2019年08月14日

響け!ユーフォニアム「誓いのフィナーレ」:映画と原作小説を比較する(1)

Novel-SoundEuphonium-Kitauji-secretEpisodes.jpg
「響け! ユーフォニアム」〜北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話〜 (番外編的短篇集)
「響け! ユーフォニアム」〜北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章〜 (前編 & 後編)

*文庫版「ヒミツの話」は全14話の物語が収録されている。そのうち、前半の1-9話は宝島社特設サイト「響け! ユーフォニアム」内にある「北宇治吹部だより」で読むことができる。
https://tkj.jp/info/euphonium/backnumber/




2019年4月19日公開の劇場版「響け! ユーフォニアム 〜誓いのフィナーレ〜」は上の原作小説、2タイトル(上下巻含む計3冊)を元にして、脚本が書かれている。小説と映画では表現形態が全く異なるし、制作に関わっている人の数もかかった予算も圧倒的に違う。なので、単純に違っている箇所を比べたところで、何かが見出せるというわけではないだろうが、まずはじめに小説があり、それを元にして映像のコンテンツが創られるという流れははっきりとしている。つまり、小説を追いながら、どんなふうに映画としてまとめ上げられていった(構成&演出)のかを想像していけば、自ずと監督の意図した主題・テーマが浮かんでくるんじゃないだろうかと、そんなふうに思えた。

映画(〜誓いのフィナーレ〜)の軸になっているのは「波乱の第二楽章・前編」。ここでは、主人公の黄前久美子が二年生になり、新入生が入ってきて吹奏楽部への勧誘、そして新入部員を獲得した後の練習の日々、やがてコンクールへ向けたオーディションが始まり、そこでひと波乱が起きるという場面までが描かれていて、ほぼ一冊まるごとが、映画の中に取り込まれている。「波乱の第二楽章・後編」からは、合宿の場面やコンクールでの演奏・結果発表のシーンが抜粋され、時間軸を多少前後しながら「前編」につなぎ合わせられている。「北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話」は、一番最後に収録のエピソード「とある冬の日」が、映画冒頭のシーンとしてフューチャーされた形。
まずは、この「とある冬の日」からはじめてみよう。次回からは、各章づつ順番に書いてゆく(予定)。

Sound-Euphonium-Prologue-Kumiko.jpg
秀一から突然の告白を受け、あわてふためく久美子、のシーン
画像は右リンクより: https://tagong-boy.tumblr.com/post/187072790861/

まずは映画のほうから。

映画はじまりのシーン、季節は冬。主人公・黄前久美子が幼馴染みの塚本秀一を呼び出し、宇治川に架かる橋の上でなにやら語らう。以前、秀一からヘアピンをプレゼントされた久美子は、そのお礼にと楽器(トロンボーン)の携帯ストラップを彼に手渡すのだがが、その用が済むや「さぁ帰ろう」など言い出し、秀一はずっこける。そして、彼はずっと言えずにいた久美子への気持ちを、思い切って告白するのだが、最初は気づいてもらえず(鈍感なので)、改めて言い直すはめに。ようやくそこで彼女も告白されたのだと気づく。久美子はとんでもなく驚いた顔、そして嬉しさと恥ずかしさを隠せない表情をして、彼女の顔がスクリーンいっぱいに映され、観客の目は星だらけの久美子の目に吸い込まれてゆく。ここまでの短いエピソードが今作のプロローグ。そして、すかさず、PUFFY「これが私の生きる道」の吹奏楽バージョンが流れ、季節は入学式&始業式がはじまる春へとひとっ飛びし、映画は本格的なストーリーへと入ってゆく。この展開が何かすごくいい。楽曲はインスト・バージョンにはなるが、元歌の歌詞はお馴染みの「近ごろ、わたしたちは、いい感じ。悪いわね、ありがとね、これからも、よろしくね」で、久美子と秀一の関係を音楽に乗せリンクさせている。演奏が続く間は、「誓いのフィナーレ」でキー(問題)になる新入生(久石奏・鈴木美玲・鈴木さつき・月永求)たちの登校姿が映し出されるが、この時点では皆、何の毒も持っていない表情をしている。


さて、小説ではどうなっているかというと、秀一が久美子に告白するまでのいきさつがはじめに描かれている。秀一は、低音パートの先輩に恋の悩みを相談してアドヴァイスをもらう。そして家に帰ると母親から邪険に扱われ軽い言い合いになり、自分の部屋に閉じこもる。すると、久美子から電話があって呼び出されることに。ここまでのストーリーは劇場版では描かれてない。映画の冒頭部にあたる橋上のシーンは小説では最後の8ページに相当する。映画では、久美子が顔を赤らめ困惑する場面で一旦終わるのだが、小説では、久美子も秀一にきちんと自分の気持ちを伝え、その言葉が物語を締めくくっている。なお、「北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話」は2015年6月に文庫版が刊行されているので、「誓いのフィナーレ」制作の段階ではかなり前のものになる。TVシリーズで描き残したエピソードだったのか、あるいは、監督が改めて掘り返し気づいたものだったのかはちょっとわからず。
*以下、小説より一部抜粋。劇場版ともほぼ同じセリフ。


「これ渡すために呼び出したん?」
「うん、そうだけど?」
「あ、そうなんや」
 ケータイをポケットへとしまい込み、秀一は手のひらに浮かぶ汗をジャケットへとこすりつけた。目的を達成して満足したのか、久美子がぐっと腕を伸ばす。
「じゃ、そろそろ帰ろうか」
「えっ、もう?」
 街灯に照され
(原文ママ)、ヘアピンがきらりと光る。こちらの問いに、久美子は不思議そうに首を傾げた。
「うん? なんかほかに用事あるの?」
「い、いや、用事があるというか……」



「響け! ユーフォニアム」〜北宇治高校吹奏楽部のヒミツの話〜 (武田綾乃)
(p264-265 / 十四『とある冬の日』、より)



■ 石原監督インタビュー、二つ

秀一が久美子に告白するエピソード「とある冬の日」が、「誓いのフィナーレ」のつかみシーンとして取り込まれることになった理由は、石原監督がいくつかのインタビューで答えているので、その箇所を一部引用してみる。「響け! ユーフォニアム」シリーズは、高校生の吹奏楽部の物語。新学期・祭り・夏休み・コンクール・卒業と、一年を通してのイベントは毎年さほど変わることなく、その中で起こる人間関係が微妙に変化することで、ストーリーに変化が生まれている。舞台となる場所も、学校と通学路、ほぼこの範囲内に収まっているため、大きな変化を読者・観客に期待させる要素は限りなく少ない。これが学年毎に続いていけば、物語がルーティーン化して、マンネリに陥る可能性も意外に高いようにも思う。監督は、これまでTVシリーズで一年間を密に描いてきて、さて、ひとつ上級生になったとき、また同じようなイベントスケジュールで場面を描かなければいけない、なんてことが頭の中によぎっていたのなら、次は違ったアプローチを取り入れてみたいと考えるのは自然なことのように思える。そして、その変化はおそらくファンにとっても漠然と望んでいたことだったりするのかもしれない。


まずは、ネットの記事から。

──2年生になった久美子に関しては、どのような一面や魅力を描きたいと考えたのでしょうか?
石原 今回、今までと違うのは、(塚本)秀一との関わり方です。こういった(女子がメインキャラの)アニメで、男の子を出すのは嫌いな方もいらっしゃいますけれど(笑)。僕としては、アニメで女の子が可愛く見えるのは、男の子に恋をした瞬間や、その相手の前にいるところだと思うんですよ。だから、今まではあまり描かなかったのですが、今回の映画では特に意識して、秀一の前での久美子の可愛さを描くようにしました。

──本作の冒頭で秀一が久美子に告白し、二人は幼なじみの部活仲間というだけでなく、恋人にもなりました。
石原 もちろん、麗奈やあすかの前での久美子も可愛いのですが、久美子の別の一面、女の子としての可愛らしさをより見せるために、秀一との関わり方は大事にしたいと思いました。



本日公開「劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜」
石原監督「学校でどう居場所を見つけるか」
(2019.04.19)
 より
https://news.goo.ne.jp/article/excitereview/entertainment/excitereview-20190419002.html


続いて、雑誌「メガミマガジン」のインタビューから

──久美子と秀一の関係性の変化も、今回の見どころかと思います。『誓いのフィナーレ』で恋愛描写を入れ込んだ意図は?
石原 これはやりたかったのです。とくに「物語」において女の子がかわいく見えるのって ” 恋してるとき ” だと思うんです。恋愛も青春の1ページだと思うんですよ。年頃の少女、少年のメンタル面としては外せないものだと思いますし、だれもが興味のある出来事です。お祭りでのデートなど、絵としても映えるんです。もちろん、原作にある展開ですし、演出的にはそんなシチュエーションを使わない手はないなと。部活練習シーンばかりでは見ていても飽きも来るでしょうし、雰囲気の違う絵を入れ込みたかったのです。

Megami-Magazine-June-2019.jpg
「メガミマガジン」2019年6月号(p27)、より

https://tagong-boy.tumblr.com/post/186899092266/

次回、「波乱の第二楽章・前編」1章〜不穏なダ・カーポ〜 へつづく
posted by J at 09:00| Comment(0) | 響け!ユーフォニアム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: