2020年07月14日

レビュー:「リズと青い鳥」


『リズと青い鳥』ミュージックPV(KyoaniChannel / 2018.04.27)


「dアニメストア」の新着一覧のなかに、『リズと青い鳥』が入っていたのを目にし一瞬自分の目を疑った。え、もう配信に? 近いうちにブルーレイを買うつもりでいただけに、嬉しいような悲しいような。でも、円盤買うのはついつい後回しになっていたので、お試しで観てみよう。ユーフォ・シリーズで唯一観てなかった最後のひと作品。これで、テレビ・シリーズの26話と劇場版「誓いのフィナーレ」のミッシング・リンクが埋まった。最後のPieceは穏やか(Peace)に。
観終えた第一印象は、なんてぜいたくな映画なんだろう、だった。緻密で繊細、そして余韻の長さ。予想していた以上のいい作品だった。心が洗われるような、浄化されるのが感じとれるような、そして自然と語りたくなってくる。これは、劇場の大きなスクリーンで観たい、劇場の大きな音で聴きたい、と強く思う。いろんなところで凝ったシーンがあったので深堀りできそうだから、何度か観返してまた詳しく書きたいが、今回は軽くメモ程度に残しておく。

「リズと青い鳥」(dアニメストア)
https://anime.dmkt-sp.jp/animestore/ci_pc?workId=24018



映画「リズと青い鳥」と「誓いのフィナーレ」について少し
「リズと青い鳥」は、2018年4月に劇場公開。翌2019年4月に劇場公開された「誓いのフィナーレ」と対になる作品で、「響け!ユーフォニアム」シリーズの主人公・黄前久美子が二年生になったときの物語から派生したもの。原作小説では、「北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」〜前編〜のプロローグ&エピローグ部分と、〜後編〜のプロローグ部分と第二章〜第四章がベースになっている。
「誓いのフィナーレ」は、ひとつ上級生になった黄前久美子と新入生のぶつかり合いが大きな柱になっていて、「リズと青い鳥」では久美子の先輩にあたる三年生「傘木希美」と「鎧塚みぞれ」、二人にフォーカスを絞り彼女らの友情関係を描いたエピソードが中心になっている。

小説「北宇治高校吹奏楽部へようこそ」「北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏」「北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」の3冊が、黄前久美子の一年生編として、TVシリーズ(1期・2期)全26話で描かれている。久美子2年生編にあたる「リズと青い鳥」と「誓いのフィナーレ」の2作品。「リズと青い鳥」の上映時間は90分。TVシリーズの一話分が約20分(OP・EDを除き)だから、4.5話分に相当する。一方「誓いのフィナーレ」の上映時間は100分なので約5話分にあたり、二つを合わせてもTVシリーズの約10話分弱にしかならない。そのため、久美子2年生編は、時間的な面でTVシリーズのように一人一人のキャラクター像が十分に描ききれてない部分はあるが、劇場版ならではの作画の細やかさで、足りない時間を少し補えているところはある。特に「リズと青い鳥」における、生徒たちの仕草や楽器のメンテナンス・シーンなどは、TVシリーズでも描いてないような非常にディティールにこだわった場面なので、それらから読み取れる情報量というものは相当なものだと思う。


「リズと青い鳥」の構成
映画のタイトルにもなっている「リズと青い鳥」というのは、吹奏楽コンクールで演奏する自由曲として選ばれた楽曲で、童話「リズと青い鳥」をもとに作曲されたもの。もちろん両方とも(小説内の)架空の物語で架空の楽曲だ。以下、小説より引用。

「自由曲『リズと青い鳥』は、吹奏楽部ではお馴染み、卯田百合子さんの作曲です。ほかにも有名な曲がいーっぱいありますが、それらに比べると今回の曲は知名度が低いです。童話『リズと青い鳥』をもとに作曲された、かなり物語性の強い曲になっています。第一楽章から第四章まで、合わせて十二分ほどあるので、滝先生は結構ばっさりカットしはると思います。この曲の目玉は、なんといっても第三楽章のオーボエのソロ! 後半のフルートとのかけ合い部分がめっちゃ素敵で、一時期はその部分だけCMに採用されてこともありました」

「響け!ユーフォニアム・北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」前編
、より
(p229-230 / 三 嘘つきアッチェレランド)



演奏曲「リズと青い鳥」のハイライトは、第三楽章のオーボエとフルートのかけ合いで、物語はこの二つの楽器を受け持つ、みぞれ(オーボエ)と希美(フルート)の二人が、コンクールを目指す練習のなかで息が合わずにすれ違い、そして、最後にはひとつにまとまってゆく姿をみせる。さらに、童話『リズと青い鳥』のストーリーが、みぞれと希美に重なり交錯する。みぞれは内向的でコミュ障な性格、希美は明るく後輩からも慕われ社交的。みぞれは中学時代、希美に誘われ吹奏楽を始めたこともあって、みぞれにとって希美はあこがれる存在だ。だが、高校に入り楽器を続けていくうちに、みぞれの才能は自分でも気付かぬうちに開花していて、そのことが演奏(才能)の差として現われはじめ、みぞれと希美の関係を悪くする。童話『リズと青い鳥』の結末を知っているのぞみは、自分と希美の関係を物語に重ね、その中に見出そうとするがうまくいかず。互いの気持ちが少しづつずれていき、コンクールを控えた部の練習にも影響が出てくる。そんなときに、ひとつ下の二年生、黄前久美子と高坂麗奈が、オーボエとフルートのパートをトランペットとユーフォニアムに置き換え、校舎の裏側で演奏してみせる(下画像・このシーンは多分小説にはなかった)。意図的やったのか、それとも遊びでやったのかはわからないが、このシーンを期にみぞれと希美の気持ちに変化が訪れる。別々の方向にバラけかけていた二人の想いが、再び同じ方向へと戻ってゆく。そして物語は最終章へ。

cap-liz-and-bluebird-kumiko-reina.png
『リズと青い鳥』ShortPV4 北宇治カルテット編(KyoaniChannel / 2018.05.01)、より
https://www.youtube.com/watch?v=TH5IAkYE4KU


印象深かった点
・作画がほんと素晴らしい。安心して物語に入っていけるし没頭できる。

・ユーフォ・シリーズとは違うキャラデザと色調。ラムネ瓶を透かしてみたような色褪せたトーンと中性的なキャラクターの線はアート的な雰囲気があって、「響け!ユーフォニアム」特有の絵のタッチが苦手な人にも馴染みやすい感じはする。

・前半の音響感がゾクゾクする。靴の音、風に揺れるスカートの音、リュックの揺れる過剰なほどにリアルな音が、現代音楽風のスコアと重なって、ときにリズミカルに、ときにサウンドエフェクト的に脳の中で残響を残してゆく。これ、是非映画館で体験してみたいと思った。この前半部分のところは、目をつぶっていても絵が浮かんできそうなくらい強烈だった。
音録りについて、山田尚子監督のインタビューがあるので以下引用。

 繊細な心の動きを描くために、山田監督は音にもこだわった。(中略)
 山田監督は「この線引きを大事にしたかった。学校パートは、学校を容器に見立てて、壁や椅子、廊下がみぞれと希美の行方を固唾(かたず)をのんで見守っているような音楽世界」とイメージを語る。そうした音楽世界を表現するために、牛尾さんは実際に舞台となっている学校でビーカーをたたく音や廊下の反響、足音などを録音し、音楽の素材として使用したという。


リズと青い鳥:「少女たちのため息を描く」 山田尚子監督がこだわり抜いた表現、より
(MANTAN-WEB / 2018年04月21日)

https://mantan-web.jp/article/20180420dog00m200014000c.html

・映画のはじまり(厳密には童話パートの次だけど)は、朝練で朝早くにみぞれが登校するシーンからはじまる。そして映画の終わりは下校の場面。その間二、三ヶ月の間が過ぎてはいるのだが、まるで一日のなかで起きた出来事かのような錯覚が起こる。時間感覚のなさ、つまり現実感の排除。これはけっこう、「リズと青い鳥」にとって大事な要素なのではないだろうか、と感じた。映画の淡い色調とも相まって、まるで白昼夢のなかで起こっているドラマのような非現実さ。TVシリーズや「誓いのフィナーレ」で描かれるリアルさとは、正反対のあり方。それは教室の時計を見てみるとよくわかるかもしれない。「リズと青い鳥」では、時計は壁にかかっているのだけれど、光の反射やガラスが曇っていることで文字盤や針がまったく見えない。TVシリーズでは、何時何分ということまでがはっきりと分かるくらいに時計は描かれているのだ。そして、「ガラス」の描写についても面白い点がある。希望や望む世界を透き通してくれる教室の窓や、(ふぐを飼っている)水槽のガラスは透明で描かれているが、現実を映す、あるいは現実を突きつけるもの、時計のガラスや吹奏楽部顧問・滝先生の眼鏡のガラスは光に反射され、不透明に描かれている。

・映画「リズと青い鳥」は、最後にみぞれと希美が校門を出て下校するシーンで終わる。それが唯一、学校の外に出た場面で、それ以外のほぼ全編、学校の中だけで物語が展開する。下校のシーンは、劇中、みぞれが希美という籠から解き放たれて自分の才能を解放する場面の重ねでもあるし、希美の求めたハッピーエンドな世界でもある。みぞれと希美、二人を描いたこの映画、なぜ、学校という「籠」の中だけで物語を進めたのか? 主たる理由にはならないかもしれないが、みぞれの演奏する楽器「オーボエ」にも一つ要因があるのではと思える箇所が小説のなかにあった。以下引用。


「オーボエは外で吹けない。割れちゃうから」


「響け!ユーフォニアム・北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」後編
、より
(p219 / 三 彼女のソノリテ)


posted by J at 09:00| Comment(0) | 響け!ユーフォニアム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: