2020年07月18日

響け!ユーフォニアム:TV版アニメと原作小説を比較する(1)


TVアニメ『響け!ユーフォニアム』 PV第2弾( KyoaniChannel / 2015.03.22 )


昨年、劇場版「響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜」を観たあとに、映画と原作小説を比較する記事を書いたのはいいが、なかなか続きが進められなかった。理由はひとつ、映画の様々な場面でTVシリーズに絡んだシーンが出てくるので、やはり先にTVシリーズのほうをやっておかなければいけないな、と思った次第。そうなるとアニメは1期、2期合わせると全26話があり、原作小説も数えると3冊分になる。そんなわけで、その数にちょっと気後れしてしまったのだ。今年は、「響け! ユーフォニアム」のアニメ化から5周年。これをいいきっかけに、(声は弱いが、今度こそ)TVシリーズ版のアニメと原作小説を順に追っていこうと思う。一年って長いようでほんと短い。

「アニメと原作小説を比較する」とは言っているものの、単に二つを比較し違いを見出すことが目的ではなく、石原監督が小説からどのようにしてアニメ作品に仕上げたのか? また文章からどんなふうにしてアニメのイメージをつくり上げたのか? といったことに興味が向いたり、自分の違ったイメージや解釈が沸くようになるといいな。


響け!ユーフォニアム「誓いのフィナーレ」:映画と原作小説を比較する(1) (2019年08月14日)
響け!ユーフォニアム「誓いのフィナーレ」:映画と原作小説を比較する(2) (2019年10月13日)
http://tavola-world.seesaa.net/article/sound-euphonium-comparing-novel-and-movie-1.html
http://tavola-world.seesaa.net/article/sound-euphonium-comparing-novel-and-movie-2.html


* 以下に記している()内のページ数は、宝島社文庫「響け! ユーフォニアム 〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜」より、また秒分数は「dアニメストア」配信版のものになる。


アニメ版「響け!ユーフォニアム」について少し

「響け! ユーフォニアム」(1期)は、小説「響け! ユーフォニアム 〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜」(武田綾乃著)を元に、京都アニメーション制作によってアニメ化された作品。全13話で、2015年の4月から7月にかけて深夜枠で放映された。原作となる小説の刊行は2013年12月だから、小説が出版されてからアニメ化されるまでの期間は約1年半、制作の工程を逆算してみるとけっこう短いように思える。原作者・武田綾乃さんのインタビューを読むと、小説出版の翌春にアニメ化のオファーがあったそうなので、京アニさんは小説が出て1、2ヶ月の間に制作の意向を決めていたということになる。おそらくまだ、本のセールスや評判がどれほどあるのか、はっきりしてない段階だろうから、この早さは何か導かれてそうなったような感じがしないでもない。振り返ると、「涼宮ハルヒ」は小説刊行からアニメ化まで約3年弱の間があるし、「氷菓」は小説が出てから約11年目にアニメ化となった(共に京アニさんで)。

──「ユーフォニアム」のTVアニメ化が決定した時の心境はいかがでしたか?
武田: 大学2年生の冬に本を出した後、3年生の春頃だったんですが、大学の帰りに電車に乗ってた時に、突然担当の方からアニメ化の連絡をいただいたんです。
最初は本当に「何言ってるんだろう」という感じで(笑)、すごく戸惑ったというか驚きが強かったですね。

『響け!ユーフォニアム』原作 武田綾乃インタビュー 今しか綴れない物語、より
( kai-you.net / かまたあつし / 2016.03.29) https://kai-you.net/article/26894



第一回「 ようこそハイスクール」について少し

第一話「 ようこそハイスクール」は、原作小説の【プロローグ】(p6-9)と【一 よろしくユーフォニアム】(p10-31)の途中まで、計26ページ分がベースになっている。前半パートは、中学3年の吹奏楽コンクールを回想するシーンからはじまり、主人公・黄前久美子の高校入学、仲良くなったクラスメートと吹奏楽部を見学し、誘われるのだが、入部するかどうかを保留にする。「響け! ユーフォニアム」シリーズの主要メンバー、黄前久美子、高坂麗奈、川島緑輝、加藤葉月、4人のキャラ描写が中心。後半パートは、幼馴染の塚本秀一が登場し、久美子は吹奏楽部への誘いを受ける。そして、顧問となる滝昇の登場。神社でのお参りシーン。この時点では音楽に詳しいキャラだということしかわからないが、次回への伏線となっている(原作にはない場面)。そして、久美子が吹奏楽部に入部することを決めた場面でこの回は終わる。前半は女性キャラを中心に、後半は(数少ない)男性キャラの描写をすることで対比的な構成になっている。

