2016年09月13日

J.G.バラード "The Atrocity Exhibition" を英語で読む(1)

Paperback-JG.Ballard-AtrocityExhibition.jpg
4th Estate Books 版の"The Atrocity Exhibition". カバー・デザインはスタンリー・ドンウッド。
レントゲン写真とアメリカ大陸の地表図を使ったフォトコラージュは、この小説のもつ不穏なイメージを上手く表している。ウィリアム・バロウズが序文を書いていて、それもまた嬉しい。その序文冒頭で「The Atrocity Exhibition」のことを難解で不安にさせる本だと書いている。


The Atrocity Exhibition is a profound and disquieting book.

from 'PREFACE BY WILLIAM BURROUGHS'


9/30、ついに東京創元社から「 J・G・バラード短編全集(1)時の声」が出る。HPにはようやく表紙デザインの画像と収録タイトルが掲載されて、いよいよだなといった感じ。少し残念なのは、うーん、日本版の表紙デザインがこじんまりとしていていまひとつ良くないこと。悪くはないが、ハッとするような新鮮味がない、カバー・デザインとしてはやや中途半端なものだった。スタンリー・ドンウッドをデザイナーとして起用した「4th Estate Books」のペーパーバック・シリーズが、今の時代に合うとても洗練されたものだけに大きな差を感じてしまう。特殊な小説スタイルをもつバラードの本なのだから、ブックカバーも賛否両論が出るくらいの冒険はあってもよかったんじゃないだろうかと思ったり。まぁ、本の中身は文句なしだからそう気にするでもないけれど、やっぱり惜しいな。 日本版短編全集の刊行を記念して、というわけでもないが、別の短篇集「The Atrocity Exhibition」の訳を素人手で少しやってみようと思う。

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010584

「アトロシティー・エクシビション」について少し


バラードが1970年に出した短篇集「The Atrocity Exhibition」の冒頭を飾る作品は、タイトルと同じ「The Atrocity Exhibition」。全部で24の断片的な文章(小さな散文のようなもの)で構成されている。登場する人物を軸にそれぞれの話がつながっていて、小品による連作ものといった感じだ。短いものだとわずか4行、長くても1ページほどしかない。なので、話の区切りがよく、英語初心者の僕でもなんとか読み進むことができそう。というのがこのペーパーバックを最初に手にしたときの印象だった。
この本の文字組・レイアウトを見ると、1ページに収まる行数は最大で33行。和訳の後(このページの最後)に各タイトルのテキスト量をグラフ化してみた。またタイトル横に、それぞれの行数を記したのでおおよそのボリュームがわかると思う。-Chapter One-「The Atrocity Exhibition」は全部で13ページ半ある。

過去には工作舎から「残虐行為展覧会」という題名で、日本語訳も出ていたが現在は絶版で入手が難しい。当分復刊の予定もないだろうし、新訳で出る話もなさそうだ。ほんの少しだけなら、僕が個人的に訳したものをアップしても問題はないと思うので、テキストの1/4程度のボリュームで、6タイトルほどを数回に分けて書いてみたいと思う。今回は最初の項目「Apocalypse」。
目読しているときは、頭の中でなんとなく英文の意味がつながって、分かったような(読めたような)感触になるものだけど、いざ紙(やモニター上)に文字として書こうとすると、どうも言葉の置き換えや文章がつながらず難しい。なるべく自分の普段使う言葉・語彙で書いてはみたけれども、少しぎこちない日本語になるのは、やっぱり仕方ないのかな。訳するときのコツや決まった言い回しなどはもちろんあるだろうし、例えばマザーグースや古典文学、有名なフレーズからの引用やもじりが用いられていたりする箇所などは、やっぱり教養や知識を持っていなかればわからないところで、まだ僕にとっては及ばないところ。まぁ、そういうのはやりながら、勉強もしながら少しづつ身につけていこうと思う。そのうちに、少しはこなれた日本語訳になっているといいんだけれど。自分で訳したものを、一度母(20世紀初頭の英文学に関する本を出している)に見てもらってアドバイスをもらい最後修正した。
またバラードは医学用語や理系の専門用語をけっこう使うので(もう少し読み進んだところに登場してくる)、そのあたりはわからない部分もあり、わりと一般的に通じる単語に置き換えてみたりしている。


■ Chapter one : The Atrocity Exhibition( + 邦訳)
Japanese translated by Tagong-Boy / original text by J.G. Ballard


黙示録:
Apocalypse.

毎年開催されるこの展覧会で人々を不安に落しいれる呼び物といえば(患者たちはこの展覧会には招待されなかった)、世界の大動乱をテーマにした絵に大きな関心がゆく。
まるで長い監禁状態におかれた患者たちが、彼らを看る医師や看護師らの心のなかに、ある地殻大変動を感じているかのようだった。
A disquieting feature of this annual exhibition - to which the patients themselves were not invited - was the marked preoccupation of the paintings with the theme of world cataclysm, as if these long-incarcerated patients had sensed some seismic upheaval within the minds of their doctors and nurses.

キャサリン・オースティンは、改装された屋内競技場の中をぐるっと歩いて回り、これらの奇妙なイメージ群を目にしたのだった。エニウェトク環礁とルナ・パーク(*1)、フロイトとエリザベス・テイラーが混然となった絵は、トラヴィスのオフィスにある脊髄図解を写したスライド・フィルムを思い出させた。
As Catherine Austin walked around the converted gymnasium these bizarre images, with their fusion of Eniwetok and Luna Park, Freud and Elizabeth Taylor, reminded her of the slides of exposed spinal levels in Travis's office.

それらは解けない夢を表した記号のようにエナメルの壁に吊り下がっていた。
彼女が(自ら)進み、意図どおりの役割を演じはじめた悪夢を解くための鍵として。
They hung on the enamelled walls like the codes of insoluble dreams, the keys to a nightmare in which she had begun to play a more willing and calculated role.

ゴールドのキャップをつけたタバコを、片方の鼻孔に突っ込んだDrネイザンが近づいてくると、彼女はすまし顔で白いコートのボタンを留めた。「ああ、オースティン…、ここにある絵をどう思うかね? まるで地獄で繰り広げられる戦争じゃないか」
Primly she buttoned her white coat as Dr Nathan approached, holding his goldtipped cigarette to one nostril. "Ah, Dr Austin... What do you think of them? I see there's War in Hell."


*1 )
Eniwetok : 太平洋上、マーシャル諸島にある環礁。ハワイとフィリピンを結ぶ線上のちょうど中間位に位置する。ここは核実験場としてや、1952年に世界で最初の水爆実験が行われた場所で知られる。第一次世界大戦のはじまった1914年に日本が占領し、1920年に委任統治領となり太平洋戦争では激戦地となった。

Luna park : 南極大陸をのぞき世界各地で展開されている、月旅行をテーマにした遊園地チェーン。20世紀初頭にかけ人気を博したが、現在は閉園しているものも多い。アメリカはNY、コニーアイランドが発祥の地。日本では東京浅草と大阪にもあった。「浅草ルナパーク(1910-1911)」は日本最古の遊園地「花屋敷(浅草五区)」の隣、浅草六区に造られたが火災のため一年も経たずして閉鎖。大阪のルナパーク(1912-1923)は新世界に建設され、初代通天閣とロープウェイでつながっているという不思議な場所だった。今ある通天閣は二代目。たしかにあの一帯は奇妙な雰囲気が漂っている。

memo )
バラードは、エリザベス・テイラーやフロイト、J.F.ケネディなど、執筆していた頃に最も関心の高かっただろう、時代を象徴する人物を小説の中に登場させることが多い。それを踏まえると、この「Apocalypse」に登場する、'Catherine Austin' という名前は、女性作家のキャサリン・マンスフィールド(Katherine Mansfield)とジェーン・オースティン(Jane Austen)を連想させるし(キャサリンは、KとCを置き換えている)、 'Dr Nathan' は多分、ロスチャイルド家の名を世界中に知らしめたネイサン・メイアー・ロスチャイルド( Nathan Mayer Rothschild )からきているように思った。上にある訳ではネイザンと濁らせた表記にした。発音が近い「ネイサン」だとどうも「姉さん」と言葉が重なり悪そうなイメージがわかないので。


The Atrocity Exhibition - Text length (graph)

JG.Ballard-TheAtrocityExhibition-TextLength1.jpg

Apocalypse (16行) / Notes Towards a Mental Breakdown (17行)
Internal Landscapes (26行) / The Weapons Range (13行)
Dissociation: Who Laughed at Nagasaki? (15行) / Serial Deaths (27行)
Casualties Union (23行) / Pirate Radio (14行) / Marey's Chronograms (19行)
'Was my husband a doctor, or a patient?' (19行) / Zoom Lens (9行)
The Skin Area (21行) / Neoplasm (19行)
The Lost Symmetry of the Blastosphere (34行)
Eurydice in a Used Car Lot (20行) / The Concentration City (17行)
How Garbo Died (17行) / War-Zone D (21行) / The Atrocity Exhibition (8行)
The Danger Area (14行) / The Enormous Face (26行)
The Exploding Madonna (8行)/ Departure (11行) / A Terminal Posture (4行)


Chapter 1: The Atrocity Exhibition Excerpt (RE/SEARCH Publications)
http://www.researchpubs.com/products-page-2/chapter-1-the-atrocity-exhibition-excerpt/
アメリカ、サンフランシスコを拠点にした出版社 'RE/Search Publications' のHPに、(多分)試し読み用として第一章「The Atrocity Exhibition」の冒頭 'Apocalypse' のテキストと、バラード自身による解説が載っている。RE/Searchからも「The Atrocity Exhibition」が出ていて現在も入手可能だ(表紙になっている女の子の絵がわりとグロい。25ドル)。バラードによる各タイトルの解説は 4th Estate Books 版ペーパーバックにも掲載されている。

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