2016年06月12日

sometimes it Snowden in April...not June


Nine Inch Nails - Ghosts I - 2


自分たちの秘密の世界は、切りはなされたべつの世界で、あたしは半人間たち(ハーフ・ピープル)の島に永久追放されたものだと思っていました。けれども、トマス、そこは切りはなされてはいないのです。神は教えてくれました ―― それはあたしたちを取り巻く現実世界のまんなかにあって、ただドアをひらいて外に出れば、自由になれることを。

「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」ジョン・ル・カレ(村上博基訳)、より
(ハヤカワ文庫NV・p101)




エドワード・スノーデンを追ったドキュメンタリー映画「Citizenfour」を観る。海外サイトには監督ローラ・ポイトラスがどうやってこの極秘取材を進めたのか等、時系列をふまえた記事やインタビューが数多くあって、またそれぞれにボリュームもあり関心度の高さがわかる。興味ある記事もいくつかあったので、僕は辞書をひきながらのんびり読んでいこう。ようやく日本でも公開。この映画は、時事性の強い映像作品でもあるから発表時に渦巻いていた期待熱はやや冷めたところはあるが、その間にもスノーデンの告発&亡命が導火線となっているだろう「パナマ・ペーパーズ」の問題が起こったりもして、少しは追い風にはなっているんじゃないかと思う。少し経てば、きっと専門的な人などが詳しい情報を交え、webやblogなどでアップしてくれるだろうから、そういったのにも少し期待。僕は普段から、さほど映画を観ているわけではないし映像に関しても疎く、そういった能力はないので勢い感想くらいしかかけないや。まぁ、でもそれについて考え、少し書くことで理解の度合いは増えるだろうから、何もしないよりかはいいかなと思ったり。そのときに観たり聴いたりしたものについて、自分がどう感じたか等々を書くのは、やっぱりその瞬間にしかできないもので、あとからでは、当時の新鮮な感情(や考え)を思い出すのはなかなか難しい。ちゃんと見れてないこともあるだろうし、思考が至らないことばかりだけれど、それもそのときの自分なのだから、と、最近はあまり気にすることもなくなってきた。ということで以下、映画「Citizenfour」についてのあれこれ。こうして、映画や映像にinfluenceされ、何でもいいからちょっと書いてみたくなる、ってのはやっぱりいい作品だという証拠なんだろうな。何か素敵なものに触れると自然と言葉が湧いてくる、例えたどたどしくっても、それが自分の受け取った「何か」なのだろう、と。

「Citizenfour(2014)」は、ポイトラスの "9/11 Trilogy(9.11三部作)" の3作目、締めくくりにあたるのだそう。「My Country, My Country(2006)」「The Oath(2010)」と合わせた、彼女の映像3作品がDVD-BOX SETとしてパッケージングされている。


3 years ago in June
そうか、スノーデンがアメリカの情報収集・監視機関NSAの内部告発をし香港に逃亡、このスクープをすっぱ抜いたガーディアンのグレン・グリーンウォルドによる報道がちょうど三年前の今ぐらいの時期だった(途中、各国の街の電光スクリーンにそのときの報道シーンが映る)。スノーデンの滞在していた香港のミラ・ホテル、10階で秘密裏に行われていた取材の様子を中心に構成された映画(ここはデザイナーズ・ホテルとして改装したらしくインテリアなど、わりとお洒落。取材映像の仕上がりを意識して選んだのかな? なんて後で思う)。スノーデンはお互いの連絡には、PGP(Pretty Good Privacy)という暗号ソフトを使うように提案し、簡単な仕組みをレクチャーする。自分のいた諜報世界のことをよく知っているだけにとにかく慎重だ。このくだりは暗号と戦争の歴史にもつながってくるので、興味深いものがある。どんな重要な情報を持っていても、それをプロテクトし目的地へ放り投げる術を持っていなければ、たしかに諜報活動の場合仕事をしたことにはならない(サイモン・シン「暗号解読」は暗号技術のテクニカルな話もふまえつつ、歴史や思想的な話も盛り込んでいて読みやすく面白い)。暗号史という切り口で、この映画を観てみるとまた違った発見があるのかも。

1分でわかるPGP(村川研究室)
http://www.wakayama-u.ac.jp/~takehiko/pgp.html

緊張感の漂うなか取材は進む。スノーデンの飄々とした口ぶりと反比例するように、アメリカのスパイ組織(CIA)による地球規模で行われている監視体制の全容が見えてくる。それとともに、彼らは事の重大さと自分たち(ジャーナリスト)が抱えられるような問題でもないことがわかってくる。世界中の誰もが知らない大きな秘密を共有してしまった(スノーデンをのぞく)三人は、後悔しようにももう後にはひけない。映像を通し、観ている側にもそれが伝わり手に汗握る。スノーデンはくつろぐベッドから手を伸ばし、電話機を持ち上げてみせる。そして片手でつかみ直すと真剣な表情に変わる。次いで「通信回線一本あれば、ホテル内の盗聴も接続機器の遠隔操作も(地球の裏側からでも)可能なんだ」と冷静に言う。その事実を知っているものだけが口にし言葉にできるリアリティ。多くのユーザーが使っているパソコンにも勝手にメモリーチップや隠しコードなどが組み込まれ、僕たちはおそらく気づかないまま使い、また買い替えているのだとも。こうしてグレンが普段使っているノートブックの小さなからくりをいとも簡単に見破る。全世界での一斉に報道された後、スノーデンはアメリカ政府から追い込まれ(恋人や家族も)、とても切羽詰った逃亡劇へと場面は展開する。ほんと映画以上に映画的だし、ドラマティックで非現実の世界。こんな世界が実際にあるんだな。そして今もごく一部の人間が、多くの人たちを常に見張っているというのも変わらない。きっとアメリカのトップ、オバマですら知らない事実もあるだろうし、一体誰がこの国をコントロールしているんだろう? なんてことを観ながらぼんやりと考える。

ジュリアン・アサンジもちょこっと登場する。モスクワの空港で身動きの取れなくなったスノーデンに対し、チャーター機を飛ばして、エクアドルかベネズエラ(だったかな?)に亡命させるよう電話でウィキリークスの編集長の女性に語っていたのがかっこよかった(まるで、タクシーを呼び寄せるかのような、ごく自然な振る舞いをみると、やっぱり彼はエリート中のエリートなんだろうな。それとも欧州は、そういう需要がさほど珍しくないのか)。「アメリカCIAの秘密を暴露した青年が、どこか亡命先と命の保障を希望してるんだけど、手助けしてやれないかな…」と、いつもの、あの抑揚のない冷静な口調で受話器に向かって話す。アサンジもこの突然の逃亡劇ニュースには驚きを隠せない様子だったが、スノーデンには何かシンパシーを感じている風でもあり、いつかめぐり合うだろう同胞を待ちわびていたような感じもした。このときアサンジ自身も、在ロンドンのエクアドル大使館から一歩も出れない状況だったから、彼の申し出はより意味を持つ(この映画のなかでのアサンジは、ミステリアスな雰囲気をかもし出していてガンダムのシャアっぽい)。それにしても、ロシア域内に入った瞬間にスノーデンのパスポートを失効させたり、当然なのかもしれないがありとあらゆる妨害工作を働く国家と、それから守ろうとする人たちの攻防というか頭脳ゲームがあるのもこの映画の見所のひとつだった。
他観ていて思ったのは、ほんと西洋の社会って論理というか理論で動いているんだな、ということ。アメリカのもつ巨大な権力だったなら、組織を裏切った人間一人二人くらいなら、秘密裏に殺害することも出来ただろう。けれども、スノーデンを取り囲むジャーナリストや法律家たちは、メディアの持つ裏の刀、大衆の関心を引き寄せるという部分をうまく利用し、頭脳と知恵を駆使して命のセーフネットを張る。このあたりはけっこうシビレるものがある。異端児対世界最大級の国家、という構図で後半は進んでゆく。高層ビルや近代的な建物、モバイルやモニタールームなど最新の機器が写りこむが、やってることはほとんど中世の世界だ。

911以降、アメリカ政府の監視体制が、一般市民に対しより広くやりやすくなったと映画の中では何度も繰り返されている。いまだに、いろんな説が飛び交う911だけど、一番の目的は、この暴露で知ることになった〜世界中の名もなき市民を一人残らず(合法的に)監視する法律〜を成立させる為だったんじゃないだろうかと思えたり。

Citizenfour - Soundtrack
エンドロールが流れ、そういや印象的なシーンで頻繁に流れていた音楽って誰の演奏なんだろう? とふと気づきクレジットを目で追っていくとナイン・インチ・ネイルズだった。映像のトーンに良く合っていたせいか、既存の音源だとは思わず、てっきりこの映画のためのオリジナル音源だと思っていた。それだけに意外な選曲だった。(イタリアのノイズ音楽家)マウリッツォ・ビアンキの「 FIRST DAY - LAST DAY 」を彷彿させるアンビエントな感じや、This Heatの1st、ソニック・ユースの「 Providence("Daydream Nation" に収録)」あたりの音響(音像?)感もある。都市と人、あるいは人と都市、存在としての有機体が巨大な無機物に囲まれ磨耗してゆき、なにかポロポロと心が壊れ・剥がれていくような空虚さ。荒廃的な雰囲気が漂いつつも、その中にわずかな再生の芽を感じさせる、そんな触感のあるいい曲だな。この曲を収録したナイン・インチ・ネイルズのアルバム「 Ghosts I-IV 」は全編インストゥルメンタルらしく、いくつかを聴いてみると、現代音楽にも近いアプローチがあったりして、彼らに抱いていた -ノイジー&ゴス- という印象ががらっと変わった。ノイズ・インダストリアルとアンビエント・ミュージック、街の雑音コラージュ、そしてサティ(風のピアノ)の組み合わせって、1990年前後には出尽くしたところがあり、もうそれほど斬新なところはないけれど、まだモダンというか知的な音作りの可能性が残っているところがある、とも感じたり。



From Inside the Snowden Saga:
How Laura Poitras Covertly Shot Her New Film, Citizenfour

(by Matt Patches / Vanity Fair - Hollywood / Oct. 23, 2014)
http://www.vanityfair.com/hollywood/2014/10/laura-poitras-citizen-four


How Laura Poitras Helped Snowden Spill His Secrets
(By PETER MAASS / NY Times / Apr. 13, 2013)
http://www.nytimes.com/2013/08/18/magazine/laura-poitras-snowden.html



posted by J at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | favourite | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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