2017年04月30日

歌詞和訳:"Carbrain" by The Wake


The Wake - Carbrain (Audio)
サラ・レコーズ移籍後初のシングル "Crush The Flowers" のB面曲が "Carbrain"。この曲は、A面よりも力みないメロディが心地よく、The Wake の曲の中では一番好きな歌だった。動画コメント欄にも「This song is so much better than the A side...」(by C. Hulsey)なんて書き込みがあったりする。B面がタイトル曲よりも良かったりすると、さほど期待していない分何か得した気分になる。


ザ・ウェイクについては、以前に少し書いていた。今回は歌詞訳と追加分を少し。

The Wake "Talk About The Past" FAC 88 ( 02 Apr. 2014 )
http://tavola-world.seesaa.net/article/381936032.html
けっこう地味なバンドやったんで、メディアで取り上げられることも、またインタビューなどの情報もなく、ゆえエピソードらしいエピソードが生まれるということもほとんどなかった。なもんで、目新しい話がこの先出てくることは多分ないだろうな。そうしたものを望んでいる人も、ほんのわずかにいるだけだろうし。プライマル・スクリームのボビーが一時在籍していた、という話やドゥルッテイ・コラムのヴィニ・ライリーが楽曲に参加といったことが一番の話題やったりして。




ザ・ウェイクの簡単なプロフィール:
wiki や "Shadowplayers: The Rise and Fall of Factory Records" を見ると、ザ・ウェイクは1981年の4月グラスゴーで結成。ザ・ウェイク結成の少し前、リーダーのジェラルド・マクイナルティ(Gerard McInulty)は、ノートルダム・ハイスクール(Notre Dame High School)に通っていて、在学中の1979年に学友クレア・グローガンらとバンドを始めた。そのバンド名はオルタード・イメージズ。ジェラルドはこのバンドの初期メンバーだった(彼は、彼女らの最初の2枚のシングル "Dead Pop Stars" と "A Day's Wait" を作曲している)。オルタードを辞めたあと、すぐにザ・ウェイクを結成する。そしてオルタード・イメージズは1981年秋にリリスしたデビュー・アルバムがヒットしてしまった(バンシーズの Steven Severin によるプロデュース)。ジェラルド在籍時のオルタード・イメージズの演奏は、1980年10月7日("Dead Pop Stars"他を演奏)と1981年3月2日(""A Day's Wait"他を演奏)のジョン・ピール・セッションで聴くことができる。

ザ・ウェイクは1983年から1987年までの間、ファクトリー・レコーズから2枚のアルバムとシングルを何枚かリリースするも、レーベル側はまともなプロモーションもせず、バンドに興味を示す様子が全くなかった。その態度に彼らメンバーは不満を抱き、やがて自分たちが契約したレコード会社に幻滅してゆく。そして1988年、彼らは所属するファクトリーを離れることした。そして、次に移った場所がブリストルを拠点にしたサラ・レコーズという小さなインディ・レーベルだった。ここで2枚のシングルと2枚のアルバムをリリースするのだが、1995年8月にサラ・レコーズは解散。これによってザ・ウェイクも事実上、活動を停止する。

サラ・レコーズに移籍し、最初にリリースしたのが「Crush The Flowers」というシングルで、この曲のB面に収録されていたのが「Carbrain」という曲だった。A面曲よりもメロディが素直で、それを引き立てるさわやかなアレンジ。なんでこっちをA面にしなかったんだろうと僕は不思議に思いながら、A面をかけずこの曲をよく聴いていた。どこかプリファブ・スプラウトを思わせるキラキラとしたキーボードの音色と、甘く寄り添う女性コーラスは、木漏れ日の中で小鳥がさえずり戯れているようで、耳がくすぐられるような感覚になる。さほど印象に残る曲のないザ・ウェイクだけれども(と言ったら怒られそう)、「Carbrain」は彼らの楽曲の中でも一つ飛びぬけていい曲だと思うし、数あるネオアコ・ソング達の中でも決して他に負けない魅力があるように思うが、これは僕の贔屓目が幾分入っているかも。


TheWake-2EPs-Sarah.jpg
* 画像は右リンクより: http://tagong-boy.tumblr.com/post/159978150691/
"Crush The Flowers" (1989) / "Major John" (1991)
サラ・レコーズからリリースした2枚のシングル。ファクトリー・レコーズ時代のデザインを少し意識したレイアウト。所属する他のバンドは手描きイラストと手書き風の文字の組み合わせが多かったので、ザ・ウェイクのジャケット・デザインはサラではちょっとだけ浮いていたように思う。サラ・レコーズのレコジャケは、予算を抑える為にほとんどが一色刷り、多くても2色刷りだった。写真もコントラストを付け、階調を飛ばしているためプリントごっこで刷ったようなトーンになってしまい、それがまた手づくり感をより印象付けていた。レーベル初期の頃は、オマケのポストカードがリリース毎のシングルそれぞれに封入されていて、どんなのが入っているか楽しみだった(バンドによっては、封入ポストカードの絵柄が異なっていて、何枚かを集め、組み合わせてゆくとミニポスターになるような工夫もあったりした)。サラはあるとき突然ブームのようなものが起きて、最初期のシングル(カタログ番号が一桁台)いくつかは一万円近くの値が付いていた。それがさらにネオアコ・ファンを惹きつける結果になったのだろう、さほどプレス枚数があったわけでもないのに、熱心なリスナーがつくようになって、未だにこのレーベルは人気がある。



ザ・ウェイク「 カーブレイン 」歌詞和訳

The Wake "Carbrain" - Lyrics ( songtexte.com )
http://www.songtexte.com/songtext/the-wake/carbrain-7396f609.html
* 歌詞は「 Songtexte.com 」から。
メロディに合わせた詞の改行・分断はせず、なるべく意味の通る一つの文になるようにした。
またコーラス・パートやサビのリフレイン等で歌詞が重複する箇所は省いてます。



A stream from your mouth of filth gave me dog's abuse and I was so indifferent. I was set apart and I was so ungrateful, had to change my voice just to get a part.
Once you had the taste of cold lemonade, in those days you were made

君の口からとめどなく放たれる悪態は、犬の虐待を受けている気分だったよ。だから僕はまったく知らんぷりだった。僕は距離を置いていたし、ほんと恩知らずだった。歌のパートを得るためにも、声を変えなきゃならなかった。昔、君は冷えたレモネードの味見をしたね。君がうまくいってたあの頃の話さ。



I used to climb that tree, you got the better of me with your Carbrain
あの木によく登っていたね。君の町「カーブレイン」で、君は僕を打ち負かした。



Fell from a stool in a pub where they played punk rock.
The floor in the punk rock club always flattens your hair.
The floor in the friendly club, like revolving doors, fake cheap flashing lights and a new wave track spins in your sore head, that's the best of things

パンク・ロックを演奏してたパブのスツールから落っこちてさ。そのパンク・ロック・クラブの床で、君の髪はいつもぺちゃんこになってたわけだ。気さくなクラブの床は、回転ドアみたいで、偽物っぽい安物のフラッシュの光とニューウェーヴの曲が、君のひどい頭の中でぐるぐると回り続ける。あれは最高だった。




* 歌詞の中に登場する「レモネード」について:
レモネードという飲み物は、ノスタルジーと結びつきやすいんだろうか? 子供の頃にそんなものを飲んでいた記憶なんてないけれど(日本ではカルピスがこれにあたるのかも)、なぜか僕でも少年時代を思い出させる響きを感じてしまう。ザ・ウェイクと同じネオアコ系グループに入る、ドリーム・アカデミーの「Life in a Northern Town (1985)」という曲の冒頭にも「レモネード」という言葉が登場し、曲名どおり「北国の町での暮らし」を回想するように歌詞は続いてゆく。

" A Salvation Army band played and children drunk lemonade, and the morning lasted all day. "

( Lyrics from "Life in a northern town" The Dream Academy )

この曲を書いたニック・レアード=クルーズの幼少時代が歌詞に反映されているのか、あるいは全くの想像によるものなのかはわからないが(彼はロンドン生まれ)、この歌の詩は、どことなくスコットランドのうらぶれた地方都市の光景を想像させる。それともMVの映像が潜在的に残っていて、ただそういう風に思わせているだけなのかも。下記事によると、「Life in a Northern Town」は早逝した英国のフォーク・シンガー、ニック・ドレイクに捧げたものだったそう。
Pop: Apprentice to the stars (Independent / March 1999)

http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/pop-apprentice-to-the-stars-1083050.html


「カーブレイン」

曲名にもなっている「カーブレイン」は、ノース・ラナークシャーの「カンバーノールド」というニュータウンの中にある町のひとつ。グラスゴーとエジンバラのちょうど中間あたりにある。この曲が出た当時は、そんな事わからないので「Car - Brain」って、車の脳みそ? なんて思っていた。
「カンバーノールド」は、1955年にニュータウンに指定され(スコットランドでは3番目)、翌年に建設が始まり、1958年に最初の住宅が販売となった。1996年まで開発と管理(プロモーション等)が続く。「カーブレイン」地区の住宅は1960年代に多くが設計され、1963年に建設が始まり1970年代初期にはほとんどのエリアで入居完了。もしザ・ウェイクのリーダー、ジェラルドがこの町で生まれ育っていたのなら、おそらく第二世代にあたるんじゃないかと思う。

SnakeBridge-CumbernauldTownCentre.jpg
カンバーノールドにある Snake Bridge とカンバーノールド・タウン・センター。(画像は下記wikiより)
整地された景観の中に建てられた"新しい"スタイルの建造物は新興住宅地特有のにおいがする。


CDからデジタル、そしてダウンロードの時代になってもうずいぶんと経つ。レコードにはA面とB面という表裏があり、その二つはそれぞれに意味を持っていて役割があったということなんて、もうすっかり忘れられ、意識すらしなくなってしまった。A面はセールスへとつながる期待がかかるため、作る方も力が入るし、その他営業的な思惑やいろんな要素が絡んでくる。一方B面はというと、そうした条件や制約をさほど気にすることなく、わりと自由に作った曲を並べることができる。なもんで、実験的なことや、何か曲作りで試行錯誤している様が出ていたり、あるいは作りこまれていない分、本来の実力が垣間見えたりと、ファンにとってはミュージシャンの素の部分に近いものを感じることができた。CD時代のカップリング曲には、まだそうした名残が少しあった気はするが、曲のばら売りの時代になると、もうそうした要素は一切見えなくなってしまった。その分を Web や blog などから出てくる情報が補完しているとは思うが、あまり多くを知ってしまうのもまたリスナーの想像力が開かない。


ここからは「カーブレイン」を書いたきっかけって何だったんだろう? という事から巡った推察になる。
「カーブレイン」の歌詞を見ていると、ジェラルドが自分の育った町、そして青春時代(多分、バンドの結成前後)を回想しているようにしか思えない。実際どんな店で、誰のことを歌っているのか全くわからないけれど。ハイスクール時代にバンドを結成した彼、ひとつ当ててやろうという意気込みはそれほど大きくはなかったかもしれないが、やはりミュージシャンをやっているくらいだから、そうした期待を少しくらいは持っていたようには思う。ニュー・オーダーのマネージャーの口利きで、ファクトリー・レコーズと契約しレコードを出したところまでは順調だった。しかし、自分が初めの頃に在籍していたバンドが有名になり、また短い期間だけれども自分のバンドで演奏をしていた仲間(プライマル・スクリームのボビー)もまた別のバンドで売れていくのを見て、何か焦りのようなものを感じはじめていただろうとは思う。スコットランドにある人口約7万人弱のニュータウンで若い日を過ごし、やがてイギリス第二の都市マンチェスターでインディ・レーベルとは言え、名の知られたレコード会社に属するまでになった。しかし、バンドの現在はといえばどうだろう、所属レーベル、ファクトリーを支えている先輩格にあたるバンド(ニュー・オーダー等)を越えることはどうにもできない。レーベルも彼らにはお構いなし(もともとそういう無関心な傾向のある会社だった)。いろんなものが積もってゆく中、彼らはファクトリーを去ると決め、新しいレーベル「サラ・レコーズ」へと移った。振り返ってみると、このあたりがバンドとしてのピークだったように見える。
サラでの移籍後第一弾シングル、そのB面曲のタイトルを、誰も知らないようなローカルな地名から取り、その場所での良き日々を振り返るような歌詞を書いたということは、無意識だったのかもしれないが、何か象徴的なものがあるようにも思えてくる。ここで、B面のセオリーというものを考えてみる。ミュージシャンの素の一面が見えるB面曲というあれ。"Crush The Flowers" をリリースした1989年あたりから、英国ではのちに「Madchester」と呼ばれるようになる、マンチェスター・ブームの兆しが始まっていた。自分が見切りを付けたレーベル、ファクトリーがその渦の中心だった。彼はザ・ウェイクを結成し間もない頃のことを、また思い出す。自分から離れていったものが、なぜかうまくいってしまうという不思議。同じことが二度起こっているような錯覚を、サラでの日々で受け止める。そして、サラから出したアルバム「Make It Loud(1990)」は、マッドチェスター・ブームを意識し、そのダンス・サウンドを思いっきり取り入れた音だった。決して新しいタイプの音ではなかった。
1990年、ザ・タイムスというバンドが「Manchester」という、ほとんどマッドチェスター賛歌といっても過言じゃないくらいの街名を冠した歌をリリースする。ザ・ウェイクの「カーブレイン」とはまた違ったアプローチの音と歌詞だが、何かが細くつながっているような感じがある。


Carbrain - wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/Carbrain
https://en.wikipedia.org/wiki/Cumbernauld


これまでに歌詞を訳したミュージシャン一覧: だいぶタイトル、増えてきた。

The Cure(ザ・キュアー) / Jannine Weigel(ヤンニーン・ワイゲル) / SAHA(サハ)
Wire(ワイヤー) / New Order(ニュー・オーダー) / The Wake(ザ・ウェイク)
Porter Robinson & Madeon(ポーター・ロビンソン&マデオン)
Charity Children(チャリティ・チルドレン) / Angel Olsen(エンジェル・オルセン)




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2017年04月27日

世界の鉄道:雲上の駅を目指すスノードン登山鉄道(ウェールズ)

Csp-SnowdonMountainRailway-Wales.jpg
* 下動画からのキャプチャー画像


湖畔を走る鉄道があったらきっといい光景だろうなと思って、そんな動画を探していた。深い山の緑と遠くにかすむ山の稜線を背景に列車が走り、その姿が鏡のような湖面にも写って二重の世界が見れたりすると、とても絵になるなぁ、なんて思い浮かべながら。そうしたイメージに合うものは見つからなかったが、ウェールズにあるバラ湖鉄道がなかなか風情があってよかった。豊かな緑の中をゆっくりと走る鉄の塊、相反する二つの要素だけれども、歴史を経ているせいかこの場所では意外と馴染みがいい。そして、ウェールズには蒸気機関車が未だ多く走っていることも知る。なんでもウェールズは地下資源が豊富で、石炭もその一つ。産業革命のエネルギー源として潤った地域だということで、蒸気機関車が現役の交通手段として活躍しているのも納得いった。そこから、ウェールズの鉄道動画をいろいろ見始める。バラ湖鉄道は雰囲気あるんだけど、ちょっと地味な感じがしたので、もう少し新鮮な鉄道風景を求めていくうちにスノードン登山鉄道の動画に行き当たった。スノードン山は標高1,085mほどの低い山だが、煙を吐きながら尾根をのろのろと走るここの登山鉄道の光景は、時間を忘れて楽しめる何かがある。標高1,000mちょっとってどんなもんだろう? 僕の知ってる山で照らしてみると、金剛山(1,125m)や桜島(1,117m)よりわずかに低いくらいでなんとなく高さの見当がついた。

