2013年08月31日

「海の向こうで戦争が始まる」村上龍

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「愛と幻想のファシズム(1983年12月から連載が始まり、後に書籍化)」をきっかけに、少し遡って村上龍の初期の作品をいくつか読むようになった。「海の向こうで戦争が始まる」は1977年に発表された作品で、デビュー作「限りなく透明に近いブルー」に続く第2作目。彼の最高傑作と言われている「コインロッカー・ベイビーズ(1980)」のひとつ前に書かれたもの。
もう単純に「カッコイイ」、そのひとことに尽きる。"ザ・村上龍" のイメージが十分に味わえる一冊だった。ヒリヒリと痛くなるような、感性むき出しの文章で埋めつくされているのが魅力的だった。ナイーブさの裏返しだと思わせる、この研ぎ澄まされた表現は次作「コインロッカー・ベイビーズ」にも、しっかり引き継がれている。物語を描くというよりは、文章の表現力に挑んでるようなところがあって、「コインロッカー〜」へ到る実験作と思えるような印象を受けた。きれいなのか、ぐちゃぐちゃに溶けているのか、なんだかよくわからないまま、そのぎらぎらと輝く液体の中にすっぽりっと引きずりこまれてしまう、読んでいるとそんな奇妙な感覚に陥る。ローリング・ストーンズの「サタニック・マジェスティーズ(Their Satanic Majesties Request)」を聴いたときにも感じたサイケデリックな感触と似たところがあった。夢の中の世界をそのまま文章に書きおこしたかのように、めまぐるしくストーリーが展開してゆく。その描写は、とても映像的で一文一文が濃いため、読み手の状態がいいときでないと、かなり疲れるかもしれない。変な例えかもしれないが、こってりとした焼肉をたらふく食べたあとのように、胃ではなく"頭"がもたれてくるような感じ。

この小説では、全体的に無国籍かつ夢とも現実ともつかない世界が描かれていて、本を綴じてもその不可思議な世界の残像がしばらくの間残る。具体的にどこのどの場所をイメージして書かれたのかは、まったく想像がつかないがちょっとした断片から、少しだけイメージの源泉が見えてくる。現実世界とのリンクを想像しながら読み直すと、また別の楽しさがある。
冒頭部分、高級ホテルの建つ海辺のリゾート地とその向こうにある巨大なゴミ山が交互に描かれるシーンがあり、二つの対比する世界がとても印象的だった。このゴミ山は、フィリピンのスモーキー・マウンテンを彷彿させるところがあった。ここでの臭気漂う描写は、想像だけではとても描けるものではないと思う。
「ライオンの夢を見るのよ、ライオンがね、昼寝しているの、今のあたし達みたいに、お腹がいっぱいで、動く気がしなくて、インパラのお肉をどっさり食べて眠くてたまらないって顔してるの、そんな夢見るのよ。(P57-58)」というセリフからは、アフリカの地を連想する。巻末に氏の年譜なるものが掲載されていて、それを見ると、この作品を書く前の年に、村上氏はケニア、タンザニアへ旅行に行っていると記されていたので、東部アフリカの沿岸部が舞台になっているのだろうなと思った。


核兵器や生物化学兵器が蔓延する中で暮らす21世紀の住人からすると、「海の向こうで戦争が始まる」なんていうのは想像の中だけであってほしい。
posted by J at 15:00| Comment(0) | TrackBack(0) | - 書籍 - | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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