2019年10月13日

響け!ユーフォニアム「誓いのフィナーレ」:映画と原作小説を比較する(2)

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「響け! ユーフォニアム」〜北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章〜(前編) 武田綾乃


「響け!ユーフォニアム『誓いのフィナーレ』:映画と原作小説を比較する(1)」の続きです。今回は第一章「不穏なダカーポ」に焦点をあててみる。この章では、始業式から約2週間ほどの出来事が描かれている。そして、まだ映画「リズと青い鳥」を観てないので、最初の「プロローグ(p9-13)」はちょっと外します。

まずはじめに、原作小説「響け! ユーフォニアム〜北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章〜」のボリュームをみてみよう。小説では前編 と後編に分かれていて、この二冊を通して主人公、黄前久美子が高校二年生になったとき、吹奏楽部で経験する一年間を描いている。前編は全3章とプロローグ&エピローグが前後につき、計379ページ(目次などを除く)。そして後編も同じく379ページで、全4章とプロローグ&エピローグがそれぞれ前後についている。二冊の合計ページ数は758ページで全7章、そしてプロローグが二つにエピローグが二つという分量だ。第一章にあたる「不穏なダカーポ」は89ページあり、ページ数でいえば全体の約12%の割合。章は、場面展開ごとに一行空きのブランクで分けられていて、その数は10。以下、この小さな節ごとにみていくことにする。では順を追って。


響け!ユーフォニアム「誓いのフィナーレ」:映画と原作小説を比較する(1)、のつづき
(2019年08月14日)
http://tavola-world.seesaa.net/article/sound-euphonium-comparing-novel-and-movie-1.html


映画オープニング・シーン

原作小説にはあって映画にない描写というのはたくさんあるが、映画にはあって小説にない場面というのはわりと少ない。この映画の導入曲でもある「これが私の生きる道(吹奏楽バージョン)」が始まり、タイトルバックがどーんと挿入。そして、新入生が登校するシーンへと続く。このプロローグにあたる場面は小説にはない映画だけのものだ。桜が咲き誇る通学路を初々しい表情で歩く今回の準主役的な新入生の4人が順番に映し出される。そして、現役吹奏楽部の面々が楽器を抱え、演奏しながら、正門の前でこの新一年生たちを歓迎している。キャラクターがアップ気味になるものの、個々のセリフはなく、観客はこの時点では誰が今後ストーリーの鍵になってくるのかはまだわからない状態だ。


【1】 久美子目覚めのシーン (P14 - 15)


 普段より十五分早くセットしたはずの目覚まし時計は、気づけばベッドの下に転がっていた。ジリジリと鳴り続けるベルの音に、久美子はゆっくりと瞼を持ち上げる。(p14より)


【 劇場版と違う点 】 高校2年生になった黄前久美子。始業式の日の朝、学校へ出かけるまでの短い場面。このシーンは映画「誓いのフィナーレ」にはない場面だ。


【2】 クラス替えのシーン (P15 - 23)


 黄前久美子。壁に張り出された名簿には、自分の名前が確かに印刷されていた。新しい学年になってから、初めての登校日。廊下にあふれた女子生徒たちは、知人と顔を合わせるたびに、歓声にも近い黄色い悲鳴を上げている。(p15より)


【 劇場版と違う点 】 登校しクラス分けされた名簿の中に自分の名前を見つける久美子。二年三組だった。担任は吹奏楽部の副顧問をしているおっかない女性教師、松本美知恵。生徒たちからつけられたあだ名は軍曹先生。そして、吹奏楽部の低音パートで仲良しの加藤葉月と川島緑輝も同じクラスだった(半数ほどが去年と同じ顔ぶれ)。そのことに安堵しながら、この三人はどんな新入生がやってきて、自分たちの属する吹奏楽部に入ってくるのだろうねと話し合う。吹奏楽部でパーカッションをしている釜屋つばめも同じクラスだったが、久美子と緑輝は顔を知っていた程度でさほど仲良くはなかった様子。葉月とつばめは下の名前で呼び合う仲で、二人はクラスメイトになったことを期に、改めて葉月からつばめの紹介をうけた。
ここのパートも映画の場面としては描かれてないが、次の「吹奏楽部ミーティング」のとき、久美子と高坂麗奈の会話シーンがあって「葉月と緑輝が同じクラスだったよ」というふうなやりとりがある。


【3】 吹奏楽部ミーティングのシーン(P23 - 30)

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*画像は右リンクより:https://tagong-boy.tumblr.com/post/188089891996/

「クラス替えないっていうのは、ちょっとうらやましいかも」
「そう?」
「だって、毎年友達いるかなーってドキドキするのは嫌じゃん」
「友達がいいひんくてもべつに困らんでしょ。一人で過ごせばいいんやし」
 あっけらかんと言い放たれた台詞に、久美子は言葉を詰まらせた。
(〜中略〜)
「……いまの、なんかすごく麗奈っぽいね」
「アタシっぽいって、何?」
(p24-25より)


【 劇場版と違う点 】 始業式の日は午前中に授業が終わる。ホームルームを終えたあとは、吹奏楽部のミーティングが始まる。久美子が音楽室に行くとすでに麗奈が待っていて、彼女の手招きで隣の席に座った。久美子は新しくなった自分のクラスの報告を麗奈にする。上の会話は小説からの一部抜粋。この部分は映画でも描かれていた。小説版ではこのあと、久美子と同じクラスメートになった吹奏楽部のパーカッション担当「釜屋つばめ」の話になるが、この部分は映画ではカットされている。そして、人数が揃ったところで部のミーティングがスタートする。去年の三年生が30人も卒業したため、部室内は少し閑散とした雰囲気になっていた。新部長になった吉川優子の仕切りで、部の方針と新入部員勧誘についての話がありミーティングはひとまず終了する。映画では、少なくなった吹奏楽部の人数を増やすため、新入部員を一人でも多く獲得するように、という呼びかけがあった。

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新北宇治高校吹部紹介 > CHARACTER > パーカッション(釜屋つばめ)
*画像は右リンクより:http://www.kyotoanimation.co.jp/shop/kitaujisuibu/
映画では、単独で登場することはなかったけれども、アニメの設定では部員数80名がおりその全員のキャラ設定がされている(小説では総部員数89人となっている)。

TVアニメ『響け!ユーフォニアム』 番外編 予告(Kyoani Channel / 2015.09.21)
番外編 「かけだすモナカ」に登場:https://www.youtube.com/watch?v=7NwLmFuazBk


【4】 楽器室のシーン (P31 - 37) 〜奏初登場!〜

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*画像は右リンクより:https://tagong-boy.tumblr.com/post/188140032421/


 膝を折り、久美子は楽器ケースの表面を指先でなぞる。いまはもうここにはいないふたつ上の先輩は、マイ楽器を所持していた。田中あすか。ユーフォニアムを担当していた彼女は、副部長兼パートリーダー兼ドラムメジャーという三つの重要役職兼任しており、この部活の中心的存在だった。(〜中略〜)彼女の腕のなかに納まっていた銀色のユーフォニアムの存在が、無性に恋しくなる瞬間がある。そんなとき、久美子はいつも彼女の奏でていた柔らかな旋律を思い出すのだった。
 楽器ケースを開き、久美子は自分の楽器を取り出す。金色に輝くユーフォニアムは、夏紀のものと同じ色をしている。この学校にあるユーフォニアムは、すべてが金色のラッカー仕様だ。
(P31より)


【 劇場版と違う点 】 このシーン、映画では次のように描かれている。夕日のやわらかな日差しが楽器室をオレンジ色に染めていた。久美子はひとり居残り、去年までいた先輩、田中あすかを思い返し、自分のユーフォニアムを取り出し抱える。そして、あすか先輩がよく吹いていた曲(このオリジナル曲は、部のユーフォ奏者で引き継いでほしいとあすか先輩から久美子へと託された)をそっと吹きはじめた。演奏をしているうちに、去年の懐かしい思い出がよみがえる。先輩たちがもういないという喪失感と、今度は上級生になった自分たちが後輩らを指導していかなければいけないんだという責任感がこみ上げ、それが音に表れる。久美子はふと、扉口に人の気配を感じ、そこに目をやるとその人影はスッっと消えた。だが数秒後、扉の影から見慣れない女子生徒が、おそるおそる顔をのぞかせる。それが新入生で吹奏楽部の見学をしにきた久石奏だった。突然目の前に現れた新入生にあわてる久美子と、こっそりとのぞいていただけなのに見つかってしまった奏、お互い慌てふためき、はじめはどこかぎこちない。この時点で奏は、まだ吹奏楽部に入部するかどうかは決めかねていたのだが、久美子との短い会話のなか、彼女の人柄に魅せられて何かを決心したようだった。そしてそう決めた瞬間足早に去ってゆく。残された久美子は、ぽかんと一瞬放心状態になるも、名前すら聞いてなかったことに気づきあわてて後を追う、しかし部屋を出るともう奏の姿はなく、入れ違いで高坂麗奈が現れた。

「奏、初登場!(初セリフ)」のシーンは、小説では別の新入生になっている(映画をシンプルに見せるために、小説にあるいくつかの場面は一人のキャラやシーンに置き換えられている)。この時点では誰だか名前が判明してないが、あとで久美子の卒業した中学の後輩だったことがわかる。名前は小日向夢、トランペット奏者。黒髪で目元にかかるぐらいの前髪、サイドを三つ編みにし、ハーフリムの眼鏡をしている。中学のときとイメージが変わっていたため、久美子は自分がいた中学の後輩だとは気づかなかった。


「うおっ、」
 不意に聞こえてきた声に久美子が振り返ると、見覚えのない女子生徒がチューバケースに身を隠すようにしてこちらをのぞいていた。
(以下略)
「あ、す、すみません」
 視線に気づき、彼女は慌てたようにケースの裏へと頭を隠した。
(以下略)
「いやいやいや、隠れられても困るよ」
 ユーフォを床に置き、久美子はケースの裏側をのぞき込んだ。
(以下略)
「もしかして、見学に来た新入生?」
 尋ねると、彼女は激しくうなずいた。
「は、はい! そうです」
「楽器室を見に来たってことは、経験者? なんの楽器やってたの?」
(以下略)
(前略)私、中学から吹奏楽部で、トランペットをやってました。それで、高校に入ったらどうしようかなって」
「楽器を何にするかで悩んでるの?」
「それもありますけど、そもそも吹奏楽部に入るかどうかも決めてなくて」
(P31 - 33より)




「北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」を、映画一本でまとめるのは難しいと判断したため、大きな軸となるストーリーを二つに分け、一つは「リズと青い鳥」として制作し、もう一つを「誓いのフィナーレ」として描いたのだと監督はインタビューで語っている。小説では、いくつかの小枝になる物語や登場人物は出てくるのだが、伏線とし機能しないような話は映画ではカットされている。以下監督のインタビュー。



本作『誓いのフィナーレ』と、山田尚子監督の『リズと青い鳥』は、同じ小説『第二楽章』が原作となっています。1冊の原作小説から2本の映画を作るアイデアは、早い段階から固まっていたのでしょうか?
石原 最初はいろいろと考えました。原作に沿って、(『リズと青い鳥』の主人公の鎧塚)みぞれと(傘木)希美のことも描こうかと考えたりもしてみましたが、やっぱり分量的に多いんですよ。そうやって考えていく中、みぞれと希美のお話と、久美子が直接的に関わってくるお話の2本に分ける形にしようというアイデアが出まして。「それは良いですね」ということになり、この『誓いのフィナーレ』の方では、ひたすら久美子を追いかけていく構成とすることになりました。とはいえ、原作のすべての要素は入らなかったのですが。例えば、新1年生の小日向夢に関するお話は、ごっそり削ることになりました。あと、釜屋つばめのエピソードも今回は拾えませんでした。

本日公開「劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜」
石原監督「学校でどう居場所を見つけるか」
(丸本大輔 / 2019.04.19)
、より
http://archive.fo/IZW4w

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新北宇治高校吹部紹介 > CHARACTER > トランペット(小日向夢)
*画像は右リンクより:http://www.kyotoanimation.co.jp/shop/kitaujisuibu/


【5】 久美子と秀一、下校デートのシーン (P37 - 42 )

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*画像は右リンクより:https://tagong-boy.tumblr.com/post/188236655296/


 久美子は橋の欄干に手をかけると、そろりと水面をのぞき込んだ。(以下略)
「何やってんねん」
振り返ると、呆れた秀一がこちらを見下ろしていた。
(以下略)
「いや、鳥がいたから」
「鳥?」
「うん。ほらあそこ」
久美子が指をさすと、秀一も隣に並んで水面をのぞき込んだ。
「思ったよりでかいな。ええもん食ってそう」
(P38 - 39より)


【 劇場版と違う点 】 下校途中に通る宇治橋で久美子と秀一が会話する場面。小説でこの部分は、始業式当日になっている。上セリフのあと、クラス替えがどうだったかを話すシーンへと移り、すぐに去年卒業した三年生の人数以上の新入部員を勧誘しなければ、今年の吹奏楽部の人数がまったく足りなくなるというちょっとした問題へと会話が流れてゆく。一方、劇場版での時系列はもう学校がスタートしたあとになっていて、吹奏楽部に新入生が入ったあとの一コマとして描かれている(僕の記憶違いかもしれない)。また劇場版では、二人は橋上で待ち合わせしており、秀一が少し遅れてやってくる。


【6】 新入部員を前に楽器紹介&パート割振りのシーン (P42 - 68)

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*画像は右リンクより:https://tagong-boy.tumblr.com/post/188289059006/
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「久美子ちゃん、ユーフォの希望者の子が来はったよ」
「えっ、ほんとですか」
 立ち上がった勢いで、椅子が後ろへと傾いた。あ、やばい。そう気づいた瞬間、後ろから伸びてきた手が背もたれ部分をつかみ上げた。顔を上げると、見知らぬ女子生徒が久美子の真後ろに立っていた。
(以下略)
「セーフでしたね」
 そう言って、彼女は笑った。思わず気を許したくなるような、人懐っこい笑みだった。輪郭に沿うようにセットされた、前下がりのショートボブ。重みのある前髪は両目の上でそろえられており、彼女の目力をより一層強調していた。
「ユーフォニアム希望の久石奏です。よろしくお願いします」
(p65より)


【 劇場版と違う点 】 小説では、このパートの後半箇所で久石奏が初登場する。去年、北宇治高校が出場した全国大会、奏はその会場となった名古屋まで演奏を聴きに行き、さらにDVDまで買って何度も見かえしていくうちに、北宇治の吹奏楽部でユーフォニアムを吹きたくなったのだと久美子たち上級生部員に語る。映画でもこの描写、会話はほぼ同じだ。奏が登場する前には、今作でフューチャーされる新入部員の残り3人、鈴木さつき(さっちゃん)、鈴木美鈴(みっちゃん)と月永求が入部する(キャラクター紹介を兼ねた)場面も描かれている。
前半部分は、部長吉川優子が新入部員を前に吹奏楽部の紹介をする。今年の新入部員は43人。去年、卒業した三年生30人の穴を埋めるには十分な人数が入部したことになり、ひと回り大所帯となった。総部員数は89名。ひとまず優子先輩の演説が終わると、各パートを代表する面子がそれぞれの楽器紹介をし、新入部員が希望する楽器を選択する場面へと移る。はじめにトランペットの紹介、話者は高坂麗奈。ホルン、トロンボーンと続いたあと、久美子がユーフォニアムの紹介をする。その後、木管楽器となりクラリネット、サックス、フルートの紹介。フルートでは傘木希美が受け持ち、続いてオーボエの紹介となる。コミュ障の鎧塚みぞれがたどたどしく自分の手にする楽器を紹介する。このあと、ファゴット、パーカッション、コントラバス…と続いて終了。楽器の歴史や特徴を交えながら、読者にもこれから物語で登場する楽器がどういったものなのかが、ひととおりわかるようになっている。


【7】 新生北宇治吹奏楽、今年の目標を決めるシーン (P69 - 76)

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*画像は右リンクより:https://tagong-boy.tumblr.com/post/188290994386/
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 全国大会出場
(中略)
「これが昨年の北宇治吹奏楽部の目標でした。今年の目標をどうするかは、皆さんの判断に任せます」
(中略)
「先生、チョークをお借りしてもいいですか」
 傍らに立っていた優子が、黒板のほうを指差した。
(中略)
 優子は粉受けから黒板消しをつかむと、勢いよく『出場』の部分を消し始めた。粉が宙に舞い、空気がうっすらと色づく。
(中略)
「一昨年も、北宇治の目標は『全国大会出場』でした。でも、それをほんまに実行しようとしてるやつなんていいひんかった。口先だけのスローガンを、唱えるだけで満足してた。けど、本気じゃない目標なんて、いくら決めたって意味なかった。うちは、やるからには本気でやりたい。みんなで決めた目標を、最後までやり抜きたい。だからこの場所で、全員で、多数決を取りたいと思います。本気で上を目指すか、緩くやっていくかの二択です」(p72 - 74より)


【 劇場版と違う点 】 楽器の割り振りが終わったところで、吹奏楽部顧問の滝先生が入ってくる。新一年生の女子たちは、滝先生のイケメンぶりにざわつく。そして、滝先生が壇上に立ち「今年の部の方針をどうするのか」を、集まった部員たちに問う。直後、優子部長が滝先生と入れ替わり前に出る。彼女は、滝先生がチョークで書いた、去年の目標「全国大会出場」の下二文字を消し「金賞」と書き直したあと、全員の決を取ることに。結果はほぼ全員が挙手をし、今年の部の方針が決定した。映画では、わずかに戸惑う部員もいたようだったが、小説と同じように大方賛成で決まっていた。小説にない映画の演出としては、滝先生からチョークを譲り受けた優子部長が、黒板に「金賞」と書き改めるシーンで、キキーッというチョークが黒板を引っかく不快な音が劇場に響く。ここで観客の背中には寒気が走り、客席で悶える姿が見受けられた。この場面は優子部長の意気込みが、筆圧に表れていていかに「最高の成績」を求めているかが分かるシーンとなっている。


【8】 部活が終わり下校のシーン (P76 - 84)

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*画像は右リンクより:https://tagong-boy.tumblr.com/post/188291998451/


「求くんの指の皮、すごく厚かった。それって、これまで頑張ってきた証やろ?」
「はー、さすが緑。細かいところでよう見てんな」
葉月が自分の手のひらを宙にかざす。真似をするように、麗奈も同じことをした。

(中略)
「チューバの二人もすごかったね。幼馴染みなんだっけ?」
「あー、W鈴木のことな。第一希望でチューバ来るとか最高やんな。とくにさっちゃんとはうまくやってけそう」
「確かに。葉月ってば、やけに息が合ってたもんね」
(p79より)

「ユーフォはどうなん? 部員、ちゃんと入った?」
麗奈の問いに、久美子は心なしか胸を張った。
「もちろん。ちゃんと第一希望の子が来たよ」
「やたらと礼儀正しい子やったよななぁ、奏ちゃん。なんていうか理想の後輩って感じ。チューバとかコンバスの子らに比べたら、インパクトはあんまなかったけど」
「いやいや、インパクトなんていらないよ。普通でいいんだよ、普通で」
(p80より)


【 劇場版と違う点 】 部活が終わり、仲良し4人組(久美子、麗奈、緑輝、葉月:北宇治カルテット)が一緒に下校する。京阪電車の駅で電車が来るまでの間、低音パートに入部したクセのある新入生4人の話題が尽きない。トランペット・パートの麗奈が低音パートの三人にたずねる感じで、それぞれが答えてゆく。ここで、新しいキャラクターの性格やパーソナリティが少し掘り下げられている。はじめは、葉月の履いている新しいスニーカーの話。麗奈は靴紐を結ぶのが面倒だからという理由でいつもローファーを履いていることが判明する。この部分は映画版では描かれてない。後半は久美子が麗奈にトランペットに入った新入生のことをたずねる場面。このときに、〜【4】楽器室のシーン〜で登場した女の子が、久美子と同じ北中の後輩で吹奏楽部だった「小日向夢」であったことがわかる。中学のときとイメージが変わっていたため、久美子は全く気づいてなかった。なぜあのときこの新入生に微妙な顔をされたのか、その理由が今やっとわかり麗奈の前でちょっと慌てふためく。

(前略)心当たりといえば、三つ編みの少女に話しかけられたことだろうか。
「……え、まさかあれが小日向さん? あの、眼鏡の?」
「そう、その子」
「えっ、中学のときと変わりすぎじゃない? あんな見た目だった?」
「見た目は変わったけど、中身は同じやったで」
(p82より)



【9】 低音パートの練習がはじまり揉め事が起こる (P84 - 94)

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*画像は右リンクより:https://tagong-boy.tumblr.com/post/188294163191/


「大胆な言い訳ですね。さすがは月永君」
 つきなが、という四文字を、奏はやけに強調して発音した。それまで何があろうと無気力だった求の顔が、見る間に不愉快そうにゆがめられる。
「その呼び方ははやめろ。苗字で呼ばれるの、好きじゃない」
「どうしてです? 普通の呼び方ないですか。月永君」
「……お前、わかってて言ってる?」
「さあ。なんのことですかね」

(中略)
「はい、喧嘩はやめ!」
 二人のあいだに割って入った緑輝は、そう言ってぶんぶんと手を振った。
「求くん、そんなツンツンした言い方はダメ。奏ちゃんも、他人のことを呼ばれたくない名前で呼ぶのはやめといてあげて。自分の名前が嫌だなって気持ちは緑もよくわかるし」
(p90 - 91より)


【 劇場版と違う点 】 楽器の割り振りが決まった翌日の部活。低音パートでは、練習時間や方針などの説明が久美子の口から発せられる。その後、新入部員の質疑応答があり、久美子が答えてゆく。そして司会が久美子から緑輝へとバトンタッチする。緑輝は百均で買った赤いフレームの眼鏡をおもむろに取り出し、この先参加することになる部のイベント情報や、北宇治をとりまく強豪校・ライバル校のデータ分析を語ってゆく。なぜ、説明するのにわざわざ眼鏡をかけたのか、というのは去年までいたユーフォの先輩、田中あすかのトレードマークでもあった赤眼鏡をかけ彼女の真似をすることで、先輩に対するリスペクトの意味がこめられているということだ。劇場版では「コンクール選抜メンバーをオーディションで行う」といった説明が加えられ、それに対し新入生でチューバの鈴木美玲(みっちゃん)が「オーディションは先輩特権や贔屓なしに、実力を重視して行われるのか?」といった質問をする。久美子は一瞬口ごもるも、隣にいた先輩の夏紀が「贔屓はありません。実力で選ばれる」と明言する(このやりとりは、第二章の p117-118にある)。
小説ではこうした一連の流れのなか、ひとりだけ興味を持ってない生徒がいて焦点はその子に向けられる。みなの矛先が向いたのはコントラバスの月永求だった。求は寝ぼけ眼で一連の説明を聞いていた。その態度を良しと思っていなかった奏がすかさず突き、皮肉を込めて彼の名前を呼ぶ(彼は苗字の"月永"で呼ばれることを嫌っている)。直後、求は激高し、ちょっとした言い合いに発展、一触即発状態になる。あわてて、先輩の緑輝が仲裁に入り一端二人は落ち着くも、くすぶりは完全には消えずじまいだった。この部分、映画では楽器室で行われる場面だ。このときに、奏の小悪魔的性格が垣間見え、一見礼儀正しくて大人しいように思えた奏のイメージが久美子の中で一瞬にして崩れてしまった。


【10】 低音パートの新入部員、自分の楽器を選ぶシーン (P94 - 102)

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*画像は右リンクより:https://tagong-boy.tumblr.com/post/188292884361/


(前略)求くんってずぶ濡れになった捨て猫みたいなオーラがあるから、ついつい心配になっちゃって。ほら、わからへん? 血統書付きの猫やったけど捨てられちゃった、みたいな」
(中略)
「川島先輩には、私はどんなふうに見えているんですか?」
「奏ちゃんは、そうやなあ……甘え方をよく知っている飼い猫って感じ」
「私も猫なんですか。では黄前先輩は?」
「久美子ちゃんはタヌキ! これはもう、ずっと前から思ってた」

(中略)
「ほかの低音パートについてはどう思っているんですか?」
「ほか? えっとね、さっちゃんは絶対に犬やと思う。人懐っこい小型犬ね。で、美玲ちゃんは警戒心の強いハリネズミ」
それからね、と緑輝は指を折りながら言葉を続けた。
「葉月ちゃんはイノシシで、後藤先輩はゾウ。梨子先輩は……うーん、なんかクジラっぽいかなあ。あと夏紀先輩はキツネに似てる」
(中略)
隣をみると、「イノシシって」と奏が肩を震わせていた。どうやらツボに入ったらしい。
(p100 - 102より)


【 劇場版と違う点 】 低音パートの練習室は音楽室の隣にあり、楽器室にも近い。低音の楽器はどれも大きいため、持ち運びの配慮がなされているためだ。低音パートの新入部員は自分の楽器を選ぶため、先輩らと一緒に楽器室へと足を運ぶ。W鈴木コンビの「さつき」と「美玲」は、葉月先輩からお笑いコンビ風のあだ名で「さっちゃん&みっちゃん」と呼ばれるが、美玲はその呼び方に拒絶感を示す。さつきはよろこんで、そのあだ名を連呼するも美玲は怒りがマックスになって楽器室を足早に去ってゆく。その美玲のあとを、さつきと葉月先輩は追いかけ出て行き、楽器室には久美子と緑輝と奏の三人だけが残る。あだ名をめぐっての騒動を、奏は冷ややかな目でみていて「高校生にもなってくだらないことで揉めるなんて」と久美子の前でつぶやいた。久美子は、そんな奏の態度をたしなめるが、奏は新入部員を大目にみる久美子や緑輝に対し、また先輩を置いて先に戻った求の行動に不満が沸き、ちょっとトゲのある返事をする。この後、低音パートのメンバーを動物に例える話しで三人は盛り上がる。
映画でも、「さっちゃん&みっちゃん」で揉めるあたりは同じように描かれているし、このあだ名を巡っての問題が発展し、映画前半部のひとつのハイライトにもなっている。また映画では、部員を動物に例えるシーンは、久美子、麗奈、緑輝、葉月の4人が駅のホームで話す場面の中で描写されているが、奏と求だけが例えとして挙げられている。奏は「甘え上手な飼い猫」、求は「ずぶ濡れの捨て猫なんだけど、血統書付き」というふうに。

小説と比較していくと、劇場版では時間の制約があることや、時間が一定に進み展開してゆくことなどから、ストーリーの流れをあまり枝分かれさせないよう一つに絞った方が、観客には伝わりやすいのだと思う。一方、小説ではある程度枝分かれさせ、人物や状況を描いていくほうが物語に深みが増すように感じる。


次回は、第二章「孤独にマルカート」編です。
posted by J at 09:00| Comment(0) | 響け!ユーフォニアム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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