さらにもう一つ。ウェールズの蒸気機関車は「機関車トーマス」シリーズのモデルになった事で有名だそうで、確かにナロー・ゲージのこじんまりとした蒸気機関車たちは、それを思わせるシルエットをしている。「機関車トーマス」は、ウィルバート・オードリー牧師が書いた物語「汽車のえほん」を元にして制作されたイギリスのテレビ番組。そこから絵本やアニメの人気シリーズになって現在に至る。僕も子供の頃に読んだか、見た記憶があってちょっと懐かしかった。「スノードン登山鉄道」も「汽車のえほん」第19巻「山にのぼる機関車(原題:Mountain Engines)」に登場。本の中では「カルディーフェル登山鉄道」として描かれている。


Snowdon Mountain Railway 2016 Drone Footage


「機関車トーマス」の原作になった「汽車のえほん」シリーズとそのモデルになった鉄道

W.Awdry-MountainEngines-book.jpg
* 画像は下記リンク先より
Mountain Engines : http://ttte.wikia.com/wiki/Mountain_Engines
山にのぼる機関車:http://ja.ttte.wikia.com/wiki/%E5%B1%B1%E3%81%AB%E3%81%AE%E3%81%BC%E3%82%8B%E6%A9%9F%E9%96%A2%E8%BB%8A


TalyllynRailway.jpg
Talyllyn's No1 Talyllyn shows off new 2015 livery( *画像は下動画より)
https://www.youtube.com/watch?v=V4Xk5Cgw7lQ
タリスリン鉄道は輸送量の減少から1940年代後半に廃線になったが、イギリスの鉄道ファンらがこの鉄道の保存を望み1951年に一部再開、その後ボランティア活動によって残されることになった世界で最初の保存鉄道となった。「汽車のえほん」を書いたウィルバート・オードリー牧師も当時、物語の執筆という形でこの保存運動に手を貸す。オードリー牧師は、廃線危機に見舞われたこのタリスリン鉄道を題材に、汽車のえほんシリーズ第10巻「四だいの小さな機関車」を書き発表した。


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2017年04月19日

33年目の「ニューロマンサー」は新しいカバー・デザインで

WillamGibson-SprawlTrilogy-Gollancz.jpg
Gollancz から、新しいカバー・デザインになって出たウィアリム・ギブスン「スプロール三部作」
表紙のアートワークは、ダニエル・ブラウンによるCG作品。記事中ほどで彼の他作品も紹介してます。
(* 画像は「GOLLANCZ BLOG」より。)


2016年12月8日に、イギリスのSF系出版社ゴランツから「ニューロマンサー」が新たなカバー・デザインとなって発売された。そしてこの続編となる「カウント・ゼロ」と「モナリザ・オーヴァードライヴ」が、今年2017年2月9日間髪を入れずに出たばかり。さらに短篇集「バーニング・クローム」もこの三部作と同じデザイン仕様で、2月23日に発売。計4冊が関連したヴィジュアル・デザインとしてまとめられた感じだ。これ、シリーズで揃えたくなるほどカッコイイ! 今のところ「ニューロマンサー」と「バーニング・クローム(邦題:クローム襲撃)」の2冊だけが日本語訳で読めるが、残り2作は絶版のまま。ハヤカワさん、新訳で復刊してくれないかな?
ゴランツは現在も "S.F. Masterworks" というシリーズで、フィリップ.K.ディックやアーサー.C.クラークの小説をけっこう出している(他、2006-07年にかけては「めぞん一刻」も英語コミックとしてカタログに入っていた。この漫画も同じ80年代に連載され 'The 80's' の代名詞的作品だ)。現社長で英SF界の名物編集者であるマルコム・エドワーズは、J. G. バラードの「太陽の帝国 / Empire of the Sun」を編集していたのでバラードとも接点がある。
P.K. Dick (Gollancz): http://tagong-boy.tumblr.com/post/159398559971/
A.C. Clarke (Gollancz): http://tagong-boy.tumblr.com/post/159377309441/


今回は33年ぶりに(元の出版社から)新たな装いとなって発売された「ニューロマンサー」のカバー・デザインと、それに使われているダニエル・ブラウンの作品について少し触れてみた。以下「ニューロマンサー」のストーリーについてではなく、カバー・イメージから見た「ニューロマンサー」といった感じで、ダニエル・ブラウンというCGアーティストの話が中心になっている。P.K. ディック風に言うならば「ブック・カバーは電脳譚の夢世界を具現化できるか」かな。
ギブスンの小説は、映像を喚起する要素は強いけれども、それらは頭の中で生まれ完結する非現実的なイメージのため、具体的に視覚化するのは難しいだろうとは思う。この彼が描く未来的な世界を、本の表紙パッケージとしてデザインするとなるとなおさらで、これまでに出版されたものをいくつか見てもどこか抽象的なものが多く、イメージの核心をつかみきれてないところがあったし、どれも皆、決定的なイメージになっているとも思えなかった。しかし、今回ゴランツから出た「スプロール三部作」のブック・デザインは、ダニエル・ブラウンという素晴らしいアーティストを起用し、これまでのものとは格段にレベルの違うイメージで、ギブスンの小説世界をたった一枚で表したように思うし、読者はきっとこの新しいブックカバーに何一つ文句いうことなく、納得するんじゃないかとも思う。少し後に引用した「ゴランツ・ブログ」にも書いてあるように、今回ギブスン自らダニエル・ブラウンにコンタクトをとり(もしかすると出版社から紹介されたのかもしれないが)、新しい「ニューロマンサー」の表紙デザインが出来上がった。33年経ってようやく小説にふさわしいイメージがヴィジュアル化されたのを目にし、ギブスンが言葉で綴っていた世界がいかに早かったのかと実感する。


SF小説『ニューロマンサー』が出版されたのは1984年のことだった。
それから実に、30年がすぎた。いま、われわれは、まだ世の中の大部分がアナログだった時代に書かれた“直観”のうち、何が未来を告げていたかを知ることができる。


『ニューロマンサー』からの30年。サイバーパンクは現実を先取りした(WIRED.jp、より)
http://wired.jp/2014/09/20/post-neuromancer/


アマゾン.jp & マーケット・プレイスで、新装ペーパーバックを頼んでみた。
FrontCover-Nueromancer-Gollancz.jpg
文字やデザイン・アクセントとして配置している色塗りチップ箇所は、(エンボスではない)箔押し加工になっていてメタリック感がある。アマゾンや出版社HPに載っている表紙デザインを見た限りでは、通常のCMYK・4色プロセスで印刷したもののように見えるが、実際本が届いて手に取ると、この華やかな金属光りが、マットPPコーティングされた表紙の中でよりくっきりと輝き、少し高級感が出てとてもいい。
日本語訳を読んだあと「ニューロマンサー」の原文がどんな英語なのかは、すごく興味あったのだけれども、以前に出ていたペーパーバック版の表紙デザインがどれもいま一つなところがあって、買うには二の足、三の足を踏むくらいだったりした。でも、Gollancz から新しく出たこのペーパーバックはひと目みた瞬間欲しくなった。
W.Gibson-CountZero-Gollancz.jpg



「ゴランツ・ブログ」の記事の中で、「ニューロマンサー」の新しい表紙がどういった経緯によって出来上がったのかが書かれていたので、少し訳してみた。

"Cover Reveal: Neuromancer!" (GOLLANCZ BLOG)
http://www.gollancz.co.uk/2016/10/cover-reveal-neuromancer/
予備:http://archive.fo/4KBe6
Japanese translated by Tagong-Boy / Original text by Darren ( Oct. 2016 )


2015年の冬、世界がより穏やかで複雑でもなかった頃、私たちは英国での最初の出版社から、ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」が戻ってくるぞ、と発表した。それもなんと、当時の編集者によって! オリオン出版社グループのインプリントであるゴランツは、ウィリアム・ギブスンのスプロール三部作(「ニューロマンサー」「カウント・ゼロ」「モナリザ・オーヴァードライヴ」を含む)と短篇集「バーニング・クローム」の版権獲得を発表し歓喜している。ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」は「1984(ジョージ・オーウェル著)」や「すばらしい新世界(オルダス・ハクスリー著)」と並び、未来社会を示した20世紀で最も影響力を持つヴィジョンの一つとして称されている。
Back in the winter of 2015, when the world was a gentler, simpler place, we announced the return of William Gibson’s Neuromancer to its original UK publisher – indeed, to its original UK editor!
Gollancz, an imprint of the Orion Publishing Group, is delighted to announce their acquisition of William Gibson’s Sprawl Trilogy, comprising Neuromancer, Count Zero and Mona Lisa Overdrive and a collection of short fiction, Burning Chrome. William Gibson's Neuromancer ranks with 1984 and Brave New World as one of the 20th century's most potent visions of the future.



ゴランツの社長、マルコム・エドワーズ曰く:
 「ニューロマンサー」とギブスンの他初期作品を獲得したことは、私が1980年代にゴランツで過ごした最高な出来事の一つだった。そして、それらが本来あるべき場所で復活できることがとても嬉しい。彼の作品は20世紀後期のSF小説の中でも重要なタイトルのままでいる。
Malcolm Edwards, Chairman of Gollancz, said: 'Acquiring Neuromancer and Gibson's other early works was one of the high points of my years at Gollancz in the 1980s, and I'm delighted to bring them back where they belong. They remain absolutely key titles in any account of late 20th century SF.'


ウィリアム・ギブスン曰く: 「ニューロマンサー」とその続編2作、および「(短篇集)バーニング・クローム」が、私にとって英国での最初の出版社、ヴィクター・ゴランツに戻るのを知り嬉しく思う。ましてや、版権を取った当時の編集者であるマルコム・エドワーズの素晴らしい援助の元でなんだから。
William Gibson said: ‘I'm delighted to see Neuromancer and its two sequels, plus Burning Chrome, return to Victor Gollancz, my first UK publisher, and still more so under the excellent auspices of Malcolm Edwards, their original acquiring editor'


私たちは、この独創的なSF作品とその続編の表紙をお披露目でき誇りに思うし、またワクワクしている。
We are now proud and excited to reveal the covers to this seminal work of science fiction and its follow-up volumes.


表紙のイメージは、受賞暦あるアーティスト、ダニエル・ブラウンによるデザインで、コンピューター・グラフィックによって描かれたものだ。そのプログラムは、彼が面白い形を探しながらそのとき追い求めていたユニークな3Dの形状を創るために、フラクタル数学を用いている。彼が自分の好む形を作り出すため分離やひねりを加えた後、プログラムは、エッシャー風「ありえない建築群」の素晴らしいイメージを作成するために、彼のポートフォリオにある建築写真から選んだ素材を重ねていく。
The cover images were generated by a computer program, designed by award-winning artist, Daniel Brown, which uses fractal mathematics to create unique 3-D shapes that he then explores, looking for interesting forms. After he has isolated and tweaked the shapes to produce something he likes, the program overlays elements from his portfolio of architectural photos, to produce amazing Escheresque images of 'impossible buildings'.

* award-winning: 直訳では賞を勝ち取ったという意味の「アワード・ウィニング」だけど、これってどう訳したらいいんだろうと調べてみたら、けっこう難儀な言い回しらしく、訳しづらい言葉みたいだった。ダニエル・ブラウンも特に何か大きな賞をとったというわけでもなさそうだったので、何かぴったりとくる言葉を考えてはみたが思い当たらず、下記ブログ記事にあるように「受賞歴ある」という風にした。意味合い的には(目の肥えた)多くの人から評価されている、という位の感じがした。
http://studio-rain.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/award-winning-2.html


ダニエル・ブラウン曰く: 私はコンピューターのコードを通して建築物を描く実験をしていた。プロジェクトとして、それはまだ初期段階だったし真の目的があるわけでもなかった。そうしたときに、ウィリアム・ギブスンが私に接触してきたんだ。そして、これぞまさに「スプロール三部作」を構想していたものだと言った。神秘的な方法で、そのコードは自身の意図するものを見出したんだ。デザインのためにウィリアム・ギブスンからコンタクトをもらったことは、私が想像しうる限り最高の賛美だよ。それを越える精励賞なんて思いつかないね。
Daniel Brown said: 'I had been experimenting with generating architecture via computer code. As a project it was still in its infancy and without real purpose. Then William Gibson contacted me, and stated it was exactly how he had envisaged The Sprawl. In an uncanny way the code found its own purpose.'
'To be contacted by William Gibson for the designs was about the highest praise I could imagine. There’s no industry Award that can top that.'


* industry Award: industryは「勤勉な」という意味合いのある文語で訳してみたけれど、単純に業界的なという意味合いで、企業が設けた有名な賞のことを言っているのかもしれない。ここは、どんな激励にも勝るくらいのニュアンスでいいのかな。


DanielBrown-NeuromancerSprawl.jpg
ダニエル・ブラウンが「Neuromancer: The Sprawl」シリーズのブック・カバー用に制作した原画。
この作品、ディティールが細かい上、迫力と完成度がありすぎるので、タイトルや著者名等の必要な文字要素を乗せ、パッケージ・デザインとして成立させるのはけっこう難しいと思う。もし僕がデザインをするなら、画面の角部分に細い帯を入れ、サンセリフ系の書体を乗っけるだけにして、極力作品の存在感を損なわないようにするかな。(* 画像はダニエル・ブラウンのHPより:http://danielbrowns.com/


ダニエル・ブラウンのその他作品「 Dantilon:ザ・ブルータル・デラックス」シリーズ
DanielBrown-DantilonBrutalDeluxe.jpg
Daniel Brown - " Dantilon: The Brutal Deluxe " (Flickr)
https://www.flickr.com/photos/play-create/albums

LarungGar-EasternTibet.jpg
写真上:ラルンガル・ゴンパ(色達 / 東チベット・カム)、写真下:ガルダイア(ムザブの谷 / アルジェリア)
* 画像は右リンクより:http://tagong-boy.tumblr.com/post/159674492311/
ダニエル・ブラウンがCGで描いた未来都市作品を彷彿とさせるチベットの僧房群とマグレブの中世都市。
二つを同時に並べてみると、どちらが現実世界のものでどちらが想像上のものか区別がつかなくなってくる。そして、現実にあるこうした一見無秩序に見える街並みを遠目で見ていると、人間が無計画に作り上げた建築群が、実は、誰が決めたわけでもないだろうある法則によって、非常な規則性を帯びて建てられているんじゃないか、といった不思議な事実があることに気づく。人が無意識のうちに、何かのプログラムの一部になり(居住区を造り上げるという)行動をしているかのようで、人間一人一人がまるで誰かが描いた設計情報の一端子にすぎないんじゃないかという奇妙な感覚にもなったりした。これって、ギブスンの描く小説世界ともリンクしているような気がしたり。
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新しくなった W.ギブソン「スプロール三部作」の表紙カバーに使われていた写真から興味をもって、その名を知ったダニエル・ブラウンというアーティスト。彼の作品を最初に見たときは、脳の中で感嘆符が無数に爆発するような衝撃があった。SWに出てくる巨大な宇宙船、スターデストロイヤーを彷彿とさせるようなスケール感あるディティール。この地球上に存在する何かで言うならば、東チベット・カム地方の奥地にある「ラルンガル・ゴンパ(Larung Gar Gompa)」やアルジェリア中部、ムザブの谷にあるイスラム都市「ガルダイア」、あるいはブラジルのスラム街ファヴェーラなんかが真っ先に思い浮んだ。
彼の作品。はじめは実際ある建築写真のテクスチャーをデジタル処理で切り貼りし、ひとつの画像にしているのかと思ったが、フルCGのようなのっぺりとした質感もあったし、でもどこかリアルな陰影もあり、一体彼はどうやってこうした画像をつくり上げているんだろうと不思議だった(もし手作業によるデジタル・コラージュだったとしたら、途方も無い工程になるだろうとは想像つくのでさすがにそうは思えない)。いくつかのWEB記事を読んでいくうちに、彼の制作プロセスがわかってきた。ダニエル・ブラウンはフラクタル幾何学を演算できる・コンピューター・プログラムを自分で作製し、それを使い奇妙な擬似建築構造の形を作り上げ、仕上げにストックしてある古い建築写真のテクスチャーを張り込こんで作品を完成させている。ワイヤードの日本版に、ダニエル・ブラウンについての翻訳記事が載っていたので以下一部引用。



ロンドン在住のデザイナーであり、プログラマーでもあるブラウンは、写真を加工するために新しいデザイン手法「ジェネラティヴデザイン」(コンピューテーショナルデザイン、アルゴリズムデザインとも呼ばれる)の自作ソフトウェアを使用している。彼はそれを使い巨大で複雑な3Dパターンをつくり出し、そこから何かおもしろいものを見つけるまで、ただひたすら探し続ける。

2003年に事故に遭ったブラウンの手には、障害が残ってしまった。そこで彼は、筆や鉛筆を握る必要がないツールを探し求めた。

「架空の街をつくるために、アルゴリズムをプログラミングしていくのです。自ら描くわけでもなく、3Dモデルでつくってもいないような建物や構造物が、この街には存在します」とブラウンは語る。



「アルゴリズム」という名の建築家が街をつくってみたら(WIRED.jp、より)
WIRED.jp (2016.08.05) :http://wired.jp/2016/08/05/monstrous-alien-cities/
英語元記事:https://www.wired.com/2016/06/monstrous-alien-cities-built-computer-algorithm/


ニューロマンサーの初版本(イギリス版 & アメリカ版)とカバーイラスト

Neuromancer-1stEd-UK-USA.jpg
* 上画像は右リンクより: http://tagong-boy.tumblr.com/post/158299818446/
英国「ヴィクター・ゴランツ社」の初版本ハードカバー(left)
米国「エース・ブックス社」のペーパーバック初版(centre)
ジェイムス・ウォーホーラによる、米・ペーパーバック版の表紙絵(right)

ニューロマンサーは1984年に出版。この初版本がどんな表紙だったのかと、今いったいどれくらいの値段になっているのかが興味あって「abebooks.com」やオークション・サイトなどを見てみたところ、おおよその相場がわかった。イギリスのSF系出版社「ヴィクター・ゴランツ」の黄色いハードカバー本が希少度高いようで、平均 2,000 - 3,000ドル(1USD=115円換算で23〜35万円)の値が付いている。けっこうビックリした。サイン本でなければ2,000ドル以下でもあるが、買う人いるのかな?
アメリカでは「エース・ブックス」から出版されていて、こっちはけっこう安い(といってもそれなりに高いんだけど)。エース・ブックス版のハード・カバーはおおよそ200ドル程度(2万円ちょい)で、サインが付いていても同じ位、ゴランツ社のと比較するとなぜか人気が無い。そして、ペーパーバックは100ドル未満であり、ペーパーバックにサインが付くと急に高くなって800ドル位になる不思議。米のハード・カバー版はデザインがいまひとつだったので今回は画像アップしなかった。エース・ブックス版のペーパーバックはいかにも80's風のダサダサ・デザインで、なかなか味わい深い。ちなみにのヒューマノイド風の表紙絵は、アンディ・ウォーホールの甥(兄の息子)ジェイムス・ウォーホーラ(James Warhola)が描いている(漫画「コブラ」に出てきそうなキャラクターだ)。
またこのエース・ブックス社はウィリアム・バロウズの処女作「ジャンキー(1953年)」を出した出版社でもあって、こうしてみると何かひと時代築いた人や時代の流れを変えた人たちが間接的につながっているんだなと。「ジャンキー」を出版した時、バロウズは「ウィリアム・リー(William Lee)」というペンネームを使っていた。


