2016年01月05日

まあるく


短編第三弾。詩のようにスカスカとして短く、さほど意味のないものもいいなと思って、ノートにメモ書きしていたものを少し直した。ドイツにちなんで、かつての通貨マルクが少しかかっている。



まあるく

紙のはじをまあるく切り取る。丸く、ではいけない。あくまでも、まあるく、だ。使うハサミは重要でなるべくならドイツ製のもの、それもヘンケル社のものであるといい。切れ味はもちろん最高。これを使うとほんとうまい具合にまあるく切り取れる。紙は何だっていい。藁半紙でも上質紙でも包装紙でも方眼紙でも。いい紙、そうでなくても。紙はさほど気にするものでもない。ハサミの切れ味が最高であるのなら。

こうして僕はハガキ大の紙を左手に持ち、右手に収めたハサミでそっと紙の角を切り取った。ハタリと小さな紙片が机の上に落ちる。このあっけなさ。小さな羽虫が舞い降りるように、平らな机の上に着地した。半円と直角のシルエット。おもむろに、カーブした部分と自分の爪先とを合わしてみる。見事にその形は Ich した。
なんだか急におかしくなってフフっと笑いが出てしまう。すると鼻息でその紙片は飛んでしまった。落ち着きのない跳躍。まあるく切り取ったこの小さな紙はフラフラと床の上に落ちていった。まあるく切り取った紙片は床の上に静かに落ちた。


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2015年07月18日

Soup of The Day


短篇第二弾です。原稿用紙換算で10枚弱ほどなのでショートショートくらいな感じ。前回は旅ものだったけれど、今回は絵本を想像しながら書いてみた。
少しはマシになってるかな?
「ピジンとフランボワーズ」は調べものが進まないので、8月はじめくらい。



Soup of The Day  

 ある晩のこと、父ファデールの帰りを待つ幼いタップと彼の母リラが、小さなキッチンにいた。リラが、夕食の準備にとりかかろうとキッチンに立っていたら、タップがのこのこと入ってきたのだった。リラの周りをちょこまかと動き回るタップの手には小さな褐色の玉が握られていた。
「ねえ、おかあさん」
「なぁに、タップ。まだ夕ご飯はできてないから、リビングで静かにしていて。今日はあなたの好きな野菜のスープよ」
「うん、でもとくにすることがないもん」
「このあいだ、お父さんに買ってもらった海洋図鑑はもう読んでしまったの?」
「ううん、読んでるよ。深海魚のページに入ったところ。でもちょっと気味がわるくてさ。のこりはそんな魚と、海草しかないんだもん。もういいや」
「どのページも本物そっくりの絵だったもんね。海の底にはあんな魚たちがたくさん泳いでいるのよ」
「うわぁ、海で泳ぐの怖いなぁ」
「だいじょうぶよ、タップの身長じゃそんな深いところにまで足が届かないんだから。じゃあ、少し夕ご飯つくるの手伝ってくれるかな?」
「うん。でね」
タップはにっこりとうなずくと、後ろ手に組んでいた手をほどいた。右手を前に出し広げ、握っていた小さな塊をリラに見せた。
「あら、なにそれ?」
「せっけんだよ、浴室の」
「ああ、どこかで見たことがあると思ったら。もうなくなってきたのね。わざわざ持ってきてくれたの? 新しいのと交換してくれるかな?」
「もう、これしかなかったよ」
「あら、そう。じゃあ、明日買ってこなきゃね」
「そうだね」タップは少しつまらなそうに返事をし、一度口をつぐんた。調理台を見上げ、そこに並ぶ野菜やステンレスの鍋、陶器の皿を少し眺めたあと、再び口を開いた。
「ねぇ、おかあさん。これスープの中に入れたらどうなるかな?」スタップは腕をうんとのばし、リラの顔にせっけんを近づける。リラは小さな手の中にある、褐色の塊に視線を向け鼻を寄せ匂いをかいだ。トリュフをかいでいるときのように鼻が動いた。
「まぁ、タップ! あなた、おもしろいこと考えるのね。いままでそんなアイデア思いつきもしなかったわ。ほんとどうなるのかしら。じゃぁちょっとやってみようか?」
リラはタップの手からせっけんをつかみ、鍋の中にぽちゃりと放り込んだ。そのあとに、野菜を入れ、そのまま火をかけた。タップはにっこりとほほえむ。

コトコトコト
小さく鍋が揺れる。それにあわせてタップが腰を振る。

ユラユラユラ
炎は少し勢いを増し鍋底に挑む。それにあわせてリラがレードルを回す。

グツグツグツ
鍋がグチを言いはじめる。それにあわせてタップが腰を振る。

ブクブクブク
鍋から泡があふれ出す。それにあわせてリラが大きな声を張り上げた。
「きゃ! 火をとめなきゃ!」

カシャン。火は消えても鍋口からはどんどんと泡があふれ出ていた。泡だらけになったキッチンの中でタップは大喜びだった。もちろん、リラは喜んでなんかいられなかった。泡を両手ですくいとり、流しの中に投げ落とす。

