2017年01月30日

海外記事訳:「沿ドニエストル共和国の十代」

CalvertJournal-JuliaAutz-Transnistrien.jpg
Teens of Transnistria (The Calvert Journal)
Text: Anastasiia Fedorova / Image: Julia Autz (上画像は下記リンクより)
http://calvertjournal.com/features/show/5470/post-soviet-youth-transnistria-teens-julia-autz
(上リンク先には、オーツさんの撮影した沿ドニエストルの若者たちのポートレートや街の様子が沢山載っている)


旧共産圏だった東欧諸国の建築を調べているときに見つけた「The Calvert Journal」というサイトがすごく気に入って、ちょくちょく見るようになった。主にソ連の衛星地域だった東ヨーロッパやCIS諸国についてのカルチャーを紹介している。今はネットの時代で、世界中の相当にローカルな場所の話題がタイムラグ無く知れるようになったとはいえ、未だこの東欧地域の情報はそう多くはないし、このサイトで取り上げている話題やテーマも視点がユニークなので、見ていてとても新鮮だ。また写真のクオリティがすごく高くヴィジュアル的にも充実しているので(東欧版ナショナル・グラフィックといっていい位)、ただ画像を見るだけでも十分に楽しめると思う。記事のタイトルやキャッチコピーがニューウェイヴや1970年代のロックの曲名や歌詞を一部引用していたりして、その辺の音楽を聴いて育った世代の人たちが主に関わっているのかなと思ったり、ちょっと親近感がわく。

今回は、このサイトにあった未知の国「沿ドニエストル共和国」の若者たちについての記事を一部訳し、個人的に気になった情報を少し加えながら紹介したい。記事英文がけっこう長かったので、僕がひと通り訳したものを一度母にチェックしてもらい、それを直し最後まとめた。訳文を簡単にレイアウトしPDF化、すぐプリントできるようにしたので興味ある方はどうぞ。

訳文のPDF版(A4 / 0.1MB):A4-TeensOfTransnistria-Translated.pdf


あまり聞きなれない国だろうからまず「沿ドニエストル共和国」についてを簡単に。
沿ドニエストル共和国はヨーロッパの外れ、ウクライナとモルドヴァの間に挟まれた細長い国で、国土面積は4,163 km2、人口は約50万人強(日本の鳥取県が人口約58万人弱で県面積が3,507 km2とあるので、鳥取県よりもやや面積が広く、人口が一割強少ない程度という感じだ。知名度・認知度の低さでも二つはどこか共通するところがあるような…)。モルドヴァとはドニエストル川を境に隔てられていて、陸地つながり的に見るとウクライナ側にある。
この国は1990年にモルドヴァから一方的に独立を宣言したものの、世界中の国からはどこからも承認されず、国際的には「国家」として存在しないことになっている。ソ連末期に、同じ民族ではあるが異なる名称でそれぞれ呼びあっていたルーマニア人とモルドヴァ人の間に「ルーマニア・モルドバ統一運動」が起こり、モルドヴァが独立した際にモルドヴァ語への統一化が進められることになった(ルーマニア語の方言みたいな感じで、言語表記がキリル文字からローマ字になった)。しかし、この地域のドニエストル川以東、ウクライナ側に住んでいたロシア系住人らがこれに反対し住民投票を行った結果、98%近い独立賛成の票を集め「沿ドニエストル共和国」としてモルドヴァから独立することとなった。独立に至る根本的な原因は、欧州側に帰属するか、ソ連時代の旧体制を維持できるロシア側につくかという、政治的な問題(民族的な分断ではない)だった。
近年はネットの普及で情報も入ってくるようになった為か、閉ざされた国という印象がずいぶん薄れたけれども、少し前は入国することが難しくその謎めいたところから、ロシアの兵器工場があって武器製造を秘密裏に行っているといった噂が流れていたり、とても怖いイメージがあった。

*) 参照:「国マニア」吉田一郎(ちくま文庫 / p130-134)& wiki



沿ドニエストル共和国という国の存在はほんとユニークだ。国家として認められる必要条件(国民・領土・政府・主権)は全て満たしているのに、どこからもその存在を認められていない。でも、この地に暮らし生活している人は確かにいて、その中で経済もちゃんと成り立っているし、政府も機能している、産業だってある。こうして実在するのに国際的なルール・定義の下では存在しないことになっている不思議さ。世界でもそう例のない未承認国家、沿ドニエストルのあり方を見ていると「国」って一体何なんだろう? と考えるいいきっかけにもなる。「線を引いて、はいここからが国ですよ」だったり「同じ言葉や慣習を持つ民族が特定の地域に集まったところでもまた国にはならない」、単純にはいかないし何か普遍的な基準もない、この複雑なところに人の社会の面白さがあるんだなと。


Map-Transnistria-TheGuardian.jpg
https://www.theguardian.com/world/2015/feb/20/transnistria-russia-rouble-crisis
* 画像はThe Guardian、より



「沿ドニエストル共和国の10代」 "Teens of Transnistria"
Japanese translated by Tagong-Boy
Original text by Anastasiia Fedorova (The Calvert Journal)


ソヴィエト連邦崩壊の間、北東部の国境がウクライナと接する、狭く細長い国がモルドヴァからの独立を宣言した。沿ドニエストル共和国は独自の通貨、出入国管理、議会、国歌、そして市民権を持っている。しかしまだ、公式に沿ドニエストル共和国という国は存在しない。自ら宣言をしたその国家は、他の国々からは承認されてない、ロシアでさえも。
During the collapse of the Soviet Union, the narrow strip of land which forms the northeastern border with Ukraine declared independence from Moldova. Transnistria has its own currency, border controls, a parliament, a national anthem and citizenship. Yet, officially, the country of Transnistria doesn't actually exist. The self-proclaimed state is not recognised by the rest of the world − not even Russia.



沿ドニエストル・ルーブルについて

TransnistrianRuble-PlasticCoin-2014.jpg
Transnistria to Introduce Plastic Circulation Coins (*画像は下記リンクより)
http://news.coinupdate.com/transnistria-to-introduce-plastic-circulation-coins-4441/
(現在、該当ページは削除されている)

沿ドニエストル共和国にはれっきとした中央銀行があり、自国の通貨を発行している。その中で、世界でも例のないプラスティック・コインというものがありコイン・コレクターたちの間ではちょっと知られた存在になっている。2014年に世界で初めて公式な通貨としてプラスティック・コインを発行し流通させた。プラスティック(ポリマー)の紙幣を導入している国はわりと多いが、プラスティックのコインっていうのは初耳だったので斬新だった。鋳造コストなんかを考えると、経済規模の大きくない国にとって、こういう通貨のあり方はいいのかもしれない。ページの一番最後にこのコインについての動画も貼った。偽造防止のためか蛍光塗料が塗られていて、ブラックライトを当てると部分的に発光する。また見た目とは違って、ものすごく硬いみたいだ。

お金(金属コイン)の持つ物理的な重みや肌触りなどを知っていると、その質感とお金の価値のようなものがセットになって、皮膚感覚と数字の意味合いが交じり合うようになるのだと思う。時代の流れで、こうしたプラスティックのお金や電子マネーなどが人の意識下にリンクされていくと、何だろう、記された数字がどこか軽くなって、お金としてではない違う意味合いを帯びてきそうな感じもする。プラスティック貨幣というのは、金属コインと電子マネーのちょうど中間に位置するような存在で、これから先にきっと変化してゆくだろう電子マネー社会への橋渡し的な存在になるのかと思えたり。こうして人々が便宜的に使っている通貨、それに抱く価値や意識が変化すると、また社会自体も変わっていくのだろうな。

未承認国家のためか、沿ドニエストル・ルーブルは国際的な通貨コードがない状態で、オンラインの両替サイトでは為替レートの確認ができない。旅行者のブログなどに載っている現地の両替所レートを当たってみると2013年頃のレートは、おおよそ1ドル=11沿ドニエストル・ルーブル、1ユーロ=15沿ドニエストル・ルーブルだった。2010年頃の情報と比較すると主要通貨に対しては15%程下落している。隣国モルドヴァ・レイとは変動幅が少ない。為替の動きからも、国際的な関係性がみてとれる。ロンプラのサイトを見ると、沿ドニエストルの中央銀行HPにレート表示があるとの書き込みがあったので早速飛ぶと、確かに載っていた。1沿ドニエストル・ルーブルは約11円弱。ちなみに沿ドニエストルのプラスティック・コインは4種類を1セット(1+3+5+10=計19ルーブル:約210円)にしたものが、e-bayに出品されていて、現在は4ドル弱(500円弱)が平均的な価格で落札されている。
http://tagong-boy.tumblr.com/post/152539565551/

Pridnestrovian Republican Bank : http://www.cbpmr.net/


■ (旅行者目線の)出入国管理
沿ドニエストル共和国は西部がモルドヴァ、東部がウクライナと国境を接している。世界には聞いたことのない国が沢山あるけれど、きっとその中でも沿ドニエストルはマニアックな部類に入ると思う。意外と日本人旅行者も行っていて WEB旅行記などで細かな現地情報が見れたりする。モルドヴァから入国(入域?)するのが一般的なためか、ウクライナから入る場合の情報があまりない(ロシア側から東欧方向へ抜けてくることになるので、このルートは難しいだろうと思う)。ウクライナ国境では賄賂の要求が頻発・恒常化しているとのこと。入国に関する諸条件(ビザの取りやすさ等)は、その国がどんな風に他国と関係しているのかを知る一番分かりやすい手がかりになる。なので、こうした国境でのあれこれは沿ドニエストルがどうあるのかを知るいい指標になっていると思う。

モルドヴァから沿ドニエストルに行く場合、一日以内ならビザはいらないようだが、滞在する場合はいくつかの手続きが必要な様子(国境でエントリー・シートを渡され、パスポートに出入国のスタンプが押されないそうだ。通過目的、あるは日帰りなら10時間以内、滞在なら24時間の許可が与えられる)。このあたりは、旧ソ連邦諸国の手順とおおよそ同じで、入国(入域?)してから24時間以内にイミグレーション・オフィスで外国人登録をし、宿泊先でレギストラーツィア(滞在証明)のスタンプを押してもらう必要がある(レギは出国時に絶対必要)。ホテルには外国人料金が設定されている。

https://www.lonelyplanet.com/thorntree/forums/europe-eastern-europe-the-caucasus/moldova/ovenight-stay-in-tiraspol-transnistria
http://wikitravel.org/en/Transnistria




2014年、ドイツのフォトグラファー、ジュリア・オーツは確かな未来のない国、あるいは地図上にはない場所で成長することをどう感じるかを捕えるため、沿ドニエストル共和国を旅した。オーツは主に首都ティラスポリで暮らし、二ヶ月間この国に滞在した。彼女はパレードや休日、政治色の強まる公共の場所や人々の日常生活の中にみえる国の雰囲気を捉えようと、いくつかの小さな村だけではなくもう一つの大きな街、ベンダーにも訪れた。
In 2014, the German photographer Julia Autz travelled to Transnistria to capture how it feels to grow up in a country without a certain future or even a place on the map. Autz stayed in the country for two months, mainly living in the capital, Tiraspol. She also visited Bender, another big city, as well as a few small villages trying to capture the county's atmosphere both in the politically charged public spaces during parades and holidays, and in people's everyday lives.


「巨大なロシアの影響が政治、経済、そして一般生活の上にも現れている。ロシアからの援助なしに国は生き残れないだろう」とオーツは言う。2014年3月、ウクライナ危機とクリミア併合の最中、沿ドニエストル共和国政府はロシアの一部となることを求めた。これとは対照的にモルドヴァはEUに加わる努力をしている。ウクライナとの類似は明らかだ。滞在中、私は彼らの日常生活を紹介してくれた多くの人たちと知り合った。国民国のない国家、歴史、あるいは近い将来のない国で。」
"There is a huge Russian influence on political, economic and public life. Without aid from Russia the country wouldn't be able to survive," Autz says. "In March 2014, during the Ukraine crisis and the annexation of Crimea, the Transnistrian government asked to become a part of Russia. In contrast to this, Moldova has put in efforts to join the European Union.
The parallels with Ukraine are obvious. While staying there I got to know a lot of people who introduced me to their everyday lives − in a state without a nation, without history or a foreseeable future.”



まず最初に、フォトグラファーは閉鎖的な地域社会に入るとっかかりを見つけるのが難しいことに気づいた。最初のころ、沿ドニエストルの雰囲気はよそよそしく、人々はどうにも打ち解けてはくれなかった、と私は思った。しかし、その理由は言葉の壁にあるのだと思う。彼らはカメラを手にした西側世界の外国人を見ると、パラノイアの一種に陥ってしまう。多くの人々は西側の価値観と関わることがない。代わりに、彼らはプーチンを賞賛し、沿ドニエストルがいつしかロシアの一部になることを望むのだ。彼女は言う。
At first, the photographer found it hard to penetrate the surface of the closed community. "In the beginning I thought the atmosphere in Transnistria to be cold and that people were very reserved. But I think the reason for that lies in the language barrier. They can become kind of paranoid when they see a foreigner from the western world with a camera. Many people don't relate with western values. Instead, they admire Putin and hope that Transnistria will become a part of Russia," she says.