日本版「ニューロマンサー」の表紙デザイン
W.Gibson-Neuromancer-Hayakawa.jpg
* 上画像は右リンクより: http://tagong-boy.tumblr.com/post/159598306186/
奥村靫正デザインによる「ニューロマンサー」ウィリアム・ギブスン(訳:黒丸尚)の表紙カバー
と「S・F・X」細野晴臣 with フレンズ・オブ・アース(1984年末リリース)のジャケット。
上二つのカバーは、ほぼ同時期に制作されたデジタル・コラージュだが、短い期間にも変化が見られる。この頃は、今ではお馴染みとなったMacやイラストレーター等を使っての DTP デザインがまだ普及してなかった為、デジタル・コラージュといっても、手で写真を切り貼りしたものを複写したり、印刷の製版フィルムで仕上げたりと、アナログな手法でデザインするしかなかった。そうした状況の中で、そのとき一番新しかっただろう手法をもって視覚化しようと工夫した跡は、今見ても何か味わいがある(上リンク先に「ニューロマンサー」の版下原画についてのBLOG記事あり)。初代 Macintosh は1984年の発売。DTPとして実際に使えるようになったのは1990年以降だった。'90年代は写植文字をトレスコという機械で目測調整しながら拡大縮小し、それらを版下台紙の上にレイアウトしデザインしていた。


ニューロマンサーの日本語訳は1986年(文庫は同年7月)、早川書房から出ている。表紙カバーのデザインはYMOのジャケット・デザインで知られている奥村靫正が担当している。彼は立花ハジメと並んで、海外のニューウェーヴの動きに敏感に反応し、わりと早い段階からデジタル技法を取り入れたグラフィック・デザインをしていたように思う。そして、フォーマットから構築してかっちりと仕上げるタイプのデザインではなく、感覚的に文字やオブジェクトを配置していくデザインが特徴で、けっこうまとまり感のない緩いところがあり、このあたりは多分好みが分かれそう。1980年代はメディアとしてのヴィデオ映像が新しく、何か未来的・電脳的な印象があった。テレビモニターの走査線とヴィデオの(デジタル風味な)かくかくしたドットは、ヴィヴィッドでぺったりとした色が加わることで、よりいっそう人工的、かつ現実の世界を超えたイメージを作るのに役立っていたんじゃないかと。日本版ニューロマンサーのブック・デザインは、そうしたデジタル・イメージをうまく取り入れて、当時としては、けっこう新しいところを行っていたように見える。この頃は(ヴィデオ・アートの父)ナム・ジュン・パイクの映像&インスタレーション作品が現代美術の世界では話題だった(ブライアン・イーノも1980年代はヴィデオ・アートに熱を上げて、いくつかインスタレーション作品を制作していた)。奥村靫正をはじめ、日本のデジタル系グラフィックも当然、その影響は多少受けていたんじゃないかと思うんだけど、どうだろう。


NamJunePaik-VideoArt.jpg
"Global Groove" (1973) / "Good Morning Mr. Orwell" (1984)
Nam June Paik (MoMA): https://www.moma.org/artists/4469
* 上画像は、ナム・ジュン・パイクの映像作品から。



「ニューロマンサー」の冒頭文について流れたある噂


"The sky above the port was the color of television, tuned to a dead channel."港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。



「ニューロマンサー」は上のようにカッコイイ一文で始まる。日本語訳も絶妙で、何かこれだけでもう、未来的なこの物語の世界にすっと入り込める感がある。ちょっと前に、アメリカのテレビの「空きチャンネル」が、実は日本と同じモノトーンの砂嵐じゃない、という情報がツイッターで流れ、ああ確かにこの小説はアメリカ人作家の書いたものだから、日本で見るイメージをそのまま当てはめてもいけないなと思ったり。そこから少し調べては見たけれど、アメリカのテレビの砂嵐が一体どんなものなのか? 本当に目の覚めるような真っ青な色なのか? はよくわからなかった。ましてや出版当時、1980年代初頭のテレビの空きチャンネルがどうだったかなんて見当もつかない(けっこう1980年代の映像・資料等はネットアーカイヴに無かったりする)。そのツイートに対する色々な考察・反論なんかが寄せられたりしてはいるものの、(画像や映像がないもんだから)結局のところ決定的な結論には至らずに終わっている。'dead channel' と呼ばれるくらいだから、彩度ある色じゃなく、何か死を連想させる色、黒、もしくはグレーであるだろうと、多くの人は想像するだろう。まぁただ、古い本の場合、その当時、その時代の状況を考え想像しながら、書かれていることを(先入観なく)読み取っていくのは大事なことだなと改めて思う。


ニューロマンサーの「港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。」って冒頭、長いこと砂嵐の灰色をイメージしてたけど、アメリカのテレビの空きチャンネルは真っ青つまり快晴のイメージだったらしいと聞いてカルチャーショックを受けたのは結構最近のことだった。


■ 九岡望さんのツイート、より(2014年11月27日)
https://twitter.com/kuokanozomu/status/537998003810758657
Twitter-Kuokanozomu-27.Nov.2014.jpg




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