「タップも手伝って!」リラはあふれた泡で遊ぶタップに向かって言った。タップはその声を聞いてもなお、アコーディオン奏者のような仕草をしながら、泡を腕の中に取り込みかき混ぜていた。
「いつまでもそんなことしてないの!」リラはややあきれた声を上げ、泡の中から鍋の蓋を探し出すと、最後の手段とばかりにその蓋で鍋を閉じた。しばらくの間は、まだ隙間から泡がぶくぶくとあふれ出ていたが、鍋の熱が次第に冷めていくと、それもやがて止まった。

キッチンにあふれかえっていた泡をようやく取り去り、リラはタップの頭の上に残っていた最後の泡を包むようにつかむと、小さなため息をついた。
「ふう、これで元通り。タップ、ほらみて、スープがほとんどなくなっちゃった」リラは鍋を傾けタップに見せた」
「今日はスープが食べれないの?」
タップは心配そうな声でリラに尋ねた。
「そうね、残りがこれだけじゃね。おとうさんの分もとっておかなくちゃいけないし、タップ。悪いけど今日は野菜のスープはがまんしてちょうだい。代わりになにか別のもの作ってあげるから」リラはそういって、冷蔵庫の中を覗いた。
タップはうらめしそうにスープの入った鍋をみていたが、すぐにあきらめたのか、リラの隙間に入って冷蔵庫の前に陣取った。リラはいくつかの野菜を取って、再び調理にとりかかった。

「タップ、さっきはびっくりしちゃったね。せっけんって、あんなに沢山のアクが出るのね」
「アク?」タップは尋ね返す。
「そうよ、スープを作るときはね、お鍋の中で野菜さんや具材たちがケンカをしてね、アクを出すの。お互いが悪口を言い合って、泡になって出てくるのよ。ほら、隣のジュゼッペおじさんも、怒ったら口から泡をいっぱい出すでしょ?」
「うん、いーっぱい飛んでくる。あれイヤなんだ。腐った魚みたいな臭いがするもん」
タップは出来うるかぎりの苦い顔をしてみせた。
リラはタップの頭を軽くなで、話を続けた。
「お鍋の中は熱いし、狭いから、野菜さんたちがもう大変なの。それで、たーくさんケンカをしてね、最後には仲直りするのよ。そうしてね、すっごく美味しいスープができあがるの。だから、アクをこまめにすくって、取ってあげなきゃいけないの。いつものスープは美味しいでしょ? あれはたくさんの野菜さんたちが、みんな仲直りしたからなのよ」
「ふうん、だから美味しいのか。じゃあさっきのスープはすごくいっぱいケンカしてたってこと?」
「そうね、あれだけ泡が出たんだもん。仲が悪すぎたのかもね。でもきっと最後に残ったのは、仲直りしたはずだから美味しくなってるはずよ。まぁお父さんに味見してもらいましょう」

タップが何かを言おうとしたその時、玄関のベルが鳴った。
「あ、お父さんが帰ってきたんだわ」
リラはそう言うと玄関へ向かった。タップもくっついていった。
玄関には仕事帰りのファデールが立って、二人の出迎えを待っていた。
「リラ、戻ったよ」
「おかえりなさい」
ファデールはリラにキスをすると、タップの頬にも同じようにキスをする。
「おかえり」タップは照れくさそうに顔をくしゃりとすぼめた。
「さっき、帰りの坂道でジュゼッペじいさんとすれ違ったよ、こんな時間に。薬局に出かけるみたいだった。急に風邪をひいたみたいで、いつもの調子じゃなくてさ、大きなくしゃみをしてたよ。早いうちに治したほうがいいね」
「まぁ、大変ね。しばらくの間、染らないように話かけないでおこうかしら」

ファデールはキッチンをのぞき、リラに尋ねた。
「料理のいい匂いがするね。すぐに食べれる?」
「ええ、あなたの嗅覚は時間の逆算までできるのかしら。ちょうど出来上がったばかりよ。今日はねタップも手伝ってくれたから、いつものスープとはちょっと違う味になってるかもね。ねぇタップ」リラは彼の方をみて、ほほえんだ。
「たくさんケンカした野菜だよ」
タップは両手でげんこつをつくり、ファデールの太股を連打した。
「ケンカした野菜?」
「うん、お鍋の中で」
「まぁ、よくわからないけれど、楽しみだね」
ファデールはテーブルにつくと、タップもとなりに座った。
「それでね、少し失敗したから、一人分しか残ってないの」リラが申し訳なさそうに言った。
「さては、タップが何かしでかしたのか? 二人の分は?」
「ううん、でも、まぁそうね。私たちのは作ってるところだから、気にしないで。お腹すいてるでしょ?」
「ああ、でもせっかくタップが作ったんだろ、いらないのかい?」
「うん、また今度食べる」タップはきっぱりと物分かりよい返事をした。

リラはスープ皿に、鍋のスープを入れファデールの前に置いた。中に浮かぶ野菜たちはみな色が落ちて、真っ白だった。人参もパプリカも、ズッキーニも、ジャガイモも、カブや大根のように白くなっていた。
「変わったスープだね」ファデールは不思議そうにその皿を見つめた。
タップの目が興味津々だった。
「じゃ、いただきます」
ファデールは白い野菜の浮かぶスープを口にした。
「美味しい?」タップがおそるおそる尋ねた。
「うん、美味しいよ。少し変わった味だけど」
タップは、ファデールの感想を聞き安心したのかにんまりと目を細めた。
「あ、そういえば、浴室のせっけんなくなってただろ。買ってきたからあとで置いといて」ファデールはスプーンですくった白い人参を口に放り込み、頬をもぐもぐさせながら言った。
「まぁ、ありがとう。そうなの、明日買いに行こうと思ってたから助かるわ。あなたは耳も優れているのね」


by Tagong Boy, July 2015


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2014年12月29日

A Rail (Short Story)

A-Rail-1.jpg
*Click for Large(続きページ画像はテキストの最後に5枚あります)


タイの小さな街、プラチュアプ・キリカーンで撮った一枚の写真(まっすぐに伸びた単線の線路)からイメージを膨らませてショート・ストーリーを書いてみた。これまで旅の記録をいくつか書いてきたけれども、短編は多分初めてになる。一人称で旅のことを書くと、どうしても入りづらさがあるように思えてきて、一度そこから離れてみたかった。
ずっとジュブナイルもので物語を書いてみたいと思っているのだけど、ちっとも進まない。自分の想像をうまく表すための文章力がまだまだ足りず(単に想像力がないだけかもしれない)、ぴたりとくる言葉に置き換えれない。一日は誰に対しても平等で、僕はただ一つの言葉も選べないままに日々を過ごしてしまっている。でも止まったままだと何も進まない。こういうときは、自分にとって得意なジャンルから手をつければいいんだ。と、わりと軽い気持ちで、旅モノで始めてみると以外にすんなりと書くことができた(内容はともかくとして)。約8,000文字、原稿用紙20枚ほど。短いストーリーとはいえ、言葉である世界が書けるというのは、なんか嬉しい。理想としては、堀辰雄やマンスフィールドが持っているような透明感と淡い輝きを少しでも出せればなと思ったり(時代と国は違うけれども、二人の文体はどこか通じるところがある)。



「A Rail」

(1)
バンコクで落ち合った二人は、ヤワラート(チャイナタウン)の喧噪にもまれ、スクンビットの妖しげなネオンを浴び、その日の夜を過ごした。道夫はインドからバンコクへ、めぐみは東京からバンコクへと飛びたった。
「待ち合わせは、スワンナプームでね」というめぐみの短いメールをみたのを最後に、道夫はコルカタのダムダム空港へと向かった。あんな広い空港を待ち合わせ場所にしたりなんかして、果たして無事に会えるもんだろうか。彼は若干の不安を抱きながら、バンコク行きの便に乗る。ビルマ上空を飛ぶ飛行機の小さな窓からは、太陽の光を浴びた金色のパゴダがチカチカと輝いているのが見えた。彼は空の上から無事に会えますようにと手を合わせ祈った。こうして今、ベッドの上で幸せそうに寝息をたてているめぐみの寝顔をみていると、あのときの祈りは通じたんだ、と思えた。

(2)
翌日の朝、二人には別々の時間が配達された。六時間のフライトで二時間のボーナス(時差)をもらっためぐみは、それをいいことにいつもよりも、深い眠りについていた。道夫はその逆だった。時間の歯車が二三本折られ、一日が短く回転しているような感じだった。一・五時間が抜き取られていたのだ。そのせいか、早々と目覚めてしまいひまを持て余す。同じ部屋にて同じ時間を過ごしているはずなのに、二人には三・五時間分の隔たりがある。はだけたシーツからのぞくめぐみの足をみて道夫は桃を連想した。彼は何やら思い立つと、身支度をしホテルを出た。そして近くで開かれていた市場をゆっくりと歩いて回った。朝日は市場に並ぶ果物や野菜に、色彩という栄養を与えているようだった。道夫はドラゴンフルーツとグアバを買い部屋へと戻った。透明のポリ袋からドラゴンフルーツをひとつ取り出すと、伸びたとげをめぐみの顔に当てこそばした。彼女はシーツから細い手を伸ばしはねのけ、やっと目を覚ます。
「あれ、もう起きたの?」
「うん、市場に行ってた。よく寝たね。ドラゴンフルーツとグアバ、買ってきたよ。おいしそうだろ?」
ポリ袋に詰まった果物を彼女の枕元に置いた。甘い香りが漂った。
「あたしも行きたかったー」
まぶしそうにして片目だけを開け、目の前のものを確認した。
「うそつけ」
「ふふん」
「食べる?」
「あとでいい」めぐみは広いベッドの上を転がった。
「まだ寝るの?」
「きのう疲れたんだもん」
「ま、けっこう歩き回ったもんね。じゃ、冷やしとくよ」
「うん、ありがと。あとで足マッサしてね」
そう言うとめぐみはすっと目を閉じ、再び眠りについた。

道夫は、バックパックからインドで買ったお香を取り出し、火をつけた。一筋の煙が立ち上り天井へと届く。そして、窓から入る光を浴び白煙は広がるようにして溶けた。もうひとつのカバンからナイフを取り出して、ドラゴンフルーツに切れ込みを入れた。白い果肉がのぞいた。くるっと回し、スライドさせるようにして、実を半分に分けた。かぶりつくようにして一つ丸々食べきった。お香の香りが部屋中に満ちた頃、めぐみが突然身体を起こす。
「あーっ! すごい瞑想してた!」
「ナマステー」道夫は軽く首を傾げ、両手を合わせ彼女に微笑んだ。

(3)
絹野道夫。彼は、インドの染色と織物の取材をするために、コルカタから少し南へ下りオリッサ州の田舎町を訪れていた。代々続く養蚕業の家庭で育ったことから、染色などへの興味を持っていた。道夫という名は、シルクロードかぶれの父親が、名字にかけて付けた名前だった。文明の十字路、文化の交わる場所。それが意味するように、いろんな人たちを繋ぐ重要な人物になってくれ、といった願いを込めたものだと、小さい頃に教わっていたのだが、つい最近になって、実はけっこう適当に付けられたのだと母親からこっそりと告げられた。以来、父親とはなるべく口をきかないようになった。インドでは約二ヶ月、工房で手伝いなどをして、独特の染めの技法を身につけた。めぐみとは、「クロスステッチ」のワークショップで出会ったのがきっかけだった。
本岩めぐみ。街を歩けばスカウトマンが順番に並ぶの。と本人の自慢話が誇張とは思えないくらいの美しい顔立ちとスタイルをしている。一度はモデル事務所に入ったものの、仕事を得るためのわずらわしいしきたりと慣習になじめず、その世界からはすぐに身を引いた。その後は自分のファッション・センスを生かしてアパレルの仕事を転々とするも、月日が経つごとに少しづつ興味の対象が変化していることに気づき、この業界からも離れることを決意した。道夫との旅は、新しい始まりを待ちきれずに選んだものだった。

(4)
「ふあーあーぁ」
バスチケットのカウンター前で、めぐみは大きなあくびをたてた。
「めぐ、まだ眠たいの?」
「…まだ夢の中…」起きているという不条理に抗議するかのような目をしていた。
「今日は移動するんだから、これぐらいに出ておかないと」時刻は十二時半を過ぎたところだった。
「プラチュアプ行きのチケットを二枚」
カウンターの中にいた女性は、アクリル板ごしに二枚のチケットを差し出した。道夫は五百バーツを渡し、いくつかの釣りとともに受け取った。
「カー」女性は礼をいう。
後ろでめぐみが両手を合わせワイのポーズでお返ししていた。
「さ、いこうか」
「うん」
二人は階下にあるバス乗り場へと足を向けた。

(5)
「誰も乗ってこないね」
二人は、がらんとしたバスの中でぽつんと座り、発車するのを待っていた。運転手はさきほどからずっとターミナルの誘導職員と話し込んでいる。
「始発場所から乗る人は少ないのかな。ローカル・バスだし、きっと途中で客を拾っていくんだよ」
このまま二人だけの貸し切り状態だと、どう考えても採算がとれないように思えた。
「ところで、なんでプラ…チュラ・ルなの?」
めぐみは素朴な気持ちで尋ねた。
「プラチュアプ。プラチュアプ・キリカーン! 言いにくいだろ?」
「うん。言えない。舌かみそう」
「どこ行ってきたの? って聞かれたときに舌かみそうな名前だと面白くない?」
「そーお? え、もしかしてそれだけ?」
「うん。なんかすごい強そうなプロレスラーの名前みたいだしさ」
「えー、あたし何かあるのかと思った!」
「たぶん、何もないね。行ったことない場所だし、有名なものがあるとかっていうのも聞いたことないし」
めぐみにとっては「旅」そのものが目的で、細かな場所だったりは特にこだわりがあるわけではなかった。ただどうしてもクラビーだけには行きたいという注文だけは道夫に伝えていた。

「あ!」
めぐみは窓から飛び込んできた黒い物体に目を向けた。小さな鳥だった。その鳥はバス後部にある荷置きスペースへスーッと消えていった。カーテンごしに羽ばたく音がした。
「もしかしたらあそこに鳥の巣があるんじゃない?」
めぐみはそういって席を立った。
「ミチ! ほら。見て」めぐみは小さく手を振り、道夫を呼んだ。カーテンをそっとのぞくと、後部ガラスと荷置きスペースの間には鳥の巣があった。褐色をした三羽のひな鳥がスポイトをふかすような音を立てて、親鳥から餌をもらっていた。
「かわいい」めぐみはしばらくの間、この鳥の一家を見入っていた。
「先客がいたんだね」
「ずっと、ここで暮らしていくのかな?」
「きっと、あっち行ったりこっち行ったりしてるんだよ」
「毎日旅して楽しそうだね」
バスのエンジンがかかり、車体が小刻みに揺れた。運転手が何かを言ったが二人は聞き流していた。ドアが閉まりバスは発車した。乗客は新たに二人だけ乗り込んでいた。
「ほとんど貸し切りね」
「混んでるよりずっといい」
車窓から流れ込む風は、バンコクを抜けると緑のにおいが混じるようになった。

(6)
バスは国道沿いの停留所で停まった。二人はバスを降り、地図に見当をつけた。少し歩くと、プラチュアプ・キリカーンの入り口にあたる大きなゲートが見えた。
「着いたー」
「ああ。わりといい時間に着いた。さ、泊まるところ探そう」
「うん」
めぐみは腕を、道夫の身体に押し当てる。
「海沿いにホテルがあるはずだから、この道を行こう」
「やわらかな日差しだね」腕をさらに絡めた。
西に沈む太陽を背に、二人は海の音を探した。砂浜と穏やかな海が見えてきた。
「ミチ、海だよ」
海岸沿いには、大きなホテルが二軒隣り合わせに建っていた。
「どっちがいい?」
「そうね、パンプキン色のこっちのにしよ」
めぐみは黄色い壁のホテルを指さした。
「お腹へってんだろ?」
「なんで?」
「だって、こっちはカボチャのケーキみたいに見えるから」
「当たりー」
「早く荷物置いて、ごはん食べにいこう」
「うん」めぐみは道夫の腕に当たるようぴたりと胸を押し当てる。道夫はめぐみの髪をかきあげそっと口づけた。

(7)
波音と淡い暁色の光が部屋の中に満ちていた。海のある方角から陽が昇りはじめていた。
「ミチ、起きて」柔らかな唇が道夫の耳元から首筋をはった。
「起きろー」めぐみは大きな声を上げ、歯を立てて首筋を軽く噛んだ。
「痛っ! ああ、もう。なんかすっごい気持ちのいい夢見てたのに」
「ふうん、で、誰がいてたの?」
「誰? 知らないよ。すごいフワフワしてて、波の中に溶けていく感じだった」
「あ、そっち系か」
「な…、どっち系だ?」
「じゃ、いい。早く起きて、散歩いこう。朝の浜辺歩きたい。ほら見てよ、海!」
めぐみは窓外の海を眺めた。白のシャツから身体のラインが透けて見える。
「起・き・た」
道夫は後ろから手を回し彼女を抱きしめた。朝日で照らされた海面は、オレンジから紫、紫から金色と自在に変化する。陽の光と潮の香りが温かで、しばらくの間、二人とも波の音に聞き入り静かに目を閉じた。
「ずっとこうしてたいね」めぐみがぽつりとつぶやいた。
道夫はさらに強く抱きしめ、顔をぴたりとくっつけた。
「めぐの汗の匂いがする」
彼女は道夫の手をぎゅっと握り、すぐにふりほどいた。
「ね、シャワー浴びてくる」

(8)
プラチュアプの街は想像通り小じんまりとしていて、何もなかった。道夫とめぐみは街を二周半回り、郵便局の隣にあるカフェで、練乳のたっぷりと入った甘いコーヒーを飲んでいた。
「これからどうしょっか?」
「そうだね。ここまでバスで来たから、次は鉄道で行こうよ」道夫は思いつきを口にした。
「あ、それいい。タイの電車に乗ってみたい。がたんごとん〜」
「今のシャレ?」
「違うよー」
「ほんとー? じゃ、駅に行って時刻表見てこよう」
めぐみはすっと立ち上がり、左手で何かを持つ仕草をして口の前へと持っていった。抑揚あるイントネーションと限りなく野太い声を出して見せた。
「ご乗車の皆々様、まもなくプラチュアプでございます」
「何それ」
「シャショウさんの真似」
「途中下車します」
「ひどい!」

(9)
プラチュアプの駅舎は、とても小さい。長細い赤塗りの木造の建物がぽつんと建っているだけで、道夫とめぐみは、はじめそこが鉄道駅だとは気づかずに素通りしていた。
「ここがそうか。これじゃわからないや」
「ほんと、ここやってるの?」
ホームに人の気配はなく、駅舎内にも誰かがいる様子はなかった。窓口らしきカウンターの壁には色あせたクリーム色のアクリル板の上に、A4サイズのコピー用紙が張られていた。二人は、表の形と時間の記し方から、これが時刻表だとすぐにわかった。
「あーあ、これ駅名が全部タイ語だ。時刻はいいとしても、どこ行きなのかさっぱりわからない」
「ほんとだ。でも、乗ってたらどこかに着くんじゃない」
「また、いつものソレだね」
「放っといてよ」
めぐみはホームに立ち、右と左を交互に眺めた。
「右よーし、左よーし。ってね」振り返りウィンクする。
「ね、駅員さんとか、誰もいないのかな?」
めぐみが、茶目っ気たっぷりに聞いてくるときは、たいてい何か変なことを考えているときなのだ。道夫は少し勘ぐるように答えた。
「無賃乗車とか考えてるんじゃないだろうね?」
「そんなことしないー」
めぐみはすでにホームの端っこへと歩いていた。そして、低いホームから飛び降りて、線路の上を歩き始めた。
「危ないよ」
道夫は少し声を大きくして呼び止めた。
「大丈夫。ほら見て、線路がまーっすぐに伸びてるの。なんかここいい感じ。絵になるよ」
めぐみは両手の親指と人差し指を垂直に立て、四角い枠を作りフレーミングのポーズをとった。
「めぐ!」
道夫は、もう一度呼び止める。
「ミチもこっちこっち!」
彼女は何のおかまいもなしに線路の上を歩き続けた。線路の周りに生えた背の高い草がさらさらと風に揺られている。どこかのんびりとした雰囲気。道夫も、そのうちにどうでもいいような気分になった。線路へと降り、めぐみの後を追った。列車が来るような気配は全くないのどかな時間が流れていた。
「ふう、やっと追いついた」
道夫はめぐみの手を握り、自分の方へ軽く引き寄せた。
「追ーいついた、っと」そういって彼女は立ち止まった。
そして、道夫が何かを言いかけようとしたとき、めぐみが遮るように言った。
「もうちょっとだけ歩こう。楽しいもん、ここ」
彼女の思うようにすればいいやと道夫は思った。
「さっきの時刻表見ても、そんなに列車走ってなさそうだしね」
「これだけ先の視界あるから、来たらすぐにわかるよ」
めぐみの方は何ら気にするでもなかった。

(10)
午後一番の強い日差しによって、二つの黒い影が線路に落ちていた。駅舎がずいぶん小さく見えるくらいにまで歩いていた。
「そういえばさ」道夫が口を開いた。
「そういえば?」
「いきなりバンコク待ち合わせってのなかなか面白かったね。よく知ってる場所でもないからさ」
「三茶や銀座とかで待ち合わせるより、スリリングじゃない?」
「まぁね、でもけっこうヒヤヒヤしたんだよ」
「あたしも」
「もし、会えてなかったらどうするつもりだった?」
「そんなの考えてなかった」
「全く?」
「うん」
「なんで? スワンナプームってけっこう広いんだよ」
「知らなかったんだもん。ドンムアンと似たようなものかなって。あれじゃ迷っても仕方ないかもね。それに…」
「それに?」
「うん、それぐらいではぐれてしまうんだったら、その程度のつながりしかなかったのよ、きっと」
道夫は少し黙った。
「でも、ちゃんと会えたじゃない」めぐみはちょっと自分の言い方のマズさに気づいて少しフォローした。
「そうだね」道夫はつぶやくような小声で返した。まさか、彼女が、待ち合わせ場所で二人のつながりを計っていたなんて。そのことが少しショックだった。きっとめぐみの思いつきが口に出ただけなのだろうが、そこに本心があるように思えた。早くこの線路道から外れたいと思った。
「めぐ!」
「何? ねぇ、歩けるところまで歩いてみない?」
「は?」
「隣町まで。ずっと線路つたいで歩いてみたかったの」
めぐみは、こうなるともう絶対に何を言っても聞かないのはわかっていた。
「隣町ってどこだよ。きっと何時間もかかるよ」
「どのみち鉄道で行くんでしょ? せっかくだからさ、このまま行こうよ。列車が来たら飛び乗ればいいんじゃない?」
「あのね、車のヒッチハイクじゃないんだから。だいたい猛スピードでやってくる列車が、線路に立っている人を見つけて、はいドーゾって停まるわけないだろ」
道夫はややぶっきらぼうに言葉を投げ捨てた。
「じゃぁ、あたし一人で行く。隣町で会いましょう」
めぐみはそういうと一人足を早めた。道夫は立ち止まり彼女が少しずつ遠ざかるのを呆然と眺めるだけだった。
めぐみの姿がずいぶんと小さくなった。
「めぐー!」道夫は大声で叫んだ。彼女は足を止め振り返る。
「早くー!」彼女は腕をめいっぱい伸ばし手を招いて、こっちへ来いというジェスチャーを繰り返していた。
「わかった! 荷物取りにいくからちょっと待ってて!」
道夫は声を精一杯に張り上げた。彼女は手を耳にやり、道夫の言ったことを聞き取ろうとした。数秒後にうなずいた。
「あたしー ゆっくり歩いてるから追いかけてきて!」
彼女の声が少し遅れて届いた。
「気をつけて!」
道夫は、こみ上げてくる何だかよくわからない感情を全部
ひっくるめ、その一声に込めた。そして線路脇から外れると車道に出て、プラチュアプの駅舎へと一気に駆け戻った。たしか駅舎の入り口付近でモーターサイ(バイクタクシー)の男たちが、たむろっていたのを思い出したのだ。駅舎に戻ると案の定、モーターサイのドライバー二人がボードゲームに興じていた。ビールの王冠を少し加工した駒を使った、陣取りルールのようなものに見えた。道夫は柱に寄りかかっていた男に声をかけ、ホテルまでひと走りしてくれるように頼んだ。その男はちょうどゲームが劣勢だった。願ってもないタイミングとばかりに、負けていたゲームをさっさと切り上げ、置いていたヘルメットに手をかけた。バイクにまたがると、道夫に予備のヘルメットを渡した。道夫は自分たちの宿泊していたホテルの名を告げ後部席に座った。

(11)
部屋に戻ると、ベッドメイキングは済んでいて、ぱりっとしたシーツになっていた。それだけで、部屋が磨かれたように輝くから不思議なものだ。道夫は自分とめぐみ、二人分の荷物を担ぎフロントへ向かった。チェックアウトを終えると、待たせていたモーターサイの男に、もう一度プラチュアプの駅まで戻ってもらうように言う。男は無表情な顔つきでじっと道夫の顔を見つめたまま、ヘルメットをただ差し出した。

再びプラチュアプの駅。道夫はめぐみの歩いていった方角を線路沿いに走ってくれ、とモーターサイの男に言う。バイクでなら追いつくだろうと彼は思った。今彼女がどこまで歩き進んでいるのか検討がつかない。なによりも列車がやってくることの方が気がかりだった。便数が少ないとはいえ、そろそろ一台くらい通過してもおかしくはない頃だった。モーターサイの男は、目的地がわからず、ただ走るだけという話には怪訝な表情を見せたままだった。料金を上乗せすることでそれは解決した。道夫は、ゲームに負けてたのを投げたくせに、なんて思いながら男のバイクに乗った。とにかく早くにめぐみを見つけて合流したかった。

駅舎を背に道夫を乗せたバイクはぐんぐんとスピードを上げ走った。まだめぐみの姿は見えない。それほど時間は経ってないはずなのに、いったいどういうことなのだろうと道夫は思った。もしかして、とっくに通り越してしまった? いや、そんなはずはない。鷲が地上の獲物を狙うかのように、目を凝らしてみていたのだから。前方から警笛を鳴らす音が聞こえた。列車がやってきたのだ。めぐみは大丈夫なのだろうか? それが一番気がかりだった。タイ国鉄の古びた車両が走り抜ける。鉄錆とスス、そして油の混じった臭いが流れてきた。めぐみは正面の列車に気づいてちゃんと避けたのだろうか? モーターサイの男が、振り返りながら何かを言っているのが聞こえた。そのとき、線路の先に小さく人影が見えた。めぐみだった。道夫はつかんでいた腕を揺すって、バイクを停めるように伝えた。

「めぐー!」バイクを降り、荷物をその場に放り投げ、道夫は線路のある土手へと走った。
「めーぐー!」もう一度叫んだ。道夫の声が彼女にしっかりと届いた。めぐみは足を止め、振り返って大きく手を振った。何かを言っているようだけれど、あまり聞き取れない。道夫も大きく手を振った。モーターサイの男が荷物を近くまで運んできた。道夫は荷物を取りに行った。そしてポケットからしわくちゃのバーツを取り出し、男に手渡した。荷物を担ぎ再び線路へと戻った。めぐみの姿はずっと近くになっていた。地面から立ち上る熱気で、ゆらゆらと揺れている。道夫は目を細め、彼女の姿を見つめた。線路の彼方は蜃気楼の世界のようにまぶしかった。

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2013年01月04日

一月四日

今日は祖母の命日です。僕は初孫だったせいもあってか、良くかわいがってもらった、ように感じている。

両親が共働きだったために、僕が小さな頃は、おばあちゃんの家に預けられていた。両親が仕事に向かう朝におばあちゃんの家に連れられ、夜になると親に迎えにきてもらうという毎日だった。幸いおばあちゃんは近くに住んでいたので、行き来はそう大変ではなかった。といっても、その時分は僕自身まだ幼くて、何で祖母の家に預けられているのかなどは全くわかっていなかった。おばあちゃんの家から自宅へと戻る下り坂、その前方に広がる夜の街の瞬きが記憶に残っている。時おり、流れ星のように列車が通り、光の帯を闇に刻んでいた。

小学生になると、僕は両親から留守宅の鍵を預かるようになり、おばあちゃんの家に毎日行くということはなくなった。その代わりに学校帰りにおばあちゃんの家に時々遊びに行くようになる。通っていた小学校は僕の家と、おばあちゃんの家のちょうど中間にあった。この頃の僕の親のしつけは厳しく、たとえばコーラやファンタなどの炭酸飲料は骨が溶けるからといって飲ませてもらえなかったし、テレビ番組などは一週間のうち数時間しか見れないという制限があった(子供にとっては、すごい不満だらけの家のルールだったけれど、今はとても感謝している)。だから、こういったルールを窮屈に感じたときは、おばあちゃんの家に行ってちょっとした息抜きをさせてもらった。ただ、テレビに関してはおじいちゃんがチャンネル権を握っていて、そう簡単に好きな番組が見れるわけではなかった。特に大相撲をやっている期間は、試合を最後まで見さされるはめになったりして、時期によっては意にそぐわない結果になることもあった。何せおじいちゃんはあまりしゃべらず、わずかなジェスチャーだけでしか僕と接しないので、すごく怖い存在だった。相撲を「面白くない」なんて、自分の発言に"子供の無邪気さ"を付け足したとしても到底いえるような雰囲気ではなかった。ただ、そのうちに、大相撲は面白さが分かるようになっていったので、むしろ一緒に見るのが楽しくなった。

おばあちゃんは熱心な仏教徒で、遊びに行くとたいていお経の写本をしていたり、お経を読み上げていたりした。いつもだいたい30分くらいはお経の読み上げに付きあわされたり、お経の説明をしてくれるのだけど、さっぱりと分からなかった。それが終わると、市場に連れて行ってくれるときもあり、そういうときは好きなお菓子を買ってくれた。子供はこういうのに弱い。

おばあちゃんの家には実兄の遺影が常に飾られていて、話が途切れたりするとすぐにそのお兄さんの話になる。若くして亡くなった。祖母にとって誇らしい兄だったらしく、いつもその人の話をしていたなぁというのが印象にある。古く重厚な木でできた箪笥の上には写真立てや、器などが無造作に並べられていた。白洲次郎のようなややコワモテの男性が、背景が真っ白にとんだ白黒の写真の中で笑っていた。軍医をやっていたそうで、樺太やビルマ、中国などの戦地に赴いていたのだと言っていた。子供の頃は、歴史的なことなどは全くわからないし特に興味もなかったので、聞き流していたがもう少し詳しく聞いておけばよかったなぁと後悔している。

少し成長し高校生ぐらいになると、おばあちゃんは夏休みになったら、(私の)田舎へ連れて行ってあげるよと、よく言ってくれた。北陸の小さな町だった。もともとは造り酒屋をしていたのだけれど、今はもうやっておらず、ただ大きな家(地方なので広い)だけが残っているのだという。誰も住んでないので、いつでも泊まれるよと言っていた。湾には魚がたくさんいて素手でつかめるぐらいだよ、や、海が透明できれいでな、とその地を懐かしむように語っていた。その頃の僕にはあまり興味を引く場所でもなかったので、結局この話は先延ばし、先延ばしにして、いつの間にかおばあちゃんもそのことを口にしなくなった。

夏になると、祖母宅の入口に立っている大きな柿の木から、毛虫が沢山落ちてくるので、それがすごく怖かった。人さし指くらいはある黒とオレンジ色をした太い毛虫は、僕にとってはちょっとした脅威だった。入口から玄関までの短い距離だがこの間は関門で、ここを通るときはつば付きの帽子を被ってダッシュしていた。ひどいときは、地面が毛虫でうごめいていたときもあった。おばあちゃんは、毛虫などなれたもので、肩に降りかかったものなどは手でつまんででポイと放り投げていた。

おばあちゃんちでは、ソラマメの皮むきを手伝わされたことがなぜか真っ先に思い浮かぶ。縁側に新聞紙や一色刷りの不動産屋の広告を敷き詰め、たらいほどはあるソラ豆をそこに広げ、皮と実をより分ける。ということを何度かさせられた。普段、自分の家では家事の手伝いなどすることがなかったので、面倒だとは思いつつもなかなか楽しんでいたように思う。何であんなにソラ豆があったのか、どんな料理をつくっていたのかは、全くわからない。きっとあれは買ったのではなく、どこかからもらってきたか送られてきたんだろう。昔ながらの人だからか、子供に何か用事をさせるのが上手やったなぁと後々気づいた。

おばあちゃんは、かわいがるといっても、僕が駄々をこね欲しがるモノを買い与えたり、言われるがまま甘やかしたりするのではなくて、自分の生活の中にいる一人の人間として扱ってくれていたんだなと改めて思う。


posted by J at 15:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ■ 短篇 - Short Story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする


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