では、小説をもとに以下書いてみる。


【プロローグ】 中学最後の吹奏楽コンクールのシーン (文庫:P6 - 9)

 何百という顔が、一様に同じ方向を見つめていた。広場に渦巻く熱を帯びた空気が、少女たちの頬を赤く染め上げる。はやる気持ちを抑えようと、久美子はゆっくりと息を吐き出した。どくどくと、心臓の鼓動が鼓膜を打つ。握り締めたてのひらは汗で張りつき、食い込んだ爪先が皮膚の上に三日月形の痕を作った。
「緊張で死ぬかもしれへん」
 隣にいた梓が、こらえきれないといった様子でポツリとつぶやいた。
(p6より)



 原作・TVアニメ版の相違点 ◆
小説の冒頭は、主人公・黄前久美子が中学三年生のとき、京都府吹奏楽コンクールの結果発表のシーンを描いたもの。久美子の隣には、後に吹奏楽の名門「立華高校」に進学する同級生佐々木梓がいて(アニメでは右隣側で描写)、二人で結果の発表を聞いている。アニメ版でも冒頭シーンは、小説とほぼ同じ内容で描かれている。(00:00〜01:38)
アニメ版での最初のセリフ(名前のあるキャラで)は久美子の右隣にいた梓の「ヤバイ、緊張する」という言葉だった。アニメでは、小説より口語的になっていたり、絵の動きで(文章による)人物描写が置き換えられていたりする。久美子の左隣には高坂麗奈がいて、彼女は組んだ腕に顔を埋め身体を震わせている。そして「ダメ金」で終わったことを悔しがり大粒の涙をこぼす。



【一 よろしくユーフォニアム】(1) 入学式の紹介シーン・久美子と麗奈の遭遇 (文庫:P10 - 13)

麗奈ほどの頭脳があればもっと上の高校でも入れただろうに、どうしてこの学校を選んだのだろう。まさか自分と同じように制服で進路を選んだわけでもあるまい。久美子が首をひねっていると、不意に麗奈がこちらを向いた。黒曜石のような瞳が、じっとこちらを見つめる。もしかして、見られている? 二人の視線がはっきりと交わる。それは一瞬で、しかし久美子にはとても長い時間に思われた。(p12 - 13より)


 原作・TVアニメ版の相違点 ◆
小説では体育館のなかで行われている入学式のシーンから始まり、教頭の挨拶が終わると校歌斉唱があって、そこで吹奏楽部が伴奏をする。演奏は不ぞろいなリズムと不協和音でバラバラ。久美子はこの演奏を聴いて、吹奏楽部に入部する選択肢を外した。校歌斉唱のあとは、新入生の挨拶へと続く。立ち上がった新入生代表は、同じ中学で、吹奏楽部でも一緒だった高坂麗奈。成績優秀な彼女が、なぜ自分と同じ高校に来たのかを疑問に思う。
一方、アニメ版では主人公・黄前久美子が桜が舞い散る学校正門の前に立ち、上級生吹奏楽部員による新入生歓迎の演奏を聴く場面から始まる。階段に並ぶ吹奏楽部員たちを前に、3年生・田中あすかの振る指揮棒は軽快な動きをみせるのだが、演奏はお世辞にも上手いとはいえず久美子は唖然とする。

・アニメでの桜から始まる展開はとてもキャッチーだ。青い空とピンクの桜、華やかで目をひく。導入の絵作りとしてまさにこれしかないという感じがある。「響け!ユーフォニアム」は吹奏楽部の物語。運動部のように、大きく身体を動かしたり何かのアクションがあるような絵にはなりづらい。楽器を演奏する姿も、ロック・ミュージシャンのように派手にするわけにもいかない。どこかでメリハリを出すのなら、例え小さなイベントであっても、そこで日常シーンとの差をつけたい。小説は人物の内面描写で読者の関心を集めることはできるが、アニメの場合は視聴者の注目を絵で魅せていかなければならない。
・黄前久美子が、高坂麗奈と同じ高校だったと知るのは小説の方が早く、アニメ版では吹奏楽部の見学に行ったときと、少し後になっている。
・北宇治吹奏楽部の演奏力の描写は、(体育館と校門前という)場所の違いこそあれど小説、アニメ版ともに最初のほうで読者・視聴者には示されている。


【一 よろしくユーフォニアム】(2) 一年三組:久美子・葉月・緑の出会い (P13 - 20)

「っていうかさ、さっきから気になっててんけど、アンタなんで標準語なん?」
「うーん、東京に昔住んでたから。それでかな?」
「へえー、関西弁とかうつらんの?」
「家族もみんな標準語だから、あんまりうつらないかな。あ、でも一緒にいた友達は、逆に標準語がうつるーって言ってたよ」
「ふうん。じゃあうつらんように気をつけとこ」
(p14 - 15より)



 原作・TVアニメ版の相違点 ◆
クラスメートとの初顔合わせ。小説では、久美子が席につくと、隣にいた加藤葉月に声をかけられしばし雑談するも、間もなく担任が入ってきてざわついている生徒らを叱咤。生徒たちはあわてて名簿順に割り振られたおのおのの席へ座り直す。その後先生が点呼をとる。アニメ版では、久美子の席は窓際列・前から5番目、葉月はその後ろの席になっている(*「涼宮ハルヒ」でのキョンとハルヒの座席位置と同じ:細かく言えば入学当日ではなく席替え後の席順。また「けいおん!!」〜3年2組〜での、のどかとゆいの座席位置と同じでもある)。アニメでの座席は教室の窓側最前列席を始点にアイウエオ順となっていて、川島緑輝は窓際のひとつ隣列、一番前の席に座っている。小説では窓際からはじまるのか、廊下側から始まるのかの記述はない。また小説では、アニメ版の点呼シーンで呼ばれた二人の生徒「ウチヤマダヒロコ」「エグチヨウコ」の名前はない。(*下座席表参照)
小説では、葉月が久美子の標準語イントネーションを指摘する会話があり、この部分はアニメではカットされている。小説での会話は関西弁になっているのだが、アニメ版のセリフは標準語に変更されている。その点について、石原監督がインタビューのなかで以下のように答えている。

──原作とアニメでいろいろな違いがあります。個人的に一番印象が変わったのは多くのキャラクターが関西弁でなくなったことでした。
石原 僕も最初はアニメも関西弁でやるかなと思って、関西に縁のありそうな声優さんのリストアップもしたんですよ。ただ難しいのが、関西弁を話すキャラクターが1人2人ではなく大多数という点。役柄に合っている声と演技で、さらに関西弁がしゃべれるという人はなかなか見つからないだろうということで、アニメ版では標準語になりました。

「響け!ユーフォニアム2」監督・石原立也 X 原作者・武田綾乃(natalie.mu)、より
https://natalie.mu/comic/pp/hibike_eupho/page/2

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ホームルームが終わり下校の時間。久美子、葉月、緑の三人は一緒に帰ることになる。アニメでは、吹奏楽部の見学へ行くシーンとなる。

Sound-euphonium-seating-chart-1st-grade-class-3.png
* 参考図: 「響け!ユーフォニアム」1年3組座席表



【一 よろしくユーフォニアム】(3) 
久美子・葉月・緑の三人は一緒に吹奏楽部に入ることを約束する。
 (P20 - 26)

「久美子も吹部に入るんやんな?」
 葉月が無邪気に尋ねてくる。そんな顔をして問われては、誰が否定できるだろうか。久美子はぎこちない笑みを浮かべると、諦めたようにうなずいた。
「う、うん……入るつもりだよ」
 その回答に満足したのか、緑輝は口元を綻ばせた。
「よかったー。部活に友達できるかなーって、緑、心配やってん」
「三人で仲良くやってこな!」
(p26より)



 原作・TVアニメ版の相違点 ◆
帰り道の会話。葉月、緑の中学時代の話からパーソナリティの掘り下げとキャラクターの描写が続く。小説では下校途中の道というシチュエーションで、アニメ版では学校の廊下という違いがあるが話している内容はほぼ同じ。



【一 よろしくユーフォニアム】(4) 幼馴染、塚本秀一の登場。 (P26 - 31)

「まあでも、お前が入るなら俺も吹部入るし。楽器何しよっかな!」
 秀一はあっさりそう言って、ぐっと伸びをした。白い手首が袖口からわずかにのぞく。猫みたいだ、となんとなく思った。
「そんなんで決めちゃっていいの? 部活」
「ええって。俺運動できひんし、選択肢ほとんどないからなあ」
「………あっそ」
 できるだけの素っ気なさを装って、久美子はつぶやいた。買ったばかりの焦げ茶のローファーが夕陽を浴びて鈍く光る。
(p31より)



 原作・TVアニメ版の相違点 ◆
アニメ版の後半パートは、久美子の住むマンションの近く、宇治川に沿って続く遊歩道(あじろぎの道)の一角に設置されたベンチに座り、久美子がひとりため息をつくところから始まる。久美子は、高坂麗奈が自分と同じ北宇治高校に通っていること、さらに吹奏楽部に入部したことに驚きを隠せなかった。放課後にあったその出来事にふけっていると、同じ高校へ通う幼馴染の塚本秀一が現われ、久美子に声をかける。高坂麗奈のことで頭がいっぱいな久美子は秀一を軽く、冷たくあしらうも、秀一は一方的に話しかけてくる(14:39-16:24)。小説では、久美子の方が先に吹奏楽部に入ることを決めていて、(久美子に淡い気持ちを寄せる)秀一がそれを聞いて一緒に入ることを決めるが、アニメでは秀一のほうが先に吹奏楽部へ入部することを決めていた。以下、アニメ版セリフの書起こし。


秀一 :「お、お前さ、部活どうすんの?」
久美子:「…まだ決めてないよ」
秀一 :「吹部じゃねーの?」
久美子:「あんたは?」
秀一 :「俺? 俺はまあ、他にやりたいこともないし。吹部、かな?」
久美子:「そっか」
(中学時代、高坂麗奈の涙を流すシーンがフラッシュバック)
久美子:「あたしはー、入らない」
秀一 :「へ?」
久美子:「入ろうと思ってたけど、やめることにした」
秀一 :「なんで?」
久美子:「なんでもっ。じゃあねっ」
 


・後半パートの多くは、原作小説にはないアニメ・オリジナルのエピソードで構成されている。
(1)自宅に戻った久美子が、母親と会話する場面。自分の部屋でくつろぎ、今日一日の出来事をサボテンに話しかけていると、いきなり姉が入ってきて、独り言を行っている久美子を茶化す。そのあと軽い喧嘩となる。(16:25-17:55)
(2)夕方、神社にお参りする滝昇(この時点では誰だかは不明であるが、2話で北宇治吹奏楽部顧問として登場する。次回への前フリになってる)の姿があった。彼は、おみくじの結果が分からずにいたカップルに声をかけ、おみくじの順列を教える。そのときポケットに忍ばせていたスマートフォンが足元に落ちて、聴いていた音楽があたりに響く。突然の大きな音に戸惑うカップル。滝は二人にその曲の解説をする。音楽が流れるなか、映像は別の場面へと切り替わる(滝の持っていたスマホの時刻は16時23分を表示している)。書き込みだらけの楽譜がクローズアップされ、久美子がページを繰る。それは彼女が中学時代に吹奏楽コンクールで演奏していた「地獄のオルフェ」という曲だった。滝がスマホで聴いていたのと同じ曲。滝は久美子・麗奈が在籍していた大吉山北中学校吹奏楽部がコンクール(府大会)で演奏していた音源を聴いていた。(17:56-19:52)
(3)翌朝、うかない顔の久美子。朝食を食べずに学校へ行く。教室でぼんやりしていると、緑輝が見守る中、後ろの席で葉月が大きなマウスピースを口にあて音を鳴らそうとしていた。楽器もまだ決まってないのに、いきなりマウスピースを買ってきたことに久美子は驚くのだが、子供の頃お姉ちゃんに教えてもらった吹き方を懐かしむように思い出し、葉月に教える。そして、葉月がかすかに音を鳴らしたのをきっかけに、緑輝が一緒に吹奏楽部へ入ろうと久美子を改めて誘う。とくに何か強い意志があったわけではないが、久美子はなんとなくその場の流れで吹奏楽部への入部を決めたのだった。(19:59-21:57)


第二回「よろしくユーフォニアム」へ続く。


「響け!ユーフォニアム」〜(6) 舞台探訪:宇治周辺【あじろぎの道】 (2015.05.30)
by いなずま 〜舞台巡礼の実録(その0)〜
http://cycle-junrei.hatenablog.jp/entry/2015/05/30/091532
・主に京アニ作品の聖地巡礼をされている「いなずま」さんのBlog。久美子と秀一がだべっていた「あじろぎの道」を訪れた記事。



Sound Euphonium: Season 1 - Official Trailer (subtitled)
(All the Anime / 2018.08.31)
海外版オフィシャル予告動画。「All the Anime (Anime Limited)」は、イギリス(スコットランド)を基点にし、ヨーロッパ全域で日本のアニメを配信している会社。英語字幕がけっこう勉強になる。



cap-twitter-anime-eupho-season1-episode-01.jpg
* 画像は公式ツイッター(下リンク)より
https://twitter.com/anime_eupho/status/1247435895143165953

響け!ユーフォニアム 第一回「ようこそハイスクール」(公式HP)
http://tv.anime-eupho.com/story/01/

posted by J at 07:00| Comment(0) | 響け!ユーフォニアム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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