* 内陸にある国は、外国人に対し特に閉鎖的になることが多いように思う。そしてそれとは正反対に、態度では表に見せることはないが、知らない世界への興味も内に秘めているようにも思う。以前に行った中央アジア、ウズベキスタンの最西にある「カラクルパクスタン共和国」も上のレポートと同じようにとても閉鎖的な場所で人の態度もどこかよそよそしいところがあった。特にカメラを手にしていると、ただでさえ特異な目でみられるのにさらに警戒されてしまい、短い滞在だったものの、けっこう苦労した記憶がある。でも観光化されて、お金さえ出せば快適で不自由のないサービスが得られ、払った金額に比例した笑顔が振りまかれるような所に行くよりも、印象に残ることばかりだった。


沿ドニエストルに外国人は多くはない、そしてたいていの人々は西ヨーロッパに行った事がなかった。それで彼らはとても興奮し、私と一緒に時間を過ごしたかった。コミュニケートするのはとても難しかったけれど、人々はグーグル翻訳や英語を話せる友達の助けを借りて話そうとした。
"There are not many foreigners in Transnistria and most people have never been to western Europe, so they were really excited and wanted to spend time with me. Although it was very hard to communicate, people tried to speak with the help of Google Translate or their English-speaking friends.



オーツは、長い夏の日を浜辺や公園で過ごす沿ドニエストルの若者たちを写真に収めた。彼らが大人になる為に備えるフラットやストリート、学校を記録した。「若い世代は多くの自由な時間を野外で過ごすの」と彼女は言う。「散歩に出たり、あるいは中庭や屋上にたむろする。またティラスポリの街には浜辺があって、暑くなると彼らは泳ぎに行くの。一日中友達と外で過ごせるから、沿ドニエストルの夏が本当に好きなの、って誰かがが言った。でも冬になると、ティラスポリでは何もすることがなくなる。すごく寒くて、気を滅入らせてしまう。」
Autz photographed young Transistrians at the beaches and parks where they spend long summer days; documented their flats, streets, schools that provide the setting for their coming of age. "The young generation spends a lot of their free time outdoors", she says. "Going for walks or hanging out at the courtyards and rooftops. They also have the city beach in Tiraspol, where they go swimming when it’s hot. Some people told me they really like the Transnistrian summer because you can spend the whole day outside with friends. But in the winter, there is nothing to do in Tiraspol. It is very cold and it can be very depressing."



沿ドニエストルの多くの若者たちもまた、将来への懸念を見せた。ひどい経済状況に仕事不足、そして地方の大学の学位は国際的に認められないという事実などを。若者らの人生に必要不可欠なこうした不安が、ソヴィエト時代の過去を懐かしむこの国の終りなき郷愁感と共に、写真の中に透けて見える。この分裂はフォトグラファーには明白だった。一方で、私の写真は変化したように見えない場所や人々の姿だったりを示す。世界の列強国の一つだったソヴィエト時代を懐かしみ追憶にふける年配者のように。しかし他方では、人々の表情の中に憂うつや悲しみも見て取れる。特に、より多彩でより希望に満ちた世界、〜反抗、可能性、自己の発見〜といった若者の自由を許す生き方を夢見る若い世代には。
Many young Transnistrians also revealed their concerns for the future: the tough economic situation, the lack of jobs and the fact that a local university degree is not recognised internationally. This uncertainty, an integral part of a young person's life, shines through in the photographs, along with the country's endless nostalgia for the Soviet past. This dichotomy was very apparent to the photographer: "On the one hand, my pictures show places and people that don't seem to have changed, such as the elderly who reminisce wistfullly about Soviet times, when they were part of a world power. But on the other hand, you also see melancholy and sadness in people's faces. Especially the younger generation who dream of a more colourful and more hopeful world − of a life which allows the freedoms of youth: rebellion, possibility, and finding yourself."



沿ドニエストル共和国のプラスティック・コインを解説している動画
解説者のカラフルなネイルがコインよりも気になってしまう。

First plastic coins in the World Coins of Transnistria (Coins Moscow.com)



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