2017年04月19日

33年目の「ニューロマンサー」は新しいカバー・デザインで

WillamGibson-SprawlTrilogy-Gollancz.jpg
Gollancz から、新しいカバー・デザインになって出たウィアリム・ギブスン「スプロール三部作」
表紙のアートワークは、ダニエル・ブラウンによるCG作品。記事中ほどで彼の他作品も紹介してます。
(* 画像は「GOLLANCZ BLOG」より。)


2016年12月8日に、イギリスのSF系出版社ゴランツから「ニューロマンサー」が新たなカバー・デザインとなって発売された。そしてこの続編となる「カウント・ゼロ」と「モナリザ・オーヴァードライヴ」が、今年2017年2月9日間髪を入れずに出たばかり。さらに短篇集「バーニング・クローム」もこの三部作と同じデザイン仕様で、2月23日に発売。計4冊が関連したヴィジュアル・デザインとしてまとめられた感じだ。これ、シリーズで揃えたくなるほどカッコイイ! 今のところ「ニューロマンサー」と「バーニング・クローム(邦題:クローム襲撃)」の2冊だけが日本語訳で読めるが、残り2作は絶版のまま。ハヤカワさん、新訳で復刊してくれないかな?
ゴランツは現在も "S.F. Masterworks" というシリーズで、フィリップ.K.ディックやアーサー.C.クラークの小説をけっこう出している(他、2006-07年にかけては「めぞん一刻」も英語コミックとしてカタログに入っていた。この漫画も同じ80年代に連載され 'The 80's' の代名詞的作品だ)。現社長で英SF界の名物編集者であるマルコム・エドワーズは、J. G. バラードの「太陽の帝国 / Empire of the Sun」を編集していたのでバラードとも接点がある。
P.K. Dick (Gollancz): http://tagong-boy.tumblr.com/post/159398559971/
A.C. Clarke (Gollancz): http://tagong-boy.tumblr.com/post/159377309441/


今回は33年ぶりに(元の出版社から)新たな装いとなって発売された「ニューロマンサー」のカバー・デザインと、それに使われているダニエル・ブラウンの作品について少し触れてみた。以下「ニューロマンサー」のストーリーについてではなく、カバー・イメージから見た「ニューロマンサー」といった感じで、ダニエル・ブラウンというCGアーティストの話が中心になっている。P.K. ディック風に言うならば「ブック・カバーは電脳譚の夢世界を具現化できるか」かな。
ギブスンの小説は、映像を喚起する要素は強いけれども、それらは頭の中で生まれ完結する非現実的なイメージのため、具体的に視覚化するのは難しいだろうとは思う。この彼が描く未来的な世界を、本の表紙パッケージとしてデザインするとなるとなおさらで、これまでに出版されたものをいくつか見てもどこか抽象的なものが多く、イメージの核心をつかみきれてないところがあったし、どれも皆、決定的なイメージになっているとも思えなかった。しかし、今回ゴランツから出た「スプロール三部作」のブック・デザインは、ダニエル・ブラウンという素晴らしいアーティストを起用し、これまでのものとは格段にレベルの違うイメージで、ギブスンの小説世界をたった一枚で表したように思うし、読者はきっとこの新しいブックカバーに何一つ文句いうことなく、納得するんじゃないかとも思う。少し後に引用した「ゴランツ・ブログ」にも書いてあるように、今回ギブスン自らダニエル・ブラウンにコンタクトをとり(もしかすると出版社から紹介されたのかもしれないが)、新しい「ニューロマンサー」の表紙デザインが出来上がった。33年経ってようやく小説にふさわしいイメージがヴィジュアル化されたのを目にし、ギブスンが言葉で綴っていた世界がいかに早かったのかと実感する。


SF小説『ニューロマンサー』が出版されたのは1984年のことだった。
それから実に、30年がすぎた。いま、われわれは、まだ世の中の大部分がアナログだった時代に書かれた“直観”のうち、何が未来を告げていたかを知ることができる。


『ニューロマンサー』からの30年。サイバーパンクは現実を先取りした(WIRED.jp、より)
http://wired.jp/2014/09/20/post-neuromancer/


アマゾン.jp & マーケット・プレイスで、新装ペーパーバックを頼んでみた。
FrontCover-Nueromancer-Gollancz.jpg
文字やデザイン・アクセントとして配置している色塗りチップ箇所は、(エンボスではない)箔押し加工になっていてメタリック感がある。アマゾンや出版社HPに載っている表紙デザインを見た限りでは、通常のCMYK・4色プロセスで印刷したもののように見えるが、実際本が届いて手に取ると、この華やかな金属光りが、マットPPコーティングされた表紙の中でよりくっきりと輝き、少し高級感が出てとてもいい。
日本語訳を読んだあと「ニューロマンサー」の原文がどんな英語なのかは、すごく興味あったのだけれども、以前に出ていたペーパーバック版の表紙デザインがどれもいま一つなところがあって、買うには二の足、三の足を踏むくらいだったりした。でも、Gollancz から新しく出たこのペーパーバックはひと目みた瞬間欲しくなった。
W.Gibson-CountZero-Gollancz.jpg



「ゴランツ・ブログ」の記事の中で、「ニューロマンサー」の新しい表紙がどういった経緯によって出来上がったのかが書かれていたので、少し訳してみた。

"Cover Reveal: Neuromancer!" (GOLLANCZ BLOG)
http://www.gollancz.co.uk/2016/10/cover-reveal-neuromancer/
予備:http://archive.fo/4KBe6
Japanese translated by Tagong-Boy / Original text by Darren ( Oct. 2016 )


2015年の冬、世界がより穏やかで複雑でもなかった頃、私たちは英国での最初の出版社から、ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」が戻ってくるぞ、と発表した。それもなんと、当時の編集者によって! オリオン出版社グループのインプリントであるゴランツは、ウィリアム・ギブスンのスプロール三部作(「ニューロマンサー」「カウント・ゼロ」「モナリザ・オーヴァードライヴ」を含む)と短篇集「バーニング・クローム」の版権獲得を発表し歓喜している。ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」は「1984(ジョージ・オーウェル著)」や「すばらしい新世界(オルダス・ハクスリー著)」と並び、未来社会を示した20世紀で最も影響力を持つヴィジョンの一つとして称されている。
Back in the winter of 2015, when the world was a gentler, simpler place, we announced the return of William Gibson’s Neuromancer to its original UK publisher – indeed, to its original UK editor!
Gollancz, an imprint of the Orion Publishing Group, is delighted to announce their acquisition of William Gibson’s Sprawl Trilogy, comprising Neuromancer, Count Zero and Mona Lisa Overdrive and a collection of short fiction, Burning Chrome. William Gibson's Neuromancer ranks with 1984 and Brave New World as one of the 20th century's most potent visions of the future.



ゴランツの社長、マルコム・エドワーズ曰く:
 「ニューロマンサー」とギブスンの他初期作品を獲得したことは、私が1980年代にゴランツで過ごした最高な出来事の一つだった。そして、それらが本来あるべき場所で復活できることがとても嬉しい。彼の作品は20世紀後期のSF小説の中でも重要なタイトルのままでいる。
Malcolm Edwards, Chairman of Gollancz, said: 'Acquiring Neuromancer and Gibson's other early works was one of the high points of my years at Gollancz in the 1980s, and I'm delighted to bring them back where they belong. They remain absolutely key titles in any account of late 20th century SF.'


ウィリアム・ギブスン曰く: 「ニューロマンサー」とその続編2作、および「(短篇集)バーニング・クローム」が、私にとって英国での最初の出版社、ヴィクター・ゴランツに戻るのを知り嬉しく思う。ましてや、版権を取った当時の編集者であるマルコム・エドワーズの素晴らしい援助の元でなんだから。
William Gibson said: ‘I'm delighted to see Neuromancer and its two sequels, plus Burning Chrome, return to Victor Gollancz, my first UK publisher, and still more so under the excellent auspices of Malcolm Edwards, their original acquiring editor'


私たちは、この独創的なSF作品とその続編の表紙をお披露目でき誇りに思うし、またワクワクしている。
We are now proud and excited to reveal the covers to this seminal work of science fiction and its follow-up volumes.


表紙のイメージは、受賞暦あるアーティスト、ダニエル・ブラウンによるデザインで、コンピューター・グラフィックによって描かれたものだ。そのプログラムは、彼が面白い形を探しながらそのとき追い求めていたユニークな3Dの形状を創るために、フラクタル数学を用いている。彼が自分の好む形を作り出すため分離やひねりを加えた後、プログラムは、エッシャー風「ありえない建築群」の素晴らしいイメージを作成するために、彼のポートフォリオにある建築写真から選んだ素材を重ねていく。
The cover images were generated by a computer program, designed by award-winning artist, Daniel Brown, which uses fractal mathematics to create unique 3-D shapes that he then explores, looking for interesting forms. After he has isolated and tweaked the shapes to produce something he likes, the program overlays elements from his portfolio of architectural photos, to produce amazing Escheresque images of 'impossible buildings'.

