことも分かっていた」と。
For the design of the cover, Keenan says he quickly decided upon “the idea of turning the title of The Metamorphosis into the cover image - and I knew I wanted to get across that shiny black quality that beetles have and that weirdo, fiddly, twitchy thing that a lot creepy crawly things have, too.


「骨折の折れる作業だと思えるこの試みは、そうした特性をすぐに伝えるとともに、同等の黒光りする部分に対し十分に身のつまった本体部分をもつ古いイタリア書体(*1)のスキャン画像を探させる気にさせたんだ」とキーナンは言う。もう速攻で、このタイプフェイスと雄カブトムシのイメージが与える足の組み合わせは、ほぼ最終的な形のカバーとなった。
“This attempt to get across the feeling of ‘fiddlyness’ led to me finding a scan of an old Italian typeface that instantly conveyed that quality and also had enough solid sections for the shiny black part of the equation,” says Keenan. “Fairly quickly a combination of this typeface and some legs donated by an image of a stag beetle produced the cover that pretty much ended up on the final thing.”


*1)キーナンがカバーデザインに使った16世紀頃の「古いイタリアの書体」
16thCentury-ItalianMS.jpg
16th Century. From Italian MS. [31] from "The Book of Ornamental Alphabets"
Author: F. Delamotte
http://www.gutenberg.org/files/23450/23450-h/23450-h.htm
(上記リンク先の「html版」で見れる)→ http://luc.devroye.org/Delamotte1879/
↓ あるいはこっちのサイトで

https://typesoftypography.wordpress.com/2013/02/09/typography-alphabet-ornamental-renaissance-medieval-27-4/



キーナンが最終的なカバー(デザイン)で使った文字の大半は何らかの方法でひねりを加えている(装飾箇所は文字の違った部分に移されたり、丸ごと取り除かれたりした)、だが「 S 」の部分は甲虫の足を加えた上で、オリジナルフォントがそのまま残っている。
このデザインの本当に優れた箇所というのは、キーナンが甲虫の形を作り出すため、どのようにして文字のバランスをとったかということだ。「M」は左右対称の頭部を形づくり、最初の「O」は胴体の中心部を形成する役目を果たしている。そして他の文字は足として横に置いてある。一方「SIS」部分の構成は甲虫の形状の尻部をきっちりと締めくくっている。
Most of the letters that Keenan used on the final cover have been tweaked in some way - curlicues are moved to a different part of the letter, or removed altogether - though the ‘S’ remains as it was in the original font, with the addition of a beetle leg.
The really clever part of the design, however, is how Keenan has balanced the letters in order to create the beetle shape. The ‘M’ forms a symmetrical head; the first ‘O’ helps to form the centre of the body, with other letters flanking it for limbs; while the ‘SIS’ formation neatly closes off the end of the shape.



「補助的なフォントはややゴシック調にし、すっきりとみせている。直線的にすることで目立なくなるんだ」
とキーナンはカバーに配置した残りテキストの字体についてを補足する。
「そして、最終ヴァージョンはエンボス加工をし、甲虫にほんの少しの光沢をつけるためにグロス(インク)を使っているんだ(*2)
“The secondary font is much straighter with just a hint of the Gothic about it, while being straight enough to ensure it doesn’t fight for attention,” adds Keenan of the type used to display the rest of the text on the cover.
“And the finished version is embossed and uses a gloss to give the beetle a bit of added shine.”



*2)エンボス加工とグロス・インク
Kafka-Metamorphosis-WW.Norton-detail.jpg
真正面から撮った書影では分からないが、文字色スミ部分は、バーコ印刷で光沢感と盛り上がりがあり、凹凸の手触りと角度をつけてみると艶やかな光を放つ。

kafka-metamorphosis-cover-inside.jpg
表紙カバーの裏側。表面とは反対に紙の地のまま真っ白で、凹みがある。一見アール・ヌーボー装飾の鮮やかな色彩を脱色したような感じで、デカダンだけれども、モダンな雰囲気もあって、こういうのも悪くない。



イメージの源泉?

もしかすると、なんだけど、キーナンが作成した「Metamorphosis」のカバー・タイポグラフィは、漠然と頭の中で形づくろうとしていたアイデア・イメージが、偶然、古い書体の資料を探していたときに繋がったんじゃないかと思った。あるいは、以前に見ていたものが記憶の中で眠っていて、デザインの依頼を受けたときに、急に浮かび上がってきたとか、何かシンクロニシティ的なひらめきがやってきたような、そんな感じがしないでもない。
下の絵は、16世紀頃、ハンガリーの画家が描いた(装飾写本風の)ボタニカル・アート画。まるで虫が踊っているようなシルエットをした装飾文字と、絵の中央に描かれた虫の絵。この二つの要素が、文字を並べて虫の形を作るというアイデアの遠因になったとしてもそう不思議ではない。「Metamorphosis」の表紙カバーの背景に敷いた古びた紙のテクスチャーは、確かに遠い時代に描かれたボタニカル・アートの色合いを模していて、自分の中で生まれたファースト・インプレッション・イメージの核を残しているようにも思える。

JorisHoefnagel-GeorgBocskay-16c.jpg
http://tagong-boy.tumblr.com/post/160082410321/
Title: Tulips, Fly, Kidney Bean, and Bean
Artist: Joris Hoefnagel (Flemish / Hungarian, 1542 - 1600)
and Georg Bocskay (Hungarian, died 1575)


他出版社のカフカ・デザイン

The Schocken Kafka Library
Schocken-KafkaLibrary.jpg
(画像は右サイトより) http://www.penguinrandomhouse.com/series/SK3/the-schocken-kafka-library
1931年ドイツで創業したショッケン・ブックス社(現在はペンギン・ランダム・ハウス傘下)のカフカ・ライブラリー・シリーズ。目をアイコンにしたシンプルなデザインで、カフカの各タイトルをグラフィカルに表現している。フリーメーソンの象徴とも言われている「プロビデンスの目」を連想させる。デザインはピーター・メンデルサンド(Peter Mendelsund)。手描き風の英文字は、カフカの直筆を取り込んでフォント化したもの。このシリーズのデザインについては、また今度取り上げてみたい。「The Metamorphosis and Other Stories」の英語翻訳は、Willa and Edwin Muir(エドウィン・ミュアはスコットランドの詩人・小説家で翻訳家でもある。カフカの他作品も訳している。日本では岩波文庫から「スコットランド紀行」が出ている)。1933年に出版され、英語圏ではこの訳が「変身」のスタンダードになっているようだ。新潮文庫から出ている、高橋義孝訳のような感じになるのかな。
冒頭のテキストは以下のとおり。


AS GREGOR SAMSA awoke one morning from uneasy dreams he found himself transformed in his bed into a gigantic insect.

" The Metamorphosis" by F. Kafka (full text, translation by Will and Edwin Muir)
http://archive.is/lAKhe
http://www.zwyx.org/portal/kafka/kafka_metamorphosis.html



Penguin Modern Classics
Kafka-PenguinModernClassics.jpg
(画像は右サイトより) https://www.penguin.co.uk/authors/franz-kafka/9042/
2007年、ペンギン・ブックスの現アート・ディレクター、ジム・スタッダートによってリニューアル・デザインとなった「Penguin Modern Classics」。カバー写真は、チェコの前衛写真家ヤロミール・フンケ(Jaromir Funke / 1896-1945)によるもの。カフカの出身地と同時代性に関連をもつ写真家の作品が選ばれている。カフカと交流があったのかは不明だが、同じ時代に同じような前衛的な作品を作っていた共通性は、カフカのカバー写真として使うのに相性良さそうだ。左が「Untitled (Still Life)/1927-28」で、右の目のあるやつが「Untitled (Time Persists Series)/1932」。どちらも正方形サイズにトリミングされている。
こちらの冒頭部分の英訳は以下のとおり。


When Gregor Samsa awoke one morning from troubled dreams, he found himself changed into a monstrous cockroach in his bed.

" Metamorphosis " by Franz Kafka
(Translated by Michael Hofmann)
from Penguin Modern Classics "Metamorphosis and Other Stories" (p75)



in Print 2002「チェコのアヴァンギャルド:写真とブックデザイン」
http://www.taguchifineart.com/installations/CZinst.html
フンケという写真家の名は日本ではほとんど知られてない(僕も知らなかった)。こちらのサイトでチェコのアヴァンギャルド・アートを紹介した展覧会の様子が載っている。

2018年09月10日

Paperback Cover Design Gallery (7) 「ペンギン・モダン・ミニ」のcoolなカバーデザイン

PenguinModernMini-2018.jpg
ペンギン・ブックスのアート・ディレクターを務めるジム・スタッダートによる「ペンギン・モダン・ミニ」シリーズのカバー・デザイン。伝統的でやや高級路線のブランドに多く採用されている「オウ・ディ・ニル(ナイルの川)」というペパーミント・ブルーグリーンをキー・カラーに配している。また「アヴァンギャルド」というフォントを使うことで、著者名とタイトルをグラフィカルに、リズミカルに見せる。シンプルなデザインだが、このフォントで組んだ文字のシルエットは古代のくさび形文字のように造形的な姿になるため、一見アルファベットではなく、何かの石版に刻まれた文様かと錯覚してしまう。表面はマットPP加工で無光沢、おおよそ 110mm X 160mmと手の平サイズ(日本のハヤカワ文庫トール・サイズと近い判型)。だいたいどのタイトルも60ページ前後で、短篇やエッセイを2、3篇収録してある。知らない作家の作品を少し試し読みしたいときの入門編として最適なシリーズだと思う。


今回のこのミニ・モダン・シリーズはいいタイトルが多くて、ちょくちょく買っていた。ペンギン・ブックスの短篇集やエッセイ集などは、けっこう分厚かったり、コンプリートものだったりするのが多く、よっぽど好きな作家でないと買うのに躊躇してしまうが、こういうコンパクトな形態で、かつ買いやすい値段なら一冊くらい手元にあってもいいかなと思えてくる。もちろん僕の場合、最後の一押しになるのは、カバー・デザインの良さが大きく影響している。


2017年にリニューアルした「ペンギン・モダン」シリーズのデザインについては以前こっちにも書いた。
興味あればどうぞ。

● 海外記事訳:「ペンギン・モダン・クラシックスのデザイン史(3)」(2018年01月24日)
http://tavola-world.seesaa.net/article/penguin-modern-classics-design-history-3.html


PenguinModernMini-2018-2.jpg
センターを区切る白いラインの位置にペンギン・ロゴがくる。

PenguinModernMini-2018-3.jpg
本の価格は英1ポンド。現在の為替レートでは約143円。日本でもそれに近い価格で購入できる。
アマゾン.jpでは、一冊150円から160円前後で買いやすい。

2018年06月09日

Paperback Cover Design Gallery (6) オリヴァー・サックスのヴィンテージ初版6冊

OliverSacks-Musicophilia-Ro.Consciousness.jpg
オリヴァー・サックス「音楽嗜好症(ミュージコフィリア)」と「The River of Consciousness」
"The River of Consciousness (意識の川)" はサックスの死後(2015年に亡くなっている)、2017年10月に出版された彼の最後の本。まだ邦訳が出てない。以前の著書に比べると、医学専門用語などが少ない感じで、一回原書でトライしてみようと思う。
デヴィッド・バーンは「無人島に持っていく本」のひとつにこの一冊を選んでいた。さすがバーン。

デヴィッド・バーンが選ぶ「無人島レコード」は?(2018/03/20)
http://amass.jp/102593/




オリヴァー・サックスの名前を知ったのは、ある洋書のペーパーバック・デザインがきっかけだった。それぞれ別に出されていた彼の著書、6つのタイトルが一つのシリーズとして括られ、全体を統一感あるデザインでパッケージングされたヴィンテージ版のペーパーバック(下に貼った画像)。モノトーンの人体解剖図を背景に、カラフルなアブストラクト・パターンが大胆にレイアウトされていて、強いインパクトがあった。一冊一冊が単独したデザインとしても通用するが、6冊同時に並べたとき、より大きなイメージが浮かび上がるようにディレクションされている。何気なくwebを見ていたときに、目にとまったブログの記事にあった画像で、たしか「すばらしいブック・デザイン」をテーマに集めたものだったような。そのブックカバー・デザインのかっこよさを目の当たりに、いったいどんな内容の本なんだろう? と、興味を持ち、薄ぼんやりと著者の名前を記憶していた。少し経ってから、日本版も出ていることを知り、それから彼の本何冊かを読むようになった。

先天的に何らかの障害を抱えてはいるが日常生活を送るのにさほど支障のない人、あるいはある日突然症状が現れ、視覚や聴覚などの感覚器官が正常に機能しなくなる、そういった異常な状態に陥った患者たちが脳神経科医である彼のものとを訪れ、治療を行いながらまた本来の生活に戻ったり、また違う道を歩むようになったり。彼の本は、そうした患者たちの観察記録的な医学エッセイになっている。世の中には、こんな変わった人(変わった症状をもつ)がいるんだなぁと驚く一方、それが非常に稀なケースである、というわけでもなさそうな程、誰にでも起こりうる可能性のある症状でもあったり、人間の脳ってほんと繊細にできているんだなとしみじみ感じもしたりする。ほんのわずかなきっかけで、脳や神経系統がバグってしまいまったく正常な動作を行えない恐怖。本に登場する人たちを見ているうちに、ある意味、自分がいま普通にモノを見れて、普通に音が聞こえ、普通に味を感じていることの方が奇跡に近いんじゃないかと思えるくらいで、人間、もっと大きく言えば生命というものの存在の不思議さも静かに浮かび上がってくる。今、自分が視覚・聴覚・味覚等々で感じているこの感覚は、どこまでが本当なんだろう? 目の前にはっきりと知覚できている世界が、錯覚ではないことを証明できる自信がけっこう揺らぐ。


「音楽嗜好症(ミュージコフィリア)」では、音や聴覚に関して何らかの異常が見られる患者たちのさまざまな症例がまとめられている。音とノイズ、そして音楽の響き、そういったものの違いを脳はどうやって判断し、心地よさや不快さという感情に結びついているんだろうか、読んでいるうちにまた違った疑問へと飛んでゆく感じだ。エピソードをいくつか挙げてみると、まず冒頭からインパクトの強い話で始まり一気に引きつけられる。第一章「青天の霹靂」に登場するのは、トニーという整形外科医。彼はある日雷に撃たれたあとピアノ音楽に目覚め、ピアノ曲を聴くだけでは物足りなくなり、自分で作曲まで手がけるようになる。そして半日以上ピアノを弾き続けなければ衝動が収まらなくなり、この日を境に音楽の創造力にとりつかれてしまった。「雷に撃たれたような衝撃」という比喩表現をまさに実体験していているようで、もしかすると人の創造力のスイッチって、外部からの電気的な刺激でON / OFF ができるんじゃないかと思ったりした。第6章「音楽幻聴」では、シェリルという70歳の女性が出てくる。彼女は神経系の難聴をわずらっていて、ホーム・ドクターの勧める新しい処方箋を服用したことで、聴覚に異常が発生する。そして薬を飲んだあと睡眠していたときに、突然爆音が鳴り響き目覚める。あわてて家の外へ飛び出し、あたりを見渡すが、周囲には誰一人としておらず、そのとき自分が幻聴に侵されていることに気づく。まもなく、その幻聴ノイズは音楽へと変わるのだが、一向に鳴り止まずこの幻聴とともに生活するはめになる。何かを考えていたり、頭を使っているときだけ、その幻聴がぱたりとおさまる傾向があるのに気づき、人工内耳の手術を試してみると問題の幻聴はぱたりと止まり、すっかりよくなる。第14章「鮮やかなグリーンの調−共感覚と音楽」では、「音」が「色」に見えるというユニークな症状(共感覚のひとつ)を持つ人がいたりするが、これはそう珍しい例ではないのだとか。これは、ちょっと一度体験してみたい気もする。他、サヴァン症候群やトゥレット症、失語症の人などの例が挙げられている。何か平常な要素を失う代わりに特殊な能力が身につき、当然みな、それに悩まされ、あるいはそれに感謝したり、でもサックスはそうした人たちの葛藤うんぬんに目を向け涙を誘うように書くのではなく、人間という生き物がどう機能しているのか? というような非常に医師らしい目で、目の前の患者たちを見つめている。そして、自然と出てくる彼の引き出しの多さは、一見難しい医学の世界を身近に感じさせてくれる。



Vintage ペーパーバックの初版6タイトル

OliverSacks-6-titles-vintage.jpg
*画像は右リンクより: http://tagong-boy.tumblr.com/post/174533155111/

"Migraine"(サックス博士の片頭痛大全)
"Awakenings"(レナードの朝)
ロバート・デ・ニーロとロビン・ウィリアムズ、二人が主演し1990年に映画化されている。
"The Island of the Colorblind"(色のない島へ)

"Uncle Tungsten"(タングステンおじさん)
"An Anthropologist On Mars"(火星の人類学者)
"Seeing Voices"(手話の世界へ)


2018年04月20日

Paperback Cover Design Gallery (5) 古典は「繰り返す」

Penguin-Stevenson-TreasureIsland.jpg
"Treasure Island and The Ebb-Tide" R. L. Stevenson (Penguin English Library)
南国のトロピカルな島を連想させるイメージと色使い。


先月、スティーヴンソンの「宝島」と映画「ブレードランナー2049」の事を書いたとき、このペーパーバック本のブックカバーについても一緒にまとめようと思っていたんだけど、関連画像が多くなりそうなのでまた改め別に書くことにした。「ペンギン・イングリッシュ・ライブラリー」というシリーズ名で出ているペーパーバック・カバー・デザインからスタートし、他古典文学作品の表紙デザインについてを少し。

R.L.スティーヴンソン「宝島」とブレードランナー2049 (2018年03月17日)
http://tavola-world.seesaa.net/article/r.l.stevenson-and-bladerunner2049.html


今は何かを読もうとするなら、紙の本だけじゃなく、電子書籍でも読むことができるし、著作権切れのものならさまざまなフォーマットでテキストが用意されていて、特にお金を払わなくとも、また期限の制限なども気にすることなく小説や詩なんかを楽しむことができる。読む側からすれば、こうした選択肢の多さは大いに歓迎すべきものなんだろう。ただ、「いつでも読める」というふうに思ってしまうと、そのうち読もう、いつか読もう、読む機会があったときにでも、とだんだんと意欲のトーンが弱まってしまい、結局読むことすらしなくなり、そのうちに「読みたい、と思っていた気持ち」そのものを忘れてしまったりと、何か執着心のようなものが自分の中から消えていることに、はたと気づき、これがいいことなんだろうか? と思ったり。僕の場合は、モニターで沢山の文字を読むにはどうしても限界があって、無限にあるネット・アーカイヴの魅力やその存在を横目で眺めながらも、結局は紙の本で読むことに落ち着くわけだけど、適度な本の重さや、それぞれが持つバリエーション豊かなカバー・デザインは、脳の中にあるブックシェルフ上でタイトル毎に組み合わさり、こうしたグラフィック・アイコン的なものがインデックスとしての役割を果たしていて、意外と読むための訴求へと繋がっているような気がする。といってもほんと微弱なものにすぎないんだけれど。

こんなふうに、テキストだけならネットでいつでも読めるわけだから、特にパブリック・ドメインになった古典作品などは、「本」という商品として売るのは難しくなっているんだろうと思う。テキストだけを読みたいのなら、書いてある中身は同じなわけだから、そりゃ安いほうがやっぱりいいに決まっている。そうなると粗悪な紙、粗悪な印刷、粗悪な製本といった具合に、品質の悪いものが幅をきかせることになっても不思議ではないけれど、意外や、コストは確かに抑えたものではあるが、デザインを工夫することで材質(紙や印刷)の低さをうまく打ち消して仕上がりのいいものがわりとあったりする。
今の時代に生きている作家が書き、今の時代の人(特定の読者層)に読まれることを求めた本なら、ブック・カバーのデザインは斬新で、そうした「時代感」に合わせパッケージングするべきなんだろうとは思うが、100年、200年以上も前の物語をどんなふうにしてヴィジュアル化すればいいんだろうと考えると、幅広い人に合わせた最大公約数的な、尖がってないデザインに最終的には落ち着いてくるように感じる。そして、その落ち着かせ方が地味になりすぎないように、でも特異になりすぎないようにバランスをうまく取るのは意外と難しいのかもしれない。イラストや写真を使うとパッケージとしての賞味期限が短くなってしまうし、固有感も出てきてしまう。クラシックス本の場合、抽象図形の反復や模様・パターンを上手く使うと、時代を経ても色褪せない物語が持つ上品さと深みが出てけっこういいんだなと、思う。
「ペンギン・イングリッシュ・ライブラリー」は評論家や誰かが寄せた序文、解説などがなく本文テキストだけ、そして表紙の紙も特に厚みもなくまたコーティングしたり下地を敷いたりもせず、けっこう廉価になるように仕上げてあって、これ主は学生向けのシリーズなんだろうなと。
角川からも、日本の古典文学作品の廉価版的なシリーズが出ている。デザインのフォーマットが統一されて、ちょっと揃えたくなる。


The Penguin English Library
PenguinEnglishLibrary-Forster-Mansfield.jpg
“Where Angels Fear to Tread(天使も踏むを恐れるところ)" by E. M. Forster (1905)
“The Garden Party(園遊会)” by Katherine Mansfield (1922)

“Persuasion(説得 )” by Jane Austen (1818)
“Great Expectations(大いなる遺産) “ by Charles Dickens (1860-1861)
PenguinEnglishLibrary-Austen-Dickens.jpg
* 画像は右リンクより:http://tagong-boy.tumblr.com/post/172997106026/



Vintage Classics Austen Series

BookCover-JaneAusten-VintageClassics.jpg
* 画像は右リンクより:http://tagong-boy.tumblr.com/post/172472027501/

ヴィンテージ・クラシックスのジェーン・オースティンシリーズから「ノーサンガー・アビー」と「説得」。
かわいい手描きのパターン絵を使ったカバー。



角川文庫×かまわぬ・手ぬぐい柄シリーズ

bookcover-kadokawa-kamawanu-1.jpg
「瓶詰の地獄」夢野久作 / 「山の音」川端康成

てぬぐい専門店「かまわぬ」の手ぬぐい柄を表紙絵に使った文庫シリーズ。
凹凸テクスチャーのある紙に印刷されていて、より布地感が出て手触りもいい。

「家出のすすめ」寺山修司 / 「それから」夏目漱石
bookcover-kadokawa-kamawanu-2.jpg
* 画像は右リンクより:http://tagong-boy.tumblr.com/post/172469379261/

2018年04月04日

Paperback Cover Design Gallery (4) ポストモダン前夜の名作をタイポグラフィで



April is the cruellest month, breeding
Lilacs out of the dead land, mixing
Memory and desire, stirring
Dull roots with spring rain.


四月は最も残酷な月、死んだ土から
ライラックを目覚めさせ、記憶と
欲望をないまぜにし、春の雨で
生気のない根をふるい立たせる。

T.S. エリオット「荒地」(I. 死者の埋葬)、より (岩波文庫 p83 / 岩崎宗治訳)

"The Waste Land" T. S. Eliot
https://www.poets.org/poetsorg/poem/waste-land



「四月は最も残酷な月」で始まるインパクトのある「荒地」の冒頭。ちょうど四月に入ったこともあり、ふと、この部分を思い出した。今回は、このエリオットの「荒地」を起点に、20世紀初頭、ポスト・モダン前夜の文学を象徴する有名な作品のブックカバーの中から、ユニークなタイポグラフィ・デザインのものを選んでみた(フランケンシュタインは19世紀モノになるけれど、古典ということで)。


– Paperback Cover Design Gallery vol. 04–

TS.Eliot-WasteLand-Joyce-FinnegansWake.jpg

T.S.エリオット「荒地」(1922) W.W. Norton社のLiveright Classics版ハードカバー
世界で最も有名な詩人のひとり、T.S.エリオットの代表作。英語圏では、これを読まずして現代文学を語れないほど大きな存在なので、一度原文で読んでみなければいけないな、と思いながらも今のところ日本語訳で済ましたままでいる。元詩だけだとさほど長いものではないが、岩波文庫に目を通すと、注釈だけでも一冊の半分以上のボリュームがあって、やっぱり、英語で読もうという気は薄れてしまう。イタリアの未来派を連想させる、モダンなタイポグラフィ。
ザ・フーの名曲「Baba O'Riley」の歌詞はこの「荒地(The Waste Land)」を意識しているといわれている(サビの部分はそのままやもんね)。


ジェイムズ・ジョイス「フィネガンズ・ウェイク」(1939) ペンギンブックスの電子書籍版
世界で最も難解な小説を挙げろといわれたら、必ずこれが一番最初にくるだろう、という位に理解しがたいことで有名なジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」。言葉遊びや造語・引用が複雑に交錯しているので、まるでアルファベットを使った暗号文みたいだ。そのため、翻訳もほぼ不可能に等しく、なんて厄介なものをジョイスは書いたんだろうと思いながらも、いずれは読んでみたい本の一つとして、みなの記憶の片隅にしっかり存在しているような、そして結局そういう存在のまま終わってしまうような、非常に不可解な小説。という教科書的な予備知識を知っていると、この表紙デザインにおけるタイポグラフィーは、人の脳の中で幾重にも言葉が重なり、また思考が分裂してゆくだろう「フィネガンズ・ウェイク」の本質的な部分を上手く視覚化しているようにみえる。電子書籍だけじゃなく、紙の本もこのデザインにしてほしいな。


* 画像は右リンクより:http://tagong-boy.tumblr.com/post/172518262181/

Kafka-Metamorphosis-MaryShelly-Frankenstein.jpg

フランツ・カフカ「変身」(1915) W.W. Norton社のペーパーバック版
何年か前に、カフカ「変身」の英語版新訳として出され、映画監督のデヴィッド・クローネンバーグが序文を寄せていたこともあって少し話題になったこのバージョン。2000年はじめ頃にペンギン・モダン・クラシックスのデザインを手がけたジェイミー・キーナンがこの表紙をデザインしている。小説の主人公グレゴール・ザムザが変身してしまった「虫」の姿を、16世紀前後の古いイタリアの装飾書体を用いて、グロテスクかつ同時に美しいシルエットに仕上げ、また昆虫特有のディティールをも上手く表現している。これほどアイデア溢れるタイポグラフィはなかなかそう見れないだろうと思う。個人的に、最も優れたブック・デザインの一つじゃないだろうか、と。そして、カフカのこの表紙デザインについては、近いうちに詳しくやろうと思っているので、今回はさわりだけ。キーナンがデザインしたペンギン・モダン・クラシックスのデザインについては以前、記事訳の際に書いたことがあり、興味ある方は下記記事を参照ください。
尚、このペーパーバックは日本のアマゾンでも買えるが、著者名とタイトルだけの検索ではけっこうヒットしにくいので、「W.W. Norton / Kafka / Susan Bernofsky」等のキーワードを入れて探すとすぐに表示されると思う。

海外記事訳:「ペンギン・モダン・クラシックスのデザイン史(2)」
http://tavola-world.seesaa.net/article/penguin-modern-classics-design-history-2.html


メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」(1818)
ポーランドのグラフィック・デザイナー、Maciej Ratajskiさんデザインによるブック・カバー。この表紙の本、オンラインショップなどで見当たらないため、もしかすると実際に出版されいるものではなく、単にグラフィック作品として制作されたものかもしれない。あるいはポーランドで小部数刷られ、限定的に流通しているのかもしれないが詳しくはわからない(小説自体はパブリック・ドメインになっているので自費制作で製本することも可能だ)。フランケンシュタインの本はさまざまな表紙で沢山の種類が出回っているが、そのわりに今一ついいものが少ない。これはあまりにもいいタイポグラフィだったので紹介したかった。この小説はポスト・モダンとは言えないが、かといって二世紀前に書かれたとも思えないほど現代的なところもある。映像化されたり、テーマを引継いだ新たな作品が数多く作られているから身近に思えるのかも。


プロジェクト杉田玄白 趣意書(山形浩生)
http://www.genpaku.org/sugitaidea.html
「フランケンシュタイン」は青空文庫にもあって、翻訳のパブリックドメインのことを調べていたら山形さんの面白い記事をみつけた。膨大にある古典書物の翻訳をどうやって今の時代に出してゆくのか、にはじまり日本の(文芸系)翻訳出版界のことなどなど。


いまの翻訳が進歩しないのは、翻訳者がえらい先生づらして、翻訳も作品でございというような気分でいるからだ。「あたしの翻訳いじってくれるな」ではいつまでたっても先にいけない。翻訳なんか、作品でもなんでもないぞ。もっともっと機械的なものだと思う。それに、いろんなえらい先生だの作家だのがやった翻訳って、そんなにうまくないぞ。



2018年03月19日

Paperback Cover Design Gallery (3) J.G. Ballard "Hello America"

JG.Ballard-HelloAmerica.jpg


リドリー・スコット製作、ネットフリックスで映画化決定!

21世紀初頭、アメリカ合衆国は崩壊し砂漠と化した。1世紀が過ぎたある日、蒸気船でイギリスを出港した小規模な探険隊が、ニューヨークに上陸する。密航者の青年は、自分がこの国の新しい支配者、第45代大統領となることを夢見るが……。残存者のいる諸都市を探訪し、アメリカの夢と悪夢の残滓と邂逅した探険隊の記録を通じて、予言者バラードが辛辣に描き出す、強烈な未来像!
 (『22世紀のコロンブス』を改題・文庫化)

「ハロー、アメリカ」J.G.バラード(南山宏 訳)創元SF文庫

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488629168


 リドリー・スコットがJ.G.バラードの「ハロー、アメリカ」をNetflixで映画化! だそうで、去年5月に制作発表があったみたいだけど、まったく知らんかった(同時期に、ル=グウィン「闇の左手」も "Limited Series" で映像化、というニュースがあったけどその後制作は進んでるんだろうか?)。にしても、ここのところネット配信映画の勢いにはほんと驚いてしまう。フィリップ・K・ディック × リドリー・スコット=「ブレードランナー」という数式が、僕たちに未知なる映像世界を提示しすっかり伝説化したように、バラード × リドリー・スコットという組み合わせも、ブレードランナーに匹敵するほどの映画史上に残る作品には、まぁ多分ならないだろうけど、どんなものが誕生するんだろうか? ちょっとは期待してもよさそうだ。
 そして今回の映像化に合わせ、久しく絶版になっていたバラードの原作小説が改題し、3/22に文庫発売。という嬉しいニュース。こうした映画化などの話題がないと、たとえ有名なSF作家であったとしても、ひと世代過ぎたものは、新たに刊行されない状況だったりして、ちょっとさびしいものがあるけれど、バラード作品はまだまだ絶版のものがあるので、地道にでもいいから出し続けてほしいな。 発売前なので、旧訳の手直しなどがあるのかは今のところ不明だが、ネットで拾える情報を少し見ていると、この「ハロー、アメリカ」でバラードは、これまでの濃縮小説のスタイルをやめ、パルプ小説などにみられる軽い文体を意識して書いたらしく、それがバラードの描きたいテーマと合っているか否か、みたいなことで賛否が分かれるんだとか、そういう実験的な試みを含めちょっと面白そうな感じ。



Book Cover Design Gallery

「ハロー、アメリカ」の海外本表紙をいくつか集めてみた。

JG.Ballard-HelloAmerica-bookcover-3r.jpg
左は1981年、ロンドンの出版社ジョナサン・ケープから出たイギリス版の初版本ハード・カバー。「Peter Harrington」というオンライン古書店では225ポンド(現在の為替レート、1ポンド=約148円で換算するとおおよそ 33,000円)の値がついている。
右はイギリスの4th Estateから出ているペーパーバックの表紙。(レディオヘッドのレコジャケなどを手がけている)スタンリー・ダンウッドがデザインしている。カッコイイ!

JG.Ballard-HelloAmerica-bookcover-2.jpg
左は2013年にリヴライト・パブリシングから出されたペーパーバック版。
右は1988年に「Carroll & Graf Publishers」から出ていたアメリカ版の初版本ハード・カバー。真っ赤な赤枠囲みとコントラストの強い写真の組み合わせは、どことなく雑誌TIMEを連想させいかにもアメリカ的なイメージだ。e-bayでは40ドル前後で出品されている。


* 上画像は右リンクより:http://tagong-boy.tumblr.com/post/171953783821/

2018年03月12日

Paperback Cover Design Gallery (2) Don Delillo "White Noise"

DonDelillo-WhiteNoise-PenguinBook.jpg
Don Delillo "White Noise"、Penguin Booksのペーパーバック。

デリーロの小説の中で一番有名で、かつ最も評価の高いのが「ホワイト・ノイズ」。このタイトルはペーパーバック、ハードカバーを含めいろんな種類のデザインが出ているけれども、僕は空虚な都市景の写真とスタイリッシュなフォントを組み合わせた、このシリーズのデザインが最もいいなと思う。
カバー・デザインはPaul Buckley、写真はJason Fulfordという人。
それにしてもデリーロ、ピンチョンと双璧をなすほどの米現代文学を代表する作家なのに、なんで日本ではいまひとつ人気がないんだろう? 極めてアメリカすぎるせい? でも、デリーロの書く文章と文章の間には不思議な「すき間」があって、読み手にそのことばの先を想像させ、物語と平行し、いくつもの意味を考えさせてくれるようなところがあり、東洋的な感覚を持っているようにも感じたりする。
買ったはいいものの、出だしの一章を流し読んだ程度で、まだ読むに至ってない一冊。もう少し、もう少し本棚に立てかけておいて、期待と集中力が上がってくるまでを待ちたい。

今回の「Paperback Cover Design Gallery」は厳密にいえば、ペーパーバックだけじゃなくハードカバーも混じっている。同じ小説でも、表紙イメージに対するアプローチが全然違うので、面白いといえば面白いが、これだけバリエーションがあると(他にもまだあって、デザイン的にあまり良くないものは省いている)デザインの違いっていうのは、結局のところ意味をなさないんだなと思えてきたりする。


DonDelillo-WhiteNoise-PenguinDeluxe-OrangeCollection.jpg
" Penguin Classics Deluxe Edition -25th Anniversary Edition- " (Dec. 2009)
" Penguin Orange Collection "

左は、ペンギン・クラシックスのデラックス・エディション。最初の出版から25周年記念として出されたもの。序文をリチャード・パワーズが書いていて、そっちが少し気になる。
右のはペンギン・オレンジ・コレクション。クラシックなペンギン社のペーパーバック・フォーマットに今風のイラストを合わせたもの。
ペンギン版のカバー・デザインは、物語のイメージを喚起させるような具象的モチーフを使って、デザインするのが特徴なのかもと思ったりした。


DonDelillo-WhiteNoise-Picador.jpg
Picador edition
Picador 40th Anniversary Edition (Feb 2012)

左は、現在出ているごく一般的なピカドール版のカバー。表面が艶消しマットになっていて、擦れたり白いヨゴレとかがけっこう目立ってくる。
右は、40周年記念版らしいが、何の40周年なんだろう? と最初に思った。おそらく作家活動開始から40年ということのようだ。
ピカドール版のデザインは、物語やタイトルから連想するイメージをシンプルな記号に表し、インパクトの強いグラフィックにするのが特徴なんだろうか。あくまでもここに例を挙げた、たった二つの画像から判断してるにすぎないんだけど、偶然二つ共に黒が基調になっている。


DonDelillo-WhiteNoise-1stEdition-1985.jpg
Viking Penguin Inc.から出版された初版本ハード・カヴァー。初版という先入観があるせいか、シンプルだが妙に風格を感じさせるデザインだ。この初版本、Abe Books(アメリカを中心に世界七カ国の中古書店がオンラインで結ばれ、古書の価格比較や購買が出来る仲介サイト)では、200ドルから500ドルの間で値がついている。


* 上画像は右リンク先より:http://tagong-boy.tumblr.com/post/171692858421/

2018年02月28日

Paperback Cover Design Gallery (1)

BigGreenTent.Ulitsukaya-StartOfSomething.Dybek.jpg
* 画像は右リンク先より:http://tagong-boy.tumblr.com/post/171308028881/


– Paperback Cover Design Gallery vol. 01–

資料やアーカイヴ系の画像なんかは、たいてい Tumblr の方でフォローしてたりするんだけど、画像とキャプションだけだとちょっと物足りないような気もするし、ペーパーバックのデザインもなかなか奥深いものがありそうなので、一度この自分の Blog に少しまとめておきたいように思いはじめ、簡単にだけど、気に入ったカバー・デザインを集めてみようと思う。僕みたいに、ブックカバーというグラフィック・アイコンから、新しい、知らない作家に興味を持つ人もきっといるだろうし。

こういう場合ほんとは、ある程度カテゴリーで分けてみたり、タイポグラフィやイラストのタッチなど、各種テーマごとに分けた方がいいんだろうとは思う。だけれども、専門サイトなんかでは結構そういう風にしているのが多いので、あまりそのあたりを気にせず気楽にやっていくほうが、ランダムなざわざわ感があるだろうし、関連のないもの同士が隣り合うことで浮かぶ発見、みたいなものも期待できる。そのうち、数が揃ってくると、何か傾向が見えてきたり、カテゴライズできる何かがわかってくるようになるかもしれない。といっても、上の画像は緑と赤の補色関係、下の画像は白と黒と、ちょうど反対の色相関係で、またどこか手描きの要素を感じるものでかろうじてそれぞれに繋がりがあるものを選んでいる。そして、僕の知っている馴染みの作家から探すのをスタートした。




" The Big Green Tent " Lyudmila Ulitskaya (Picador)
新潮クレストから出ている「ソーネチカ」が日本でも人気なロシアの女性作家、リュドミラ・ウリツカヤの最新作、になるのかな? 2015年11月に出版された「ザ・ビッグ・グリーン・テント」。ペーパーバック版は英ピカドールから2017年に刊行。600ページ弱ある。邦訳はまだ出てない。
色の使い方、文字の選び方、パターンの置き方がほんと上手で、こうしたところからもなんとなくの物語の雰囲気が分かるように思え、またアイコン・イメージが頭に残って、結果潜在的な購買意識を強めているようにも感じる。


" The Start of Something " Stuart Dybek (Vintage)
連作短篇集「シカゴ育ち」で知られるスチュアート・ダイベックの、短篇セレクト本。「シカゴ育ち」からも何作かを収録している。ちびた鉛筆を寄せ集め、その木軸部分にうまくアルファベットを乗せて、グラフィカルに見せるアイデアはとても上手だなと思った。小説を書くために使いきった(のだろう)鉛筆の痕跡が、書くという行為の労力と費やした時間を見事に視覚化しているし、ショート・ストーリーのショートと短い鉛筆をかけているんだなと。
ダイベックの「シカゴ育ち」は、須賀敦子さんが著書「本に読まれて(書評集)」のなかで大絶賛していたり、翻訳者である柴田元幸さんも、これまでに自分が翻訳した海外小説のなかで最も出来のいい訳になっていると語っていたり、日本で読まれている海外文学のある種最高の部類に入っているタイトルなんだと思う。最初読んだときは地味な印象だったけれど、あとからじわじわ面白さがわかるようになって、ぼくもこの「シカゴ育ち」は大好きで印象に長く残っている小説のひとつだ。


" In Watermelon Sugar " Richard Brautigan (Vintage)
リチャード・ブローティガン「西瓜糖の日々」の原書。下に貼っている画像は、おそらく一つ前のエディションのカバーだと思う。彼のぶっ飛んだ頭の中から出てくる言葉・文章の楽しさを、グラフィカルに表した素敵なカバー・デザイン。現在出ているものは、ブローティガンのモノクロ写真を使った青い色調のデザインに変わっていて、あまり良くない。新しい版で、がらっとデザインが差し変えられてしまったということは、やっぱりブローティガンの個性的なキャラクターが全面に押し出ていないと、読者の反応がいまひとつだったのかもしれない。


" A Disaffection " James Kelman (Vintage Classics)
今回、このカバー・デザイン巡りをしていたときに初めて知ったスコットランドの作家、ジェームス・ケルマン。邦訳は出てないので、内容がよくわからないけれど、「不信」というタイトルと黒板に書かれ、消されている白墨の文字から、何か学校の授業や講義から広がる物語なのかも、と連想する(wikiにちょっとあらすじっぽいのがあって、「意識の流れ」系の文体らしい)。


InWatermelonSugar.Brautigan-Disaffection.Kelman.jpg



日本版のカバーいくつか
Ulitsukaya-Dybek-Brautigan.jpg
リュドミラ・ウリツカヤ「ソーネチカ」、リチャード・ブローティガン「西瓜糖の日々」とスチュアート・ダイベックの「シカゴ育ち」。