* award-winning: 直訳では賞を勝ち取ったという意味の「アワード・ウィニング」だけど、これってどう訳したらいいんだろうと調べてみたら、けっこう難儀な言い回しらしく、訳しづらい言葉みたいだった。ダニエル・ブラウンも特に何か大きな賞をとったというわけでもなさそうだったので、何かぴったりとくる言葉を考えてはみたが思い当たらず、下記ブログ記事にあるように「受賞歴ある」という風にした。意味合い的には(目の肥えた)多くの人から評価されている、という位の感じがした。
http://studio-rain.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/award-winning-2.html


ダニエル・ブラウン曰く: 私はコンピューターのコードを通して建築物を描く実験をしていた。プロジェクトとして、それはまだ初期段階だったし真の目的があるわけでもなかった。そうしたときに、ウィリアム・ギブスンが私に接触してきたんだ。そして、これぞまさに「スプロール三部作」を構想していたものだと言った。神秘的な方法で、そのコードは自身の意図するものを見出したんだ。デザインのためにウィリアム・ギブスンからコンタクトをもらったことは、私が想像しうる限り最高の賛美だよ。それを越える精励賞なんて思いつかないね。
Daniel Brown said: 'I had been experimenting with generating architecture via computer code. As a project it was still in its infancy and without real purpose. Then William Gibson contacted me, and stated it was exactly how he had envisaged The Sprawl. In an uncanny way the code found its own purpose.'
'To be contacted by William Gibson for the designs was about the highest praise I could imagine. There’s no industry Award that can top that.'


* industry Award: industryは「勤勉な」という意味合いのある文語で訳してみたけれど、単純に業界的なという意味合いで、企業が設けた有名な賞のことを言っているのかもしれない。ここは、どんな激励にも勝るくらいのニュアンスでいいのかな。


DanielBrown-NeuromancerSprawl.jpg
ダニエル・ブラウンが「Neuromancer: The Sprawl」シリーズのブック・カバー用に制作した原画。
この作品、ディティールが細かい上、迫力と完成度がありすぎるので、タイトルや著者名等の必要な文字要素を乗せ、パッケージ・デザインとして成立させるのはけっこう難しいと思う。もし僕がデザインをするなら、画面の角部分に細い帯を入れ、サンセリフ系の書体を乗っけるだけにして、極力作品の存在感を損なわないようにするかな。(* 画像はダニエル・ブラウンのHPより:http://danielbrowns.com/


ダニエル・ブラウンのその他作品「 Dantilon:ザ・ブルータル・デラックス」シリーズ
DanielBrown-DantilonBrutalDeluxe.jpg
Daniel Brown - " Dantilon: The Brutal Deluxe " (Flickr)
https://www.flickr.com/photos/play-create/albums

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写真上:ラルンガル・ゴンパ(色達 / 東チベット・カム)、写真下:ガルダイア(ムザブの谷 / アルジェリア)
* 画像は右リンクより:http://tagong-boy.tumblr.com/post/159674492311/
ダニエル・ブラウンがCGで描いた未来都市作品を彷彿とさせるチベットの僧房群とマグレブの中世都市。
二つを同時に並べてみると、どちらが現実世界のものでどちらが想像上のものか区別がつかなくなってくる。そして、現実にあるこうした一見無秩序に見える街並みを遠目で見ていると、人間が無計画に作り上げた建築群が、実は、誰が決めたわけでもないだろうある法則によって、非常な規則性を帯びて建てられているんじゃないか、といった不思議な事実があることに気づく。人が無意識のうちに、何かのプログラムの一部になり(居住区を造り上げるという)行動をしているかのようで、人間一人一人がまるで誰かが描いた設計情報の一端子にすぎないんじゃないかという奇妙な感覚にもなったりした。これって、ギブスンの描く小説世界ともリンクしているような気がしたり。
MzabValley-Ghardaia-Algeria2.jpg


新しくなった W.ギブソン「スプロール三部作」の表紙カバーに使われていた写真から興味をもって、その名を知ったダニエル・ブラウンというアーティスト。彼の作品を最初に見たときは、脳の中で感嘆符が無数に爆発するような衝撃があった。SWに出てくる巨大な宇宙船、スターデストロイヤーを彷彿とさせるようなスケール感あるディティール。この地球上に存在する何かで言うならば、東チベット・カム地方の奥地にある「ラルンガル・ゴンパ(Larung Gar Gompa)」やアルジェリア中部、ムザブの谷にあるイスラム都市「ガルダイア」、あるいはブラジルのスラム街ファヴェーラなんかが真っ先に思い浮んだ。
彼の作品。はじめは実際ある建築写真のテクスチャーをデジタル処理で切り貼りし、ひとつの画像にしているのかと思ったが、フルCGのようなのっぺりとした質感もあったし、でもどこかリアルな陰影もあり、一体彼はどうやってこうした画像をつくり上げているんだろうと不思議だった(もし手作業によるデジタル・コラージュだったとしたら、途方も無い工程になるだろうとは想像つくのでさすがにそうは思えない)。いくつかのWEB記事を読んでいくうちに、彼の制作プロセスがわかってきた。ダニエル・ブラウンはフラクタル幾何学を演算できる・コンピューター・プログラムを自分で作製し、それを使い奇妙な擬似建築構造の形を作り上げ、仕上げにストックしてある古い建築写真のテクスチャーを張り込こんで作品を完成させている。ワイヤードの日本版に、ダニエル・ブラウンについての翻訳記事が載っていたので以下一部引用。



ロンドン在住のデザイナーであり、プログラマーでもあるブラウンは、写真を加工するために新しいデザイン手法「ジェネラティヴデザイン」(コンピューテーショナルデザイン、アルゴリズムデザインとも呼ばれる)の自作ソフトウェアを使用している。彼はそれを使い巨大で複雑な3Dパターンをつくり出し、そこから何かおもしろいものを見つけるまで、ただひたすら探し続ける。

2003年に事故に遭ったブラウンの手には、障害が残ってしまった。そこで彼は、筆や鉛筆を握る必要がないツールを探し求めた。

「架空の街をつくるために、アルゴリズムをプログラミングしていくのです。自ら描くわけでもなく、3Dモデルでつくってもいないような建物や構造物が、この街には存在します」とブラウンは語る。



「アルゴリズム」という名の建築家が街をつくってみたら(WIRED.jp、より)
WIRED.jp (2016.08.05) :http://wired.jp/2016/08/05/monstrous-alien-cities/
英語元記事:https://www.wired.com/2016/06/monstrous-alien-cities-built-computer-algorithm/


ニューロマンサーの初版本(イギリス版 & アメリカ版)とカバーイラスト

Neuromancer-1stEd-UK-USA.jpg
* 上画像は右リンクより: http://tagong-boy.tumblr.com/post/158299818446/
英国「ヴィクター・ゴランツ社」の初版本ハードカバー(left)
米国「エース・ブックス社」のペーパーバック初版(centre)
ジェイムス・ウォーホーラによる、米・ペーパーバック版の表紙絵(right)

ニューロマンサーは1984年に出版。この初版本がどんな表紙だったのかと、今いったいどれくらいの値段になっているのかが興味あって「abebooks.com」やオークション・サイトなどを見てみたところ、おおよその相場がわかった。イギリスのSF系出版社「ヴィクター・ゴランツ」の黄色いハードカバー本が希少度高いようで、平均 2,000 - 3,000ドル(1USD=115円換算で23〜35万円)の値が付いている。けっこうビックリした。サイン本でなければ2,000ドル以下でもあるが、買う人いるのかな?
アメリカでは「エース・ブックス」から出版されていて、こっちはけっこう安い(といってもそれなりに高いんだけど)。エース・ブックス版のハード・カバーはおおよそ200ドル程度(2万円ちょい)で、サインが付いていても同じ位、ゴランツ社のと比較するとなぜか人気が無い。そして、ペーパーバックは100ドル未満であり、ペーパーバックにサインが付くと急に高くなって800ドル位になる不思議。米のハード・カバー版はデザインがいまひとつだったので今回は画像アップしなかった。エース・ブックス版のペーパーバックはいかにも80's風のダサダサ・デザインで、なかなか味わい深い。ちなみにのヒューマノイド風の表紙絵は、アンディ・ウォーホールの甥(兄の息子)ジェイムス・ウォーホーラ(James Warhola)が描いている(漫画「コブラ」に出てきそうなキャラクターだ)。
またこのエース・ブックス社はウィリアム・バロウズの処女作「ジャンキー(1953年)」を出した出版社でもあって、こうしてみると何かひと時代築いた人や時代の流れを変えた人たちが間接的につながっているんだなと。「ジャンキー」を出版した時、バロウズは「ウィリアム・リー(William Lee)」というペンネームを使っていた。


日本版「ニューロマンサー」の表紙デザイン
W.Gibson-Neuromancer-Hayakawa.jpg
* 上画像は右リンクより: http://tagong-boy.tumblr.com/post/159598306186/
奥村靫正デザインによる「ニューロマンサー」ウィリアム・ギブスン(訳:黒丸尚)の表紙カバー
と「S・F・X」細野晴臣 with フレンズ・オブ・アース(1984年末リリース)のジャケット。
上二つのカバーは、ほぼ同時期に制作されたデジタル・コラージュだが、短い期間にも変化が見られる。この頃は、今ではお馴染みとなったMacやイラストレーター等を使っての DTP デザインがまだ普及してなかった為、デジタル・コラージュといっても、手で写真を切り貼りしたものを複写したり、印刷の製版フィルムで仕上げたりと、アナログな手法でデザインするしかなかった。そうした状況の中で、そのとき一番新しかっただろう手法をもって視覚化しようと工夫した跡は、今見ても何か味わいがある(上リンク先に「ニューロマンサー」の版下原画についてのBLOG記事あり)。初代 Macintosh は1984年の発売。DTPとして実際に使えるようになったのは1990年以降だった。'90年代は写植文字をトレスコという機械で目測調整しながら拡大縮小し、それらを版下台紙の上にレイアウトしデザインしていた。


ニューロマンサーの日本語訳は1986年(文庫は同年7月)、早川書房から出ている。表紙カバーのデザインはYMOのジャケット・デザインで知られている奥村靫正が担当している。彼は立花ハジメと並んで、海外のニューウェーヴの動きに敏感に反応し、わりと早い段階からデジタル技法を取り入れたグラフィック・デザインをしていたように思う。そして、フォーマットから構築してかっちりと仕上げるタイプのデザインではなく、感覚的に文字やオブジェクトを配置していくデザインが特徴で、けっこうまとまり感のない緩いところがあり、このあたりは多分好みが分かれそう。1980年代はメディアとしてのヴィデオ映像が新しく、何か未来的・電脳的な印象があった。テレビモニターの走査線とヴィデオの(デジタル風味な)かくかくしたドットは、ヴィヴィッドでぺったりとした色が加わることで、よりいっそう人工的、かつ現実の世界を超えたイメージを作るのに役立っていたんじゃないかと。日本版ニューロマンサーのブック・デザインは、そうしたデジタル・イメージをうまく取り入れて、当時としては、けっこう新しいところを行っていたように見える。この頃は(ヴィデオ・アートの父)ナム・ジュン・パイクの映像&インスタレーション作品が現代美術の世界では話題だった(ブライアン・イーノも1980年代はヴィデオ・アートに熱を上げて、いくつかインスタレーション作品を制作していた)。奥村靫正をはじめ、日本のデジタル系グラフィックも当然、その影響は多少受けていたんじゃないかと思うんだけど、どうだろう。


NamJunePaik-VideoArt.jpg
"Global Groove" (1973) / "Good Morning Mr. Orwell" (1984)
Nam June Paik (MoMA): https://www.moma.org/artists/4469
* 上画像は、ナム・ジュン・パイクの映像作品から。



「ニューロマンサー」の冒頭文について流れたある噂


"The sky above the port was the color of television, tuned to a dead channel."港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。



「ニューロマンサー」は上のようにカッコイイ一文で始まる。日本語訳も絶妙で、何かこれだけでもう、未来的なこの物語の世界にすっと入り込める感がある。ちょっと前に、アメリカのテレビの「空きチャンネル」が、実は日本と同じモノトーンの砂嵐じゃない、という情報がツイッターで流れ、ああ確かにこの小説はアメリカ人作家の書いたものだから、日本で見るイメージをそのまま当てはめてもいけないなと思ったり。そこから少し調べては見たけれど、アメリカのテレビの砂嵐が一体どんなものなのか? 本当に目の覚めるような真っ青な色なのか? はよくわからなかった。ましてや出版当時、1980年代初頭のテレビの空きチャンネルがどうだったかなんて見当もつかない(けっこう1980年代の映像・資料等はネットアーカイヴに無かったりする)。そのツイートに対する色々な考察・反論なんかが寄せられたりしてはいるものの、(画像や映像がないもんだから)結局のところ決定的な結論には至らずに終わっている。'dead channel' と呼ばれるくらいだから、彩度ある色じゃなく、何か死を連想させる色、黒、もしくはグレーであるだろうと、多くの人は想像するだろう。まぁただ、古い本の場合、その当時、その時代の状況を考え想像しながら、書かれていることを(先入観なく)読み取っていくのは大事なことだなと改めて思う。


ニューロマンサーの「港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。」って冒頭、長いこと砂嵐の灰色をイメージしてたけど、アメリカのテレビの空きチャンネルは真っ青つまり快晴のイメージだったらしいと聞いてカルチャーショックを受けたのは結構最近のことだった。


■ 九岡望さんのツイート、より(2014年11月27日)
https://twitter.com/kuokanozomu/status/537998003810758657
Twitter-Kuokanozomu-27.Nov.2014.